インターミッション ~ 黒薔薇の戦い3

 一方、二階バルコニーで魔法音楽を奏でていた騎士たちは、今、《猛禽もうきんの魔女》ダルコネーザ、《死の幻術師》アンドロメーデス、《獣将軍》メロレオンに対峙していた。


 ダルコネーザは両腕の翼を広げ、空中に浮かんでいる。金髪碧眼。鋭い目つき、大きな唇、鼻の高い美人だ。形のよい豊かな胸が、ふたつの満月のように輝いている。隠されるべき谷間までもが、あらわに、大胆に、さらけだされている。


 アンドロメーデスはどこにいるかわからない。白い髪の美青年だ。


 メロレオンは全長三メートルの、肥え太ったカメレオンだ。奈落の底にいて、その巨大な口から、大砲のように雷撃を放ってくる。



 ――これに応戦して、光の魔法矢を放っているのは、ナイアとマララ……エルフ族の女騎士ふたりだ。エネンコ、マイシャ、カルラガのネコ族三兄弟も次々と弓矢を放つ。カウロとパウロの人間の双子の闘士は、タールを入れた壺に火をつけて、投げつけた。


 カウロとパウロは丸々として、顔も体も肉団子のようだ。単純に太っているのではなく、とことんまで筋肉が鍛え込まれている。おそろいのマッシュルーム・カットで、一見、怪異な容貌だが、笑うとほっぺたが丸くて赤くて、純朴な子供の笑顔になる。


 エルフのマララは、騎士団全員の司令塔だ。絹糸のように長く美しい金髪をかきあげながら、仲間全員にテレパシーの無声会話を送りつづけていた。


《白い髪の敵は、空間を転移してくる! 注意せよ!》


「やっかいだな!」


 叫んだカウロに、ネコ族三兄弟はニヤリと笑った。


「俺たちに任しとけニャ」


 エネンコはそう言うと、むきだしのナイフの鋭い切っ先を下にして、ちょこんと鼻の上に乗せてみせた。指にも腕にも、ナイフを立てて見せる。


 マイシャは両手のナイフを、プロペラのようにくるくる回している。カルラガは長い舌を、んべーっと出して、舌の先にナイフを立てた。……この程度のナイフ芸は、三兄弟にとっては朝飯前だ。


「最初に一発入れたやつに、マタタビ酒、一壺はどうニャ?」


うにゃyes!」


「オーケー、兄弟!」


 三兄弟の眼つきが、たちまち狩りモードに変わった。髭をふるわせ、鼻をひくつかせ、二股の尻尾を静かに、ゆらゆらゆらす。


 鋭く目を光らせ、舌なめずりする。


 背後の空間が動いたその瞬間――ニオイをとらえた。


「「「そこにゃ!」」」


 一斉にナイフが放たれた!


「ぎゃあああっっ!!」


 見事! 三本のナイフは狙い違わず、異空間から現れたアンドロメーデスの腕に突き立った。床に青い血を噴きこぼしながら、白髪はくはつの敵は、ふたたび異空間に消えていった。


「一番は!?」


「オレにゃ!」


「いや、オレにゃろ!?」


「オレ!」


 牙をむいて小づきあいをはじめた三兄弟を、赤髪短髪のナイアが、呆れながら引き離した。


「ネコども! ケンカすんな! 見事だった! あたしが三壺おごってやる!」


 聞いた三兄弟は、「ニャッホウ!」「さすがナイア姉御!」「太っ腹にゃあ!」と笑み崩れた。


《……生きて帰れたらの話だけどね……》


 と、冷静なマララからテレパシーが飛んでくる。


 三兄弟はハイタッチしながら、


「ネズミ狩りは俺たちの得意技にゃ!」


「やつらの瘴気は、ネズミより臭い!」


「お前の靴下より臭いにゃ!」


「オレの靴下は臭くないにゃ!」


 しょうこりもなく、また小突きあいをはじめた、そのむこうで……


 アンドロメーデスがいなくなった空間に、ひとつの黒い玉が浮かんでいた。

 

 最初、周囲の暗さにまぎれて、誰もそのことに気づかなかった。玉はゆっくり、ふらふら、近づいてきた。


「? にゃんだ、あれ?」


 言っているうちにも、玉は急に速度をあげ、エネンコの虎毛の顔を覆い尽くした。


「うにゃぁぁぁ!」


 たちまちエネンコの瞳に、凶暴な緑色の光が宿った! そしていきなり、剣を抜いて暴れ出したのである。


「うわぁ! あに!」


 マイシャもカルラガも、あわてて剣をよけた。


「敵の魔法にとらわれて、狂戦士化バーサークしてる!」


 暴れまわるエネンコを、マイシャとカルラガが必死になって押さえつけ、気絶させた。


 いつのまにやら黒い瘴気の玉はたくさん浮かんでいて、こちらにゆらゆらと近づいてくる。ナイアとマララが光の矢を打ち込み、すべての玉を破壊した。


 そんなことをしている間にも――


「クワァァァァァァァァ!」


 《猛禽の魔女》ダルコネーザが大きく口をひらき、奇声を発した。


 するとそれが音波砲となり、バルコニーを破壊した。バルコニーは砂糖菓子のように崩れて、奈落の底になだれ落ち、カウロとパウロ、そしてナイアが空中に放り出された!




✱.˚‧º‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧º·˚.✱


 ――ピンチに次ぐ、ピンチ!


 次回、ダルコネーザとの血戦!


(次回の更新は、水曜になります)



(マタタビ酒 …… 数年前、島根の山奥の秘境宿で飲みました。薬草臭