私の相棒たちとの出会いと別れ

黒味缶

眼鏡選びって大変なんですよマジで

 お題がめがねということは、自分の眼鏡をエッセイジャンルで思うさま語っても合法なわけですよ。

 そのようなわけで私の歴代眼鏡、その出会いと別れについて語ります。


 私が眼鏡ユーザーになったのは、小学校中学年の頃。

 外的要因だけではなく遺伝要因もあったと思うのですが、朝図書室で昨日借りた本を返して新しく借りて昼休みまでに読み切り、昼休みに返却して昼休みと午後の授業の間の休みでもう一冊読んで、放課後に返却して家に帰って読む分を借りるという狂気の活字中毒生活を送っていたので、今思えば当然の視力低下だったと思います。

 そんな私が最初の眼鏡に選んだのは、レンズ部分が広く取られた黒い塗装のメタルフレームの眼鏡でした。購入場所は福岡の天神でした。

 レンズ部分を広く取ったその眼鏡は、多少本の中で視野を動かしてもレンズの外やフレームそのものが気にならなくて、とても気に入っていた気がします。

 初めての自分の眼鏡。流石にしばらくは慣れない日々が続きましたが、子供の順応性は高いもので気づけば私と眼鏡は一心同体のようになっていました。


 しかしその一心同体の眼鏡とも別れの時がやってきました。

 眼鏡の塗装がかなり目立つレベルで剥げてきて銀色の地金が見えてしまっていたのと、成長によってサイズが合わなくなった事。そして何より……経年劣化による、鼻当て部分の劣化。

 子供用の眼鏡であった最初の眼鏡は、鼻当て部分に柔らかいゴムのような膜が貼ってあったのですが、それが劣化により破れてしまったのです。

 もはや自分の一部となった眼鏡との別れを覚悟した私は、母と共に再び天神へと向かったのです。


 二本目の眼鏡は、一本目の眼鏡とはかなり印象の違う眼鏡でした。

 当初は一本目に近い眼鏡を探すつもりだったのですが、私の納得いく広さと色合いの眼鏡がなかなか見つからなかったのです。

 眼鏡屋とて営業時間があります。帰るためのバスの時間もあります。そのせめぎあいの中で私が見つけたのが、最初の眼鏡と比べレンズ部分の上下が狭く、しかし眼鏡自体の印象が派手すぎない茶色系のメタルフレームの眼鏡でした。

 上下が狭くなったものの、楕円というよりは長方形に近いフレーム越しに見る景色は意外と違和感を感じさせませんでした。最初の眼鏡と同じくメタルフレームで、色合いがおとなしい塗装だったことも勝因でしょう。

 とはいえ最後の決め手は、なんとなく感じた縁のようなものだった気がします。ここで納得できなければまた後日、というギリギリのところで掴んだ縁でした。


 二本目の眼鏡とは、高校卒業までの付き合いでした。

 中学の大半と高校の3年間をともにした眼鏡でしたが、この眼鏡はネジが少し弱いという弱点があったのです。それも、最初の相棒と同じく鼻当てのあたりの挙動があやしくなってきたのです。

 細かにメンテが出来ればよかったのかもしれませんが、高校生活の終わりと共にそれは少し厳しくなる見通しでした。

 大学進学にあたり、一人暮らしをすることになっていたからです。慣れぬ地で信頼できる眼鏡屋を探す事はなかなかに難しいのではないか?そもそも普通に変えどきなのではないか?

 そのような意図の元、私は三度、眼鏡のために天神の地へと足を踏み入れました。


 三本目の眼鏡は、二本目の眼鏡を派手にしたような趣の子でした。

 この時もレンズ幅の広い眼鏡を最初は探していたのですが、当時の流行りなのか丸っこい印象のレンズ部の広い眼鏡はほぼありませんでした。

 丸い眼鏡に絞って探しても、昭和の文豪のようなチョコンとした印象のものぐらいしかなかったのを覚えています。

 そこで私は、好み一本ではなく過去の弱点をカバーする眼鏡を選ぶことにしました。

 今までの歴代眼鏡はすべてメタルフレーム。劣化した個所は双方鼻当て。ならば気を付けるべきは鼻当てが劣化しづらいものを選ぶ事。

 そうして選んだ大学生活の相棒は、水面を思わせる青い樹脂タイプのフレームの眼鏡でした。レンズの広さは2本目と同程度、弱点を排除した以外は完全に当時の好みで選んだ透明感のある青のフレーム。そして鼻当ては、フレームと一体化しており、それ単体での劣化は考えられない仕様。

 これかもしれない。そう思ってから決定までは爆速でした。

 こうして、オシャレ眼鏡感のある3本目の相棒とともに私は大学生活ならびに一人暮らしという決して私には向かなかった行動様式に飛び込んだのでした。


 三本目の眼鏡とも、それなりに長く付き合ったと思います。

 とはいえ別れはやってくるもので……この眼鏡との付き合いも、フレームの劣化の訪れとともに終わりを告げました。メガネのツルとレンズを支える部分をつなぐネジ。ここに劣化が来たのです。

 そこだけなら緩んだなと思った時に締め直せば問題ない程度。ですが、頭部と直接触れ合う部分の劣化を示す変色がかなり進んでいるのもあり、誕生日プレゼントとして新しい眼鏡を作ることを両親に提案されたのです。


 次の眼鏡は、天神ではなく地元に出来たフレームの種類が多めの眼鏡屋で選ぶことになりました。父の眼鏡を新しく仕立てたのがそこで、近さと信頼の両方からそこに決めたのです。

 今までの眼鏡探しと同様に、最初の一本に近い印象のフレームを見ていきました。

 つまり、上下左右にレンズ部分が広く、店舗が近くメンテがしやすいのでメタルフレームで、塗装が暗めの色彩の物を――その条件にピッタリのフレームが見つかるまで、そう時間はかかりませんでした。

 まるで、かつての相棒と再会したかのような感覚の見え方。上下に目線を多少動かしても気にならないレンズ外の景色。視界の邪魔をしない細いフレームに、落ち着いた暗い藍色の色彩。私は出会ってすぐに、そのフレームに魅了されました。

 こうして、私は今も使い続けている四本目の眼鏡と……現行相棒との出会いを果たしたのです。


 さて、そのような運命と思えるフレームの今ですが。この相棒も、それなりに長い期間使っているため既に結構ボロボロになってきています。

 フレームの塗装は剥げている部分も多いし、耳にかける部分は樹脂であるためそこに変色も見られます。

 しかし、まだしばらく。もうしばらくはこの眼鏡と一緒にやっていきたい。かけていて落ち着く眼鏡、これだ!と思える眼鏡との出会いが希少なのを、私はこれまでの歴代相棒たちとの出会いで思い知っているからです。

 普段使いの相棒としては、よほどのことがない限り今後もこの眼鏡とやっていくことでしょう。


 とはいえこの劣化感で冠婚葬祭などは少々難しいなとも感じるので……そうですね。次の人生の区切りに、普段使いではないときのための眼鏡を仕立てるのも、いいかもしれませんね?


 記憶が定かではない部分もあるので本当に正確なノンフィクションではない部分もありますが、かつての相棒たちとの出会いと別れに関して語れたのはとても良い機会でした。

 最終的にはフィーリングの部分も多い眼鏡選び。これからも、縁のできた眼鏡とともに人生を歩んでいきたいものです。

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