第17話 ラッキースケベと言葉のナイフ

 冬麗ふゆうららな通い路、雫玖ワタシの隣には、いつき君が並んで歩いていた。


 ワタシ達のコトを、行き交う人々はどんな関係だと思うのだろう?

 カップル?……は、流石さすがに無いか。

 姉弟きょうだい?……これだろうなぁ。嗚呼ああ、なんか虚しい。


「ねぇ雫玖さん。こうやって二人で歩くの、雫玖さんがボクをマンションに誘ってきた以来だね」


 「さ、誘っ……ちょっと、変な言い方しないでよ。歩いている人達に聞かれてたら恥ずかしいでしょ」


 全く……無邪気な笑顔で、なんて事を言うのかしら。


「いや、大丈夫だよ。だってボク達にしか見えないでしょ?」


 うっ!


 やっぱり樹君もそう思っていたのか。わかるよ、わかる。そりゃそうだよね……歳が離れてますから。


 な、泣きたい。


 頭の中がモヤモヤぐるぐるしていると、いつの間にか図書館しょくばに着いていた。


「樹君、ここからキミはワタシの甥っ子、そしてワタシは上司だよ」


 ワタシは、彼の気持ちを切り替えて貰おうと、真剣な表情を見せた。


「雫玖さん!失礼でしょ!もうその事は謝罪したし、ボクも子どもじゃ無いんだからね!」


 樹君はのように頬っぺを膨らませた。


 ちっ……可愛い。


 心の準備が出来てなかったのはワタシだけだったようだ。もっとしっかりしなきゃ!お客様や美紅みくちゃんに迷惑を掛けられない。


 スタッフルームへ入り、いつものように着替えを始めた。ロッカーの中からハンガーを取り出し、コートとマフラーを掛け、ニットとキャミソールをまとめて脱いだ。

 そして視線を感じる。なんか、こうビームみたいなやつを……。


「ちょっと!何見てんのよ、変態!」


 ワタシはニットを丸めて抱えて、ブラを隠した。


「へ、変態って……酷いよ!雫玖さんが勝手に脱ぎ出したんじゃないか?……まあ、見たけど」


 樹君の視線は、完全にのモノだった。


「とにかくキミはトイレでも行って着替えて」


 いい歳して、ワタシは女学生のようにアタフタしていた。


「わかったよ……もう」


 樹君はブスくれた顔でスタッフルームのドアを開けた。

 そしてワタシに視線を送りながらゆっくりゆっくり閉め……る直前、


「雫玖さん、胸あるね」


 そう言い残して……逃げた。



 その後直ぐ、美紅ちゃんが出勤してきた。


「おはようございます、麻宮先輩。あれ?どうしたんですか?赤い顔して」


「おはよう、いや何でもないよ!今日も宜しくね」


 いつもの挨拶を交わすと、美紅ちゃんは着替え始めた。私服を脱いで、下着姿になる。

 そして……は、タイミングを計ったかのようにトイレから戻って来た。


「あ……ご、ごめんなさい!」


  広瀬君は赤面してドアがゆがんで見える程激しく閉めた。


「広瀬くーん、着替え終わったよ。入っておいで」


 彼は申し訳なさげに入室してきた。


「もう、広瀬君エッチなんだからぁ。でも良かった、ヨレヨレの下着を付けてこなくて」


 美紅ちゃんは、肩をすくめ色気のある笑みで彼に視線を送った。


 か、勝てない……美紅ちゃんがところを初めて見たけど、こりゃ大半の男の人はイチコロだろう。


 現に、樹君も顔を赤らめて嬉しそうに美紅ちゃんをチラチラ見ている。


 ダメだ!今は仕事に集中しよう!


「広瀬君、今日から美紅ちゃんに付いて色々教えて貰って下さい」


「え、あ、はい……」


 彼は、少しだけ戸惑ったように見えた……と、思いたい。


「広瀬君、宜しくね」


 彼女はなんと、彼にウインクをした。


 ウ、ウインクしてる女性ひと初めて見た!漫画やアニメの世界だけだと思ってたわ……。


「宜しくね……あ、違、宜しくお願いします!」


 彼女のウインクに惑わされたのか、彼は言葉遣いを間違えてアタフタした。


「あら、全然タメ語でいいよ!アタシ達、五歳違わないし、ねっ」


 うっ!……ワタシは、キレッキレの言葉のナイフで切り裂かれた。

 悪気わるぎが無い分、余計に刺さる。


 ワタシは、仕事モードに切り替えると、書架しょかを二人に任せ、展示コーナーの設置に集中した。



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