第14話 バイトの面接に来た男
自宅の最寄り駅から3駅、森林公園の中に朝日を浴びて煌めく、一面ガラス張りの大きな建物。
それが、ワタシの働いている図書館だ。
広い玄関ホールを抜けて、ワタシは『STAFF ONLY』のドアを開けた。
「おはようございます!」
セーフッ!
ワタシは出勤時間2分前に、タイムカードを押した。真冬なのに、服の中は汗で湿っていた。
「あれ?
「朝から
ワタシは荒れた呼吸を整えて、肩まである黒髪を後ろでまとめた。
白いブラウスに黒のパンツ、黒のエプロン姿に着替える。制服がある訳ではなく、決まりも無いが、ジーンズのようなカジュアルはNG。お客様に失礼の無い服装でなければならない。
開館前、美紅ちゃんと一緒に
「美紅ちゃん、彼氏さんとは上手くやってる?」
この何気無い日常会話が、
「別れました。浮気が酷かったので……やっぱ誠実な
「あ……そうだったんだ?でも美紅ちゃん綺麗だし明るいし、
ワタシの言葉に、美紅ちゃんは柔らかな笑みを見せた。
「そういえば麻宮先輩ってあまり男の話聞かないけど?どうなんですか、そっちの方は?」
うっ……タイムリーな話題になってしまった。まあ、どうせプライベートのお付き合いは無いし、いっか。
「うーん、ワタシは全然だよ。売れ残った
(……つい3日前までは)
「へぇー。ンなこと言って遊んでるんでしょ?先輩アレに似てるし……えーっと、あ!オードリー・ヘプバーン!」
美紅ちゃんは、あまりにありえない事を口にした。いや、ギャグか?ギャグなのか?アー、ギャグね!
「ちょっと〜!それ冗談キツいよぉ、傷つくわ……マジで」
「へ?いや、逆にマジですけど?よく言われません?こないだもココの男性の利用者さんに聞かれましたよ?あのヘプバーン似の女性は旦那さんとか彼氏いますか?……的な」
美紅ちゃんは、正真正銘真顔で答えた。
「え……?」
ワタシは、厚さ20cmほどの百科事典を足の甲に落とした。真っ赤な顔で足を押さえるワタシを見て、美紅ちゃんは館内に響き渡る笑い声を上げた。
開館前で良かった……。
「あ、もうすぐで開館ですね!アタシ先に戻ります」
美紅ちゃんは、ササッと書架整理を済ませて、足早に事務所へ戻って行った。
「え?ちょっ……ヘプバーンの続きは?」
気になる……非常に気になる話題だわ。
開館と同時に沢山の利用者さんが訪れた。ワタシ達はコセコセと動き回った。
12:00前になると、少し客足が途絶える。
利用者さんは、館内に併設されているレストランやカフェに移動するのだ。
ホッとひと息……という訳にはいかない。今日は冬休み短期アルバイトさんの面接があるのだ。
「あ!麻宮さん、アレじゃないですか?面接の人……」
美紅ちゃんが小さく指をさした入り口に目をやった。
陽の光を背中に受け、逆光で影しか見えない。
その人は、突然しゃがみ込んだ。
「え?彼、何をしてるのでしょうか?」
美紅ちゃんは少し身をひいて、ワタシの背後から顔だけ出した。
しゃがみ込んだ影男くんの、お尻が上がったように見えた。
「ク……クラウチングスタート?」
予想通り、影男くんはスタートを切ると、物凄いスピードでこちらへ向かって来た。
「うわっ!ちょっと、何?何なの?」
ワタシは、美紅ちゃんと身を寄せて、ギュッと拳を握りしめた。変な奴だったら美紅ちゃんを守らなきゃ!
なんとっ!
影男くんは、まるで走り幅跳びのようにジャンプして、セキュリティゲートを飛び越えた。
ほんの一瞬だけど、ワタシには影男くんに羽が生えているように見えた。
まるで、天使みたいに……。
影男くんはキレイに着地した……が、バランスを崩し、コルクフローリングに尻もちをついた。
「痛ったぁ!」
え?はっ!
そそ、その声……その後ろ姿は……
影男くんは、尻もちをついたまま両手を突っ張り棒にし、首を逆さにもたげて挨拶をした。
「あ、アルバイトの面接に来ました。
う、嘘でしょ?……何その可愛い笑顔は?夢?……あ、幻か?!
ワタシは、青ざめた顔で現実逃避をしたが、影男くん……いや、樹君は、身軽に跳ね起きると受付カウンターに両肘を着いて、
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