5 どっちを歩く?

 シュメールとペールネールは、手をつないで歩いた。


 昼の国の住人に見つからないよう、オンジャとブリジットはそれぞれ、胸の宝石のなかに隠れた。


 あいかわらず緑の草原がつづいていて、まばらな樹々が風を受け、のどかに、さわさわとこずえをゆらしている。


 歩きながらオンジャが、ふざけ調子で、たわいもない話をはじめた。


「お前たち、結婚したら、カカア天下だな」


 宝石の中から言うオンジャに、思わずシュメールは噴き出した。


「え? なんで?」


「……『カカア天下』ってなんですか?」


 ペールネールが興味津々、尋ねる。


「奥さんのほうが強い夫婦のこと」


 と、ブリジットが教える。


 オンジャは、その理由わけを話した。


「並んで歩くとき、男が左、女が右の場合は、カカア天下になるのさ」


 カップルが手をつないで歩く時の、シチュエーションのことらしい。自然と、シュメールが左、ペールネールが右……その並びになっていた。


「逆の場合は?」


「女が左、男が右だと、亭主関白になるらしい」


「ふうん」


 オンジャはおもしろがって、ペールネールの性格を分析した。


「男の右側を歩く女は、自立心が旺盛で、ひとりでも、どこへでも行っちゃう」


「そ、そうなのかな……」と、ペールネールは困惑。


「確かに……。ひとりで《あかつきの国》に行っちゃったし……」と、シュメール。


「それから、男を支えようという気持ちが強い」と、オンジャ。


「その気持ちは、強いです!」と、ペールネール。


「ありがとう」


 シュメールは微笑んで、握った手にやわらかく力をこめた。ペールネールも、ぎゅっと握り返す。


 オンジャは次に、シュメールの性格を分析した。


「女の左側を歩く男は、押しは弱いが、協調性が豊か」


「確かに……自分は《協調性の男》かもしれない……」


 シュメールは考えた。平和が一番で、まわりとの調和を大切にしてきた。


 オンジャはうなずく。


「……だから結論を言うと、お前らの並びのカップルのほうが、協調性があって、長つづきするらしい」


 それを聞いて、シュメールもペールネールもホッとした。


 興味が尽きないらしいシュメールは、オンジャに尋ねた。


「逆に、女性の右側を歩く男は?」


「ま、《古いタイプの男》だな。女を左側に置いとけば、自分は右手の利き手が使えるだろ? だからまわりと戦いながら、ぐいぐいと女を引っ張っていける」


「男性の左側を歩く女性は?」


「――男に守ってほしいタイプの女だ。ま、どっちも右利きの場合だけどな」


「ふうん」


 すす……


 シュメールはさりげなく移動して、ペールネールの右側に移った。ふたりは手をつなぎかえた。《協調性の男》ポジションから、《古い男》ポジションに移動した。


「なんで移動してんのー?」と、ブリジット。


「どうしたんですか?」と、ペールネールも尋ねる。


 シュメールは恥ずかしそうに笑いながら、


「いや、敵が襲ってきた時に右手が塞がってたら、スタークリエーターでペールネールを護れないから。……これからの僕は、ペールネールを護る、強い男になるんだ」


「ふうん、そういうことか……」


 と、オンジャもブリジットも納得して、感心した。


 ペールネールは、にこにこしながら言った。


「わたしは右でも左でも、どっちでもいいです。だって、シュメールさまと手をつないでるだけで、しあわせだから」


 その言葉を聞いて、シュメールは、ぽっと胸が熱くなった。


「僕も、ペールネールと手をつないでるだけで、しあわせ」


 急に立ち止まったシュメールは、顔を近づけて、ペールネールの唇にそっと触れた。


「ん……」


 ペールネールは満足そうに、それを受け入れる。


「びっくりしゃっくり……」


「あらあら……」


 オンジャとブリジットは呆れ声をあげて、ふたりのキスが終わるのを待っていた。


「そうだ」


 と、シュメールは思い出したように言った。「ペールネール。キスは特別なことだから、僕以外の人としちゃ、だめだよ」


「はい。わかりました」


 恋のまっただなかにいるペールネールは、笑顔を輝かせてうなずいた。




✱.˚‧º‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧º·˚.✱


 次回、場面はディスアスター帝国に――!


 のんきにイチャコラしてる場合じゃない!?




※ 並んで歩く男女の性格分析は、心理学に基づくものだそうです。



【今日の挿絵】

ブリジット

https://kakuyomu.jp/users/dkjn/news/16818093087839491650



☆ 次回の更新は水曜です ☆

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