第28話 闇の正体
「あの娘に何をさせた?」
オルデンは黒衣の者を問い詰める。そうすると、黒衣の者は大仰に手を広げて、笑いながら言ってのけた。
「あの娘の役目は世界の破壊ですよ。新しいものが生まれる前には一度全てが滅びないと!」
狂ったように空を見上げて、黒衣の者は続ける。
「今日、この世界には新しい王が生まれるのです。」
何を言っているのか訳がわからない。オルデンは警戒を続けながらも、イーラとシルヴィアにも気を配る。
「お前の望みは、私への復讐ではないのか?」
オルデンは、黒衣の者が姿を現した時、真っ先にその可能性に考えが至った。しかし、黒衣の者はそれを否定した。
「ええ、ええ。昔ならそうだったでしょうね。でも今はそんなことどうでもいいんですよ。世界が生まれ変わったら、あなたという存在も消えてなくなるんですからね。」
合流したシュラが、この黒衣について覚えがあるのかと問うてくる。
「こいつは以前俺を殺しにかかってきたぞ。どうなってる?」
オルデンは重い口を開く。
「こやつは、昔私の過ちによって復讐に囚われた者だ。そちらにも被害が及んでいるとは思わなかった。すまない。」
すると黒衣の者は、とんでもない、という反応をして
「黒龍王の命なぞ狙っておりませんよ。こちらとしては、あの癒しの力が欲しかったのですがね。」
それを聞いたシュラは、
「シルヴィア目当てか。当然俺は邪魔だったわけだ。ヴィクトリアを利用してうまいことやってくれたじゃねーか。」
結果的に一緒だろうと反論した。
オルデンはその昔、まだ王位を継いで間もない頃だった、自身が組織した黒衣の集団の長を務めていた。だがその当時自身の判断ミスにより、一人の少女を死なせてしまった。それが黒衣の者の妹だ。たった一人の肉親だった妹を亡くしたその者は、慟哭し、憤慨し、そしてある日姿を消した。それまで腹心として信頼していただけに、オルデンもそれなりのショックは受けたが、相手のショックは如何ばかりだっただろうと慮って、何かをするでもなく、静観した。
そこから歯車は狂い始める。まず、黒衣の集団から、一人、また一人と離脱者が出た。それはやがて組織を解散させるまでに深刻なダメージを与えるものだったが、その時のオルデンはあんなこともあったしな、と仕方のないことだと思ってしまったのだ。黒衣の者に他のものが引き抜かれているとも知らずに。
やがてオルデンの周りで不穏な出来事が起こり始める。それは、最初は嫌がらせレベルのものだったが、次第にエスカレートし、最終的にはオルデンやその周りの者の命に関わるレベルになった。そしてある時、その正体を見てしまったのだ。それが黒衣の者だった。以降オルデンは、妻やアルヒたちに害が及ばないよう、自身が餌となるため外出する時はあえてかの者と同じ黒衣を纏って外出するようになった。
「さっきからこいつ、世界を破壊するとか、新しい世界が生まれるとか、何言ってやがる?」
確かに世界は破壊された。先ほどのヴィクトリアの一撃によって。オルデンもシュラも、王として一刻も早く自国へ飛んで帰り、状況を確認したいが、目の前の元凶を取り除かないことにはそれも叶わない。こいつらが元凶なのは間違い無いからだ。
「先程、こやつは娘を使って誰のものかは分からぬが、竜玉を龍脈の根幹に入れてしまったのだ。御伽話レベルだが、聞いたことがある。竜玉が龍脈に至ると、その龍の魂は蘇ると。」
オルデンは自身の知識をフル稼働して、何を起こそうとしているのかを分析する。
「流石はオルデン王。その程度の知識はおありですか。でも、あの竜玉が一体どの御方のものなのかはお分かりにならないようですねえ?」
黒衣の者から漂う圧倒的自信に、オルデンは嫌な予感がする。相当な龍でなければ、そもそも竜玉を遺すことすらできないはずだが、更にその中でも最強クラスと言いたげだ。
と、そこへ閃光が走る。それはイーラだ。魔力を封じられつつも、一瞬だけ魔力を爆発に近い形で発揮し、拘束から逃れるという器用なことをやってのけている。それも、イーラのように魔力のコントロールが抜群に上手い者でなければできないことだ。自身が拘束から逃れると、魔力を振るってシルヴィアを助けに入る。が、黒衣の集団は元はオルデンが組織した腕利きの者ばかりだということを忘れてはいけない。傷を負いながら突き進むイーラに、シルヴィアは悲鳴に近い言葉をかける。
「イーラ、無理をしないで!私は大丈夫だから!!早くここから離れて!」
イーラを気遣うシルヴィアだったが、イーラは聞く耳を持たない。
