第23話 女性に恥をかかせるなんて

 広瀬樹ひろせいつき十八歳


 その驚くべき正体に、岩田美紅いわたみくは動揺した。二十三年間、色々な出会い、経験をしてきたが、こんな男は初めてだった。と言うより、もはや漫画やアニメの世界での出来事のように思えた。


「美紅ちゃん、ボク そろそろ帰るね。雫玖しずくさんが心配してるだろうから……それと、この事を雫玖さんには……」


 樹は、申し訳なさそうに美紅を見た。


「……うん、分かった。麻宮あさみや先輩には秘密にする。だから、最後にひとつだけワガママを……。もう一杯だけ、付き合って……」


 美紅は、少し悲しげな目で樹にワガママを言った。


「勿論だよ!じゃあ、もう一杯だけご馳走になります。美紅ちゃんのオススメを」


 樹は、やっと美紅の気持ちに気づいた。知らずに彼女の好意を振り回し、傷付けた自分に腹が立った。


 こんなに良い女性ヒトを……。


「ちょっと、席を外すね」


 美紅は目に涙を溜めて、化粧室へと向かった。


 暫くすると、グラスを二つ手に持ち戻ってきた。


「カクテル、注文しておいたよ!オ・ス・ス・メ……のを!」


 美紅は、明るく振る舞い樹にカクテルを手渡した。


「本当にゴメンなさい、それから……ありがとう」


 樹は、伏せ目がちに気持ちを伝えると、美紅とグラスを合わせた。


 樹は、美紅オススメの色鮮やかなカクテルを一気に飲み干した。


「どうかな?樹君……」


 不安そうに見つめる美紅。


「うん!凄く美味しいよ!今まで飲んだジュースの中で一番美味しい!……あ、カクテルか」


 二人は顔を見合せて笑った。




 それから数分経った時だった。

 樹に異変が起き始めた。


「あれ?ご、ごめん……なんだか凄く眠い」


 そう言うと、樹はカウンターの上に頭をもたげた。


 重い瞼を閉じる直前、美紅の不敵な笑みと、おぞましい言葉が脳裏に焼き付いた。



「アタシに恥をかかせるなんて、絶対に許さない。おやすみなさい、ボク」


 美紅は、空になったの袋を、意識の遠のく樹の目の前で振って見せた。



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