メガネを買ったらいつのまにか世界の裏側を見る権利も手に入れていた件について

蒼雪 玲楓

おかしなメガネを買ってしまった

 人間が視界から得る情報というのはとても多い。

 聴覚や触覚の他の五感は追加の情報を得ることに使われたり、視覚が使えなくなった場合の代替として用いることもある。


 視力の良し悪しによって見える世界が変わると言っても過言ではないかもしれない。


 だからこそ、視力が悪くなれば何かしらの手段を用いてそこを補おうとするのは当然だ。


「だからってさ、物理的に見える世界が変わるのはおかしいじゃん?」


 現実逃避の為に人間と視力の関係性について考えてはみたものの、結局今の状況に変わりはない。

 更なる現実逃避の為に今朝からの一連の流れを振り返ってみよう。



 事の発端は普段使いしていたメガネを不注意で壊してしまったこと。

 一応、前に使っていた予備のメガネはあったが度が少し

 合っていないものだったからそれを掛けて新しいものを買いに出掛けた。


 運が悪いとそういう事態は連鎖するのか、普段お世話になっているメガネ屋は店都合でしばらく休業。他にパッと思い付いた店は少し前に潰れたりしていて手詰まりか、なんて思っていたその時都合良くメガネ屋を見つけた。


 今までその場所にそんな店なんてなかった気はしたし、店の雰囲気もどこか怪しい感じがしたけど、その時は焦っていたから入らないという選択肢が浮かばなかぅた。


 今思えば、そこで入るのを躊躇しておけばこんなことにはならなかったんじゃないかとは思う。


「すいませーん」

「あら、お客さんなんて珍しいわね」


 店に入って出迎えてくれたのは妖艶な、という言葉が似合うお姉さんだった。店の雰囲気と合わせてとてもミステリアスだ。


「それで、何をお探しかしら?」

「えっと……」


 メガネ屋なのに何をお探しって変なことを聞く人だなとは思いながらも自分の視力や使っていたメガネの情報を伝える。


「なるほどね、少し待ってて」


 そう言うとお姉さんは店の奥へと引っ込んで行ってしまった。

 そして待つこと十五分くらい。お姉さんが、さっき伝えたデザインと同じ雰囲気のメガネを持って戻ってきた。


「たぶんぴったりだと思うけど、試してもらえる?」


 言われるがままにそのメガネを掛けてみれば本当にぴったりだった。

 壊してしまったメガネと同じくらい、あるいはそれ以上に視界がはっきりとした。


「これにします。いくらですか?」

「えっとね、これくらいかな」


 そうしてお姉さんが提示してきたのはおそらく相場よりも少し安い金額。ラッキーだなと思いながらも支払いをして店を出た。



 そして店から離れて少ししたときに違和感に気がつき今に至る、というわけだ。


「というかさ!!あらためて考えたら、おかしいところだらけじゃん!?」


 店の中にいたときはなぜかそういうものだとして流していたけど、視力の情報を伝えただけで完全にぴったりな度のメガネを用意するのはおかしい。


「まあ、どう考えてもこれ普通のメガネじゃないからそんなのほんと今更ではあるけどさ……」


 少しだけ現実を見るために、メガネを通して見える風景に意識を戻せばそこには狐やタヌキといった動物、ここまではまだいい。

 おかしいのはここからだ。空飛ぶ髑髏に火の玉、それ以外にも明らかに現実に存在するとは思えない生物がたくさん見える。


 そんなものは今まで見えたことなかったし、メガネを外すと見えなくなるのだから原因はメガネにあると言っていいだろう。


「え、いやほんとにどうするのこれ……お金とかもうないんだけど」


 相場よりも安い金額でこのメガネを買ったと言ってもそれなりの金額であることに変わりはないし、あらためて別のメガネを買う余裕も正直ない。


 となれば、しばらくの間このメガネとそこから見えるものと付き合っていくしかないわけで。


「えぇ、大丈夫かこれ……」


 変なことにこれ以上巻き込まれないようにと願いながら一旦帰路につくのだった。



 P.S. この後めちゃくちゃ巻き込まれた

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