第29話 原始の龍
その昔、まだ白龍の国と黒龍の国がなかった頃。龍人は混在して暮らしていた。その世界を創生したのが原始の龍と呼ばれる、王、イストワールだった。
イストワールは他の者と違い、白銀の鱗でも、漆黒の鱗でもなく、金の鱗を持ち、圧倒的な力を誇った。平和な時代を築いたイストワールだったが、その反面でだんだん傲慢になっていった。そんなイストワールを民たちは許さなかった。というのも、イストワールの命令が日々むちゃくちゃなものになっていき、民たちはこのままでは平和は続かないと判断したからだ。
一方のイストワールは、圧倒的な力を武器に、民は自分の意のままに動いて当然という考えに至っていた。自分が創生したのだから、何をしてもいいと。その頃、イストワールの築いた国では、イストワールの気に入らないものは、簡単に処分されるという虐殺に近い所業や、女子供を差し出させられるなど、民は圧政に苦しんでいた。
「このままでは、自分たちは奴隷以下の生活しかできない。一見平和に見えているだけで、その実裏ではこんなにも民は苦しんでいる。」
その時、二人の若者が立ち上がった。それが後の白龍王、黒龍王であった。二人には考え方の相違はあれど、イストワールを王位から退けたいという思いは同じだった。
二人は方々訪ね、同志たちに蜂起を呼びかけて回った。
そしてその日は訪れた。民たちが一斉蜂起し、イストワールの居城を襲撃したのである。囚われた女子供や、気にいらないという理由で処分されかかっていたものを、一人一人解放していった。そして圧倒的力を誇ったイストワールに、民の総意を伝える。
『王位を退き、どこかで静かに暮らすなら、これ以上追うことはしない』と。
だが、イストワールはそんなものにおとなしく従うほど素直な性格ではなかった。
イストワールは憤り、それならば皆殺しにしてくれよう、と民にその牙を剥いた。そこからイストワールと民たちは、泥沼の総力戦を展開した。そして、いくら圧倒的な力を持っていても、孤独だったイストワールは死力を結集した民たちの力には及ばなかった。そうしてイストワールは追放される身となった。
傷つき、瀕死の重傷を負っていたイストワールがたどり着いたのは、豪雪の雪山だった。雪ごときで何かを感じるイストワールではなかったが、傷に響くといけない。雪の被らないところへ落ち着いた。しかし、イストワールに残された時間はわずかだった。
(おのれ、創生の恩も忘れてこの我を追放などと…!あの地に暮らすものはあまねく末代まで呪われるがいいわ!)
そして考えた。もうすぐこの命は尽きる。なんとかあの者たちに一矢報いる手はないだろうかと。そして思い至った。この魂を保存するということを。
自分が創生の龍のせいで、前例がないが、魔力をありったけ込めたものを残してみよう。うまくいくかはわからない。だが、ただ命尽きるのは我慢がならなかった。
そうしてイストワールは後に『竜玉』と呼ばれるものを遺し、力尽きた。
「あの時正直うまくいくかは賭けだったが、意外となんとかなるものだな!」
今イストワールの目の前にいるのは、白龍の王と黒龍の王らしい。
あの時の二人が重なる。在りし日を思い出し、イストワールは怒りと憎悪を増幅させていく。
「貴様らも、我を死に追いやったあの二人の血を引いているのに違いない。ここで殺して、国に持って帰って首を晒してやろう。そしてその領民たちは思い知るのだ、このイストワールこそ真の王だとな!」
突然語り出すイストワールにシュラとオルデンは何のことだという風に顔を見合わせる。
「なんのこっちゃか知らんが、イストワールといったか?お前みたいな邪龍にしゃしゃりでてこられちゃ困るんだ。おとなしく死後の世界へお帰り願えないか?」
不敬な上に邪龍扱い。やっぱりこいつら殺す。
「黒龍王、下手に相手を刺激するな。宥めたところでどうなるとも思えんが。原始の龍については文献で見たことがある。民を圧政で苦しめたのち、民たちの手によって成敗されたとあった。そしてその時今の国々が誕生したのだという。」
白い方はなかなか冷静に言葉を発しているが、内容は無礼だ。やっぱり殺そう。
(この女の身体、なかなかに鍛えてあるようだが、ちと動きづらいな。やはり慣れた自分の身体を取り戻したいが…。)
イストワールは周りを見渡して状況を確認する。
眼前にはシュラとオルデン。その後ろに起き上がったイーラとシルヴィア、という図だ。自分の身体を取り戻すには、あの癒しの力を持つ者が欲しいが、それは許さんとばかりに黒龍と白龍が共に立ちはだかっているのだ。
「まずはお前らを殺すしか道はない、ということか?」
ヴィクトリアの身体に馴染みきれないイストワールは、あちこち動かしてみて、動作に問題がないか確認しながらシュラとオルデンにそう問いかけた。
「そういうこったな。」
「まさしく。」
シュラとオルデンは同時に答えた。
「不本意ではあるが、共に両国の王として、敵を同じくするのであれば組むしかないな。」
オルデンがだいぶ嫌そうにシュラにそう言った。
「嫌そうに言うなジジイ!俺だって嫌に決まってるだろ!」
だが、そうは言っていられないのだ。目の前の敵を倒し、お互い国に帰ってやるべきことがある。それを考えた時、嫌だとかどうだとかは言っていられない。
「だが、そうだな。俺たちが組むからにはどんな相手でも負けられねえ。」
当然だ、とオルデンも頷き、再びイストワールに向き直る。
「さて、原始の龍よ。私たちに挑む覚悟はできたかな?」
オルデンはあえて上から物を言う。もちろん挑発だ。
「何が覚悟だ。貴様らなど、我にかかれば赤子の手を捻るも同然よ。」
イストワールも強気の姿勢を崩さない。
「言うだけか?さっさとかかって来いよ。」
シュラが更に挑発する。
「ほざけ、雑魚どもが。後悔するな…よっ」
そう言ってヴィクトリアの皮を纏ったイストワールの姿はかき消えた。
今、戦いの火蓋が切って落とされた。
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