「聞こえなかったのか、君も狙われているんだぞ!絶対に助けるからそこで待ってて!」
オルデンとシュラはその場を動かない。いや、動けない。目の前の元凶から目を離すことができないせいだ。丸呑みにされたヴィクトリアの安否も気になる。
イーラは初めて心を鬼にしたかもしれない。それは全てシルヴィアの為だ。押し寄せる黒衣の集団を薙ぎ倒し、なんとかシルヴィアの元へと辿り着く。持てる全力でシルヴィアを救出することに成功した。
「ああ、イーラ。ありがとう、でも無茶しすぎよ。すぐに回復を…!」
ボロボロになったイーラを優しく包み込むようにシルヴィアが支える。そして癒しの力をイーラに注ぐ。
「ひひひ、いい。実にいいですねえ!その癒しの力!あなたこそが世界創生の最後の要!その力、欲しい!きっとかの御方もお喜びになるでしょうねえ!!」
シルヴィアは、その黒衣の者の言葉に怖気が走った。最後の要?どういうことなのだろう。だが、良くないことに加担させられようとしているのは間違いない。
「イーラ、回復次第シルヴィアを連れて離脱しろ!」
オルデンは先の言葉から処理した情報で咄嗟にイーラにそう指示を出した。了解の意を示したイーラが空へ飛び立つよりも早く、その少し上空に黒龍が立ちはだかる。
「もう遅いわ。」
その黒龍は金の瞳。見た目は間違いなくヴィクトリアなのだが、そこから発せられる声は全く別人のものだ。
飛び立ちかけたイーラの不完全な態勢に、その黒龍は容赦なく拳を振り下ろした。
「しまっ…」
龍へと形態を移していたイーラの巨体がいとも簡単に吹き飛んだ。
「くっくっく。あっははははは!弱いなあ、おい。」
女性とも男性とも取れない声の主は、人型に戻りながら降りてくる。
降り立つと同時に、黒衣の者は首を垂れて、臣下の礼を取った。
「おお、なかなかにわかっているものがいるではないか。そこの突っ立っている二人は不敬罪だな。殺してやろう。して、そこの。フードを取って顔を上げるがいい。」
そう言われた黒衣の者は、初めてフードを取る。その出立ちは、金の髪に整った顔立ち、まさしく白龍の民だった。
「望みは?」
そうヴィクトリアの姿をした者に聞かれ、黒衣の者は答える。
「世界の創生ののち、あなた様が王になられることを。そして、願わくば、妹との再会を。」
その答えに、ヴィクトリアの姿をした龍はニイっと笑い、
「なんとも欲張りなやつよ、気に入ったぞ。まずは妹とやらと再会してくるがいい。」
そう言って、実行したのは、黒衣の者の首を刎ねることだった。
「え…。」
何を言う暇もなく、黒衣の者の首はボトリと地面に転がった。
「さっきから話を聞いていなかったわけではないぞ?その妹とやら、死んでいるのだろう?再会したいと言うのなら、己も死ぬしかないではないか。見事再会させてやって今頃この者も我に咽び泣いて感謝しているところであろうなあ!」
オルデンとシュラは戦慄していた。こいつ、強い。しかも言動がむちゃくちゃだ。
「悦に入ってるところ悪いんだが、あんた何者だ?」
シュラが口火を切る。放たれる圧倒的なオーラに、逃げ出したくなるくらいだが、ここで逃げ出したら本当に世界が終わりそうだ。シュラはできるだけ強気な態度を崩さずに問いかけた。
「ふん、口の聞き方も知らぬ無礼者め。だがそうだな。自己紹介くらいしてやっても良い。我は原始の龍だ。聞いたことくらいあるだろう?」
オルデンの顔色が変わる。
「原始の龍だと…?私たちが白龍も黒龍もなく暮らしていたとされる更に前の時代、まさしく今のこの世界を創生した龍だと聞いたことがある。」
そのオルデンの補足に、原始の龍は非常に満足げに頷くと、
「うむ。少しは勤勉な者がいるようだ。そう、我はその原始の龍だ。先程の者が言った、再びの世界の創生というのは悪くない。その為には体を取り戻さねばな。先程の癒しの力、見事だったぞ。あれがあれば、我の完全復活もそう遠い話ではない。あの癒しの使い手は永劫飼って大事にしてやろう。」
その言葉にシュラがぶちぎれる。
「シルヴィアを物か何かのように言うな。お前には渡してやらん。」
続いてオルデンが歩み出る。
「原始の龍か何か知らんが、今この世界は平和な時代を迎えている。お前のような邪龍に踏み躙らせるわけにはいかぬな。」
シュラとオルデンは顔を見合わせ、一つ頷いた。共に戦う決意をして。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます