第5話 元カレはお医者様(難アリ)
そもそも、
ワタシがまだ
希望に満ち溢れ、地元の総合病院に入職した。厳しい仕事ながら、とてもやり甲斐があり辛い事もさほど苦にならなかった。
やり甲斐の他に、仕事を頑張れる理由もあった。
それは、とても優しく仕事も出来る男性医師が、いつも励ましてくれたことだ。
正直、ワタシはその先生に好意を抱いていた。
とある日、その先生と休日が重なった。
すると、先生はワタシを食事に誘ってくれたのだ。
ワタシは、まるで初デートのように浮かれていた。
動画サイトで可愛いメイクを一夜漬け。
ファッションは、当時流行りの花柄のフリルワンピースにサッシュベルト、かごバッグを腕にかけてデートに
デートはありきたりだけど、先生の外車でドライブして、美味しいフレンチをご馳走になった。
その日は何もなく、家(実家住み)まで送ってもらった。
車を降りる時、なんと先生もワタシに好意を持っているコトを伝えてきた。
勿論、ワタシも同じ想いだと言うことを伝えた。
でも、何故かお付き合いして欲しい言う言葉は無かった。
その時は、奥手なのかな?とか、もしくは言わずと彼女になれたのかな?と思っていた。
けど……
先生の愛は……ねじ曲がっていた。
勤務中、先生に呼び出された。
ワタシは忙しい合間を縫って、先生のいる診察室へと向かった。
コンコンコン……
「失礼します」
「やあ、忙しいのにゴメンね」
先生は優しく微笑みかけてきた。
「あの、どういった御用でしょうか?」
ワタシは、一瞬でも先生の顔を見ることが出来て嬉しかったが、それよりも仕事の方が気に掛かっていた。
「
ワタシは先生に何かを手渡された。
「え?」
ワタシは自分の目を疑った。
先生から手渡された物は女性モノの下着だったから……。
「麻宮さんの為に僕が選んだんだ。今日はそれを着けて仕事をしてよ」
その時の先生の微笑みは、いつもの優しいそれとは違った。
「あの……ごめんなさい。患者さんが待っているので」
ワタシは先生のデスクに下着を置いて、診察室から逃げるように出た。
ワタシは困惑した。
けど、先生も男の人だ……そういう欲求が出たのだろう。
院内の慌ただしさに飲み込まれ、その程度にしか思わなかった。
数日後、先生からお詫びの連絡があった。かなり落ち込んだ様子で、合わせる顔も無いと言われたけど、ワタシは自分から逢いたいと伝えた。
次のデートの時、先生は改めて頭を下げた。
やっぱりワタシが気にする程の事ではなかった。先生は、ワタシの知っている先生だ。
その日、家に送ってもらうコトは無かった。
ワタシは、彼のベッドで朝日を浴びた。
相変わらず忙しい日々は続いたが、ワタシは充実していた。
とある日、ワタシは再び診察室に呼び出された。
彼は入るなりワタシを抱きしめ、キスをし、胸をまさぐってきた。
そして、ワタシは診察用のベッドに押し倒された。
ワタシは、動揺し反射的に彼の手を振り払った。
「先生、ワタシ……この仕事が好きで、誇りを持ってやっています。だから……勤務中にこういうのはちょっと……ごめんなさい」
ワタシは、思いの丈を伝えた。
先生なら理解してくれる。
そう信じてた。
室内にパンッという乾いた音が響き渡った。
ワタシの左頬は赤くなり、痛みが走った。
「え?」
続けざま、先生はワタシの胸ぐらを強く掴んだ。
「っ苦し……」
そして、顔を歪めたワタシに……
「おい!調子に乗るなよ、このブスがぁっ!俺の彼女にでもなったつもりか?あ?お前は、ただの道具なんだよっ!」
先生は、怒号を浴びせてきた。
その声と恐ろしい目つきに、ワタシは萎縮して震え上がった。
それからワタシは先生と会うのを止めた。でも、仕事は辞めたくなかった。
例え病院内に先生が居ても、恐怖心を抑え仕事に集中した。
しかし、それは長くは続かなかった。
ある日を境に、ワタシは周りの人達に避けられるようになった。
先生が、ある事無い事噂を流したのだ。
ワタシを遠目に見てヒソヒソと会話をする人……堂々と目の前で嫌味を言う人……
それはやがて仲の良い患者さんにまで届いた。
耐えられなくなったワタシは、大好きな仕事を辞めた。
ワタシは、壊れた。
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