第6話 冬眠からの上京……そして現在

 麻宮雫玖ワタシは、退職後家に引きこもった。


 とにかく男性が怖くなった。道ですれ違う男性ひとさえ怖かった。


 半年を過ぎた頃、高校を卒業してぐに上京し働いている伽椰子かやこから連絡があった。


 ワタシの母親が、彼女に連絡を取り助けを求めていたのだ。


 伽椰子は、ワタシに東京へ来ないかと誘ってきた。とてもじゃ無いけど無理だと断った。


 「OK!大丈夫大丈夫。まあ気が変わったらいつでもおいで。伽椰子ウチが守ってやるから」


 それから、伽椰子は毎日連絡をくれた。今日はこんな事があったよとか、パスタの美味しいお店を見つけたとか……。

 ワタシは本当に嬉しかった。彼女は決して早く東京こっちへ来いとは言わない。

 きっとワタシが自分から「行く」と言うのを待っていてくれたんだ。


 そして、ワタシは決心した。


 伽椰子は、献身的にワタシを守り、救ってくれた。

 ワタシも、伽椰子の力になりたい。

 守られてばかりでは、ダメだ。


 ワタシは、温かい両親に見送られ上京した。


 伽椰子は、笑顔で待っていてくれた。

 ワタシは、自然と涙が溢れ、まるで子供のように声を上げて泣いた。


 雫玖しずくがやりたい事が見つかるまでうちに居ていいよと言う伽椰子の言葉に甘えて、暫くの間ワタシは伽椰子の家にお世話になる事になった。


 毎日、少しずつでも外出するようにした。

 伽椰子の助けもあり、徐々に普通に出掛けられるようになった。

 そんな時、ふと目に入ったのが図書館だった。


 ワタシは、やりたい事が見つかった。

『読書が好き』ただそれだけの理由で、図書館司書の資格を取得しようと決めた。


 ワタシは、伽椰子の家から巣立ち、一人暮らしを始めた。

 看護師の時に貯めたお金とアルバイトで生計を立て、通信制大学で講習を受けた。

 およそ一年で資格を取得するコトが出来た。


 その後、中々正規雇用が見つからず、図書館司書や併設するカフェでアルバイトをしながら生活した。


 それからしばらくして、バイト先の図書館司書に空きが出た為、そこで正式に雇って貰うことになった。


 そして、現在に至る……



 二十九歳みそじになったワタシは……

 男性恐怖症のはずのワタシは……

 何故か、今……名も知らぬ十八歳じゅうはちの美少年、いや、青年を……賃貸マンションじたくに招き入れた。


「いやぁ、疲れたぁ……ヨイショっと」


 ……来て早々、ソファーでくつろぐキミは、一体何者なんだ……?


「あ、雫玖しずくさん……喉乾いた。冷たい麦茶とか、無い?」



 ……。



 連れて来て……失敗した、のか?











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