第21話 その頃ふたりは……

「で?……ヤッたの?」


 伽椰子かやこのどストレートな質問に、雫玖ワタシの顔は火が出るように赤くなった。


「そんなワケないでしょ!出逢ってまだ五日だよ!」


 しかし、そんなワタシの言い訳は、ぐに論破される。


「アンタね、出逢ったその日から同棲してる方が、んなワケあるかっ!だよ」


 た、確かに……。


「うーん、まぁでもさいつき君は雫玖しずくの事を前から知ってるんでしょ?!だったら彼からすれば、初めて会ったワケじゃないね……アンタは分かったの?出逢いの経緯」


 正直、全く思い出せていないワタシは、頭をひねった。


「考えられるのは、図書館の利用者さんとか、伽椰子と行く居酒屋の店員さんとか……あっ!わ、分かったかも!」


 ワタシのアンテナにある事が引っかかった!


「なになに、早く言いなさいよ」


 急かしてくる伽椰子は、恍惚こうこつの表情を浮かべていた。


「ワタシ、スマホのオンラインゲームにハマってるんだけど、そのゲーム内で何人かの男性の友達になったの。その中のひとりかも?!」


 ワタシはスマホをトートバッグから取り出し、ゲームを起動させた。


「へぇー、アンタこういうの好きね。どんなゲーム?」


 伽椰子はゲームに興味は無い、冷めた顔で、いたしかたなく聞いてきた。


「えっと……なんか、こう自分の村作るやつ。んで他のユーザーさんと友達になれる……あっ!!」


 伽椰子は、ワタシの辺りに響くような声に、ビクッと身体を震わせた。


「ちょ、ちょっと何なのよ!もぉ」


「あ、ごめん!思い出した……樹君、ゲームどころか、スマホ持ち歩かない」


 伽椰子は、天を仰ぎため息をひとつ着いた。


「どうしよう……ねえ、伽椰子。どうしよう……今頃、美紅みくちゃんと樹君は、二人は……二人は今頃……嗚呼ああっ!!」



 ↓

 その頃は、仕事を終えて繁華街にいた。


「ねぇ樹君、彼女とか……いるの?その、地元とかに」


 岩田美紅は、そっと彼の顔を伺った。


「地元?ああ、いないよ。美紅ちゃんは彼氏さんいないの?」


 樹は、美味しそうなお店をキョロキョロと探しながら質問を返した。


「え?アタシ?!……いたけど、別れた。彼の浮気癖が酷くて」


 美紅は、彼が自分に興味があると確信し、笑顔になった。


「それは大変だったね。あっ、あのお店どう?ステーキ専門店だって」


 樹は、店の立て看板を指差し、美紅に微笑み掛けた。


 店内はカウンター席のみ。カウンターに沿って長い鉄板があり、オーダーしたお肉をシェフが焼いてくれる少々お高いお店だった。


 樹はサーロイン250g、美紅はヒレ150gを注文した。

 お肉の香ばしい匂い、肉汁が鉄板の上でじゅうじゅうと食欲をそそる音を立てている。



「いただきまーす!」


 樹は、熱いステーキを口いっぱいに頬ばった。


「あっちぃ!ハフハフ……!美紅ちゃん、これヤバいよ!」


 樹は、肉の美味さに感動し目を丸くして美紅を見た。


 そんな純粋な樹の目を見て、美紅は優しい笑みを浮かべた。


 二人はステーキを堪能して、店の外に出た。

 夜になりかなり冷え込んでいた。しかし、お肉を腹いっぱい食べた樹のカラダは火照っていた。


「美紅ちゃん、お高いお肉をご馳走になってなんか申し訳ないな……。ありがとう」


 美紅は、歳上という事もあり、食事代を出していた。

 しかし、それには目論見もくろみがあった。


「満腹になったみたいで良かった。ねぇ、樹君……その代わりと言ったら交換条件みたいでアレなんだけど、この後一件だけバーに付き合ってくれないかな?」


 美紅は頬を赤く染めて、上目遣いで樹を見つめた。


「あ、全然いいよ!未成年だしお酒は飲めないけど」


 樹は、後ろ頭に手を置いて苦笑いを浮かべた。


「あ、勿論!お酒を勧めるワケじゃないの、美味しいジュースもあるし」


 二人は、美紅行きつけのバーへと向かった。横並びに歩いていると、たまに美紅の腕が樹に触れていた。

 鈍感な樹は、何も気が付いていない。美紅の気持ちも理解しておらず、二人っきりの食事も喜んで受けていた。


「ここよ」


 美紅が指差したバーは、煉瓦レンガ造りの壁に、お洒落なアンティーク調の木製扉。当然、樹にとっては未知への扉だ。


 美紅は、慣れた様子で扉を開けた。


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