第4話 迷惑……だよ

 カフェを出た麻宮雫玖ワタシは、謎の美少年から逃げるように、早歩きで駅へと向かった。


 やっぱ外は寒いな……冷たい空気で肺が痛い。

 ワタシは、時折り吹く冷たい風に肩をすくめた。


「ちょっと待ってよ!雫玖しずくさん、歩くの早いよ」


 後ろからハァハァと息を切らせて彼が追ってくる。


 ワタシは、足を止め振り返った。

 彼は、つまずくように足を止めた。


「もぉ、雫玖さん置いていかな……」


「ねぇ、キミ!」


 ワタシは、彼の言葉を遮り声を荒げた。


「十八歳の男の子が二十九歳みそじの女を揶揄からかうなんて最低よ!それにワタシはなの!」


 ワタシは、込み上げる怒りを彼にぶつけた。


「ワタシの事どうやって調べたか知らないけど、怖いし気持ち悪いよ!それに……だよ」


 ワタシの強い言葉を浴びせられた彼のカラダは、ピクッと動いた。

 そして、俯きしばらくの間動かなくなった。


 再び冷たい風が頬をかすめた。


 彼は、顔を上げてワタシに視線を合わせた。


「雫玖さん、ごめんね。ボクは……ボクは……」


 何かを伝えようとした彼の瞳は潤んでいた。


 こんな状況で、こんな事を思うのは少しおかしいけど……その涙はオレンジ色の空を写して、とても綺麗だった。


 彼は、ひとつ大きく息を吐いた。

 

「雫玖さん、ボクの勘違いでした。ボクの大切な女性ひとに……とても似ていたので……」


 そう言った彼は、悲しそうに微笑んだ。


「あ!じゃあ、コレだけ……」


 彼は、自分の巻いていたチェック柄のマフラーを、ワタシの冷え切った首にふわりとかけてくれた。


 それは、とても温かかった……彼の温もりが伝わってきた。


 ワタシは、胸をギュッと締め付けられた。



 彼は、元の優しい笑顔に戻ると「バイバイ」と明るく手を振り、駅とは反対向きに歩き出した。


 彼の寂しげな背中を見た時、自分の口から自然と言葉が零れた。


「ねぇ、キミ……帰るトコ、あるの?」


 彼は、ワタシの言葉に首をすくめると、ピタリと立ち止まった。


 沢山の人達が行き交う街の中、ワタシは何故か……彼と二人だけの世界に居る……そう感じていた。



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