8 三悪党と、ダルコネーザの通信

 ノクターナル征服の後、魔皇帝ダルクフォースはみずから大軍を率いて昼の国まで進撃したが、ダイアーナルの国境軍とにらみ合いになると、潔く城に引き返した。


 オンジャが推測したとおり、徹頭徹尾、『太陽光』が問題だった。


 太陽を初めて目にしたダルクフォースは、その強烈な光を忌まわしいものと感じた。


 その第一声は、


「こんな地獄のような場所があるのか……」


 だった。


 オークやオーガーなどの雑兵たちは、みな太陽を嫌い、夜の国に引き返したがった。三獣士たちは例外中の例外で、太陽に生命力を削られながらも、よく耐えているほうだった。


 ともかくもダルクフォースは、昼の国を魅力のない場所と感じた。それゆえディスアスターの進撃は、夜の国までに留まったのである。




  ☪ ⋆ ⋆




 夜の国、ディスアスター城――



 魔皇帝に呼ばれたダルコネーザは、すぐさま、皇帝の居室に向かった。


(地下への侵攻のことか? それとも、シュメールの首のことか?)


 どちらもうまく進んでいない。イライラしながら、高いヒールをわざとカツンカツン鳴らし、廊下を歩いていった。


 居室に入ると、ダルクフォースはテラスにいて、その金色に光る眼で、夜の森を見つめていた。銀と赤と黒の毛束の入り混じった長い髪が、天の星を焼き払うように風になびいている。


(なんて美しい方だろう……まさに美と力の権化ごんげ! この方こそ、闇の皇帝にふさわしい……)


 うっとりと見惚れながら、ダルコネーザは闇のなかにひざまずいた。


 ダルクフォースがふり返った。


常闇とこやみの領域から、もっと女の魔物を連れて来い」


「は……」


「後宮の人数を増やせ」


「わかりました」


 ダルコネーザは立ちあがらず、少し、迷い、逡巡しゅんじゅんしているようだった。

 

「……しかし、どうでしょう? ここにもひとり、よい女がおりますが……」


 ダルコネーザが自信なさげに言うと、ダルクフォースは口元を歪めた。


「その女は、その気があるのか?」


「はい、もちろんです!」


 ぱっと顔をあげたダルコネーザは、すらりと立ちあがり、自分の躰の美しいラインを、これみよがしに見せつけた。


 ダルクフォースはこれまでダルコネーザを、有能な補佐役としてしか見てこなかった。


 魔皇帝は無言のまま、ずかずかと歩み寄ると、ダルコネーザの両脇に腕を入れ、強引にかかえあげた。ダルコネーザも背が高いが、ダルクフォースのほうがなおいっそう高い。


 ダルクフォースはダルコネーザを寝台まで運んで行き、乱暴に押し倒した。そして兇暴に、服を破り裂いていった。喰らいつくようにダルコネーザの唇を吸い、蒼い血のたぎる巨指を、敏感なふたつの翼のあいだに、無理やりにうずめてゆく。


「ああ!」


 ダルコネーザは激しく声をあえがせた。苦痛なのか、喜悦なのか、わからない。頭が真っ白になって、快感の波が幾度も押し寄せた。


 魔皇帝は時間を忘れ、猛禽の魔女の豊満な体を、飽くことなくむさぼりつづけた。




  ☪ ⋆ ⋆




 一方、昼の国――


 引きこもりのバティスタも、サーカス団のチラシの絵を描くようになって、三匹はすっかりサーカス団に溶け込んでいた。


 ほろ馬車の荷台で雑魚寝していると、片隅に投げ捨てられ、砂埃すなぼこりにまみれていた黒い水晶玉が、恐ろしい勢いでぶるぶる震えだした。


 三匹はあわてて飛びあがった。


「やべぇっ、ダル子ねえさんだ!」


 今ではダルコネーザを『ダル子姐さん』などと呼び、すっかりだらけきっている。


 バティスタは引きこもりになって以来、精神を病んでいる。水晶球が震えだすのを見た途端、「ひぃーーっ」と頭を抱えて隅のほうにうずくまってしまった。


「とにかく、ひら謝りに、謝りまくるしかねぇぜ!」


 すぐに水晶玉から光が放射され、ダルコネーザの、抜群のプロポーションが現れた。三匹は体を小さく縮こまらせ、ひれ伏した。


 猛禽の魔女は、ゆっくりと、三匹を睥睨へいげいした。


「お前たち、シュメールの件はどうなった?」


「は、それが、行方ゆくえを見失いまして……」


 ウルフルは口ごもり気味に言いながら、電撃を覚悟して身がまえた。


「そうか……」


 そう言ったダルコネーザの言葉の調子が……なぜだか、いつもと違うようだ。


 いつもの死者に鞭打つ語調ではなく、三匹が聞いたことのない……小娘のような、やわやわした声だった。


「そなたたち、慣れない太陽の下で、たいへんであろう。体は壊しておらぬかえ?」


「……は、はぁ……?」


 ウルフルの脇に、冷や汗がしたたった。


(なんだ? なんだなんだ? 一体どうなってんだ?)


 思い切ってダルコネーザの顔を見あげてみると、妙に、上気したような、とろんとした顔をしている。


「ゆっくり、じっくりやるのが一番じゃ」


「あ、ありがとうございます……?」


「ではの、たのむぞ」


「ははぁ……?」


 通信は終わり、ダルコネーザの映像が消えた。


「なにはともあれ、助かった! よかったよかった!」


 三匹は手を打ち合わせて喜んだ。ウルフルは調子に乗って、


「チッ、電撃楽しみにしてたのに、なんだか物足んねぇな! 最近、快感になってきてたのによぉ! ゲッヘッヘ」


 と冗談口を叩きながら、水晶玉を蹴飛ばし、荷台の一番奥まで転がした。



 ウルフルたちは知るよしもないが、あの冷酷無比に見えたダルコネーザの内にも、一途な乙女心が眠っていたのである。いまや彼女はダルクフォースとの恋に夢中になり、シュメールや三獣士のことなど、どうでもよくなっていた。


 ……こうしてダルクフォースとダルコネーザの蜜月が、結果的に、三獣士の命を救うことになったのである。

 



✱.˚‧º‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧º·˚.✱


 ディスアスターにも色々と事情がおありのようで……笑


 次回、シュメールの一日を、シュメール視点でお送りします。



【今日の挿絵】

ペールネール・クリスマスバージョン & 年末年始のおしらせ

https://kakuyomu.jp/users/dkjn/news/16818093090647738441

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