第15話 甥っ子です……

「えーっと、うちは図書館なので破天荒な方は採用出来兼ねます。お引き取りください。さようなら」


 麻宮雫玖ワタシは影男くん……いや、いつき君と目も合わせず不採用を言い渡した。


「えーっ!そりゃ酷いよ


 ええええっ!!?ちょっ……今、名前を呼んだ?嘘でしょ?


「あれ?もしかして麻宮あさみや先輩のお知り合いですか?」


 可愛い後輩の岩田美紅いわたみくちゃんは、目を輝かせてワタシの顔を覗き込んだ。


「はい、実は雫玖しずくさんとしてます」


 満面の笑みを浮かべる樹君の言葉に、

 ワタシは全身の毛穴が開いた。


「ええっ!もしかして彼氏さんとか?」


「いえ、ボクは婚約し……」


「甥っ子よっ!!冬休みを利用して家に泊めているの。ねっ、?」


 ワタシの鋭い視線に○気を感じた樹君は、震える小さな声で二つ返事をした。


「ちょっと、麻宮先輩こっちへ」


 美紅ちゃんは、ワタシの手を引いて彼から離れた。


「本当に甥っ子さんですか?めちゃくちゃイケメンじゃないですか!やっぱヘプバーン似の麻宮先輩の家系はみんな美系なんですね!」


 美紅ちゃんは、可愛らしい顔をピンク色に染めて鼻息を荒くした。


「アタシ、樹君の事?」


 ワタシは思わず口をあんぐりと開いて、美紅ちゃんと目を合わせた。


「ででで、でも樹君は彼女さんいるみたいよ?」


 ワタシは、口角をヒクヒクさせ、精一杯の作り笑顔で答えた。


「関係ありません!アタシ、樹君を振り向かせてみせます!」


 美紅ちゃんは力強く拳を握り、弓を引くようにガッツポーズをした。


 何なのよ……この展開は?二十三歳の美女に、二十九歳のオバサンが勝てるワケ無いじゃない!


 こんな出来レース……有り?


 ……あれ?てか、美紅ちゃんがもういない。


「樹くーん、麻宮先輩がって!アタシは岩田美紅です。宜しくねっ」


 彼女は、首をちょっとだけ横にして樹君に微笑みかけた。


「いやぁ、嬉しいなぁ。面接合格だ!ありがとう、雫……いえ、叔母さんオバサン


 お、おば……


 ………


 ………



「美紅ちゃん、受付お願い。はワタシと一緒にスタッフルームへ来てちょうだい。をします」


 ワタシは、樹君の手を強めに引っ張り、スタッフルームへ連れて行った。


「樹君!何なのよ?一体どういうつもり?」


 ワタシは、声を荒らげ樹君に詰め寄った。


「だって……少しでも雫玖さんの傍に居たくて。それに、ほら……図書館の仕事ってそうだし」



 ……っ!



 パンッ……という乾いた音が室内に響き渡った。


 樹君の左頬は赤くなり、ワタシの右手のひらはジンジンと痛みを帯びていた。


「世の中に楽な仕事なんて何処どこにも無い!皆、生活の為社会の為に汗水流して頑張っているのよ!図書館司書だって、そう。ただ受付業務をしているだけでは無いのよ。書架整理、イベントの企画、地域への広報活動やデータ収集、本の修繕だってするのよ」


 ワタシは、周りが見えなくなる程、熱くなっていた。


「ワタシは誇りを持って仕事をしている。樹君が社会に出た事があるかは知らないけど、仕事を馬鹿にするなんて最低よ!そして……悲しいよ」


 よりによって、樹君がそんな事を口にした事が悲しくて、悔しかった。


 ワタシは目を赤くして涙を溜めた。

 でも、決して流すコトはしなかった。


 樹君は、俯き動かなくなった。


「失礼しまーす。麻宮先輩、受付が混雑してきたのでフォローをお願いし……ま……」


 スタッフルームへ飛び込んできた美紅ちゃんは、ワタシ達が醸し出した空気を察して口ごもった。


 イケナイ……仕事に集中しなければ!

 美紅ちゃんやお客様に迷惑を掛けることはあってはならない。


「美紅ちゃん、受付ひとりにしてしまってゴメンね!ぐに行く!」


 ワタシは、俯いたままの樹君に声を掛けること無く、お客様の待つ受付へと急いだ。



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