第26話 暴力には屈しない

 樹君は、冷静に男のこぶしかわした。

 その次も、その次も何度となく男の攻撃を躱し続けた。しかし、樹君は次第に息が上がり、遂に男の拳を顔面に喰らい吹き飛ばされた。。


 男は、吹き飛ばされた樹君の上に馬乗りになった。

 そして、ここぞとばかりに樹君を何度も殴りつけた。

 室内に、痛々しい音が響き渡った。


「やめてぇ!もうやめて下さい!」


 ワタシが泣き叫ぶと、樹君は男の腕を押さえつけ、顔を上げてワタシを見た。


「雫玖さん、ボクは大丈夫だよ。先に逃げて」


 樹君は、ボコボコになった顔でワタシに優しい顔で微笑んだ。きっと、ワタシを安心させようと無理をしているに違いない。

 ワタシは只々泣くことしか出来なかった。


「おい、お前さ……腕を押さえつけられる力あるなら、何で殴り返してこねぇ?」


 男は、少し首を傾けた。


「言ったろ?ボクは暴力が大嫌いなんだ。それより……今、?ボクじゃなく、雫玖さんにね」


 樹君は、決して負けてはいなかった。むしろ、男の方が樹君に怯え始めた。


「お前、きっもち悪いなぁ?この状況下でよく言うぜ。そんな状態でどうやって戦うんだよ?息もだいぶ上がってるし」


 確かに、樹君は肩で息をしている。相当辛いのだろう……ワタシがどうにかしなければ。


「雫玖さん、馬鹿なマネだけは絶対しないでね?」


 樹君は、また優しく微笑みかけてきた。


 ワタシはドキッとした。樹君に心の中を覗き込まれたように感じた。

 

 でも、でもどうするつもりなの?樹君……


「おい、イケメン君よ。ここからどうするつもりだ?あ?コラッ」


 男が樹君の胸元を強く引っ張り上げると、シャツのボタンが弾け飛び、床に転がった。


「ボクは決してくっしない。君が諦めて帰るまで……あらがうだけだ」


 樹君は、男を挑発するように血に染まる口角を上げた。


「この野郎!!」


 男はキレた!引っ張り上げていた樹君を、床に振動が走るほど強く叩きつけた。


 そして……恐ろしいコトが起きてしまった。


 しかも、こんな最悪の形で……ワタシは樹君を、広瀬樹君を思い出すコトとなる。



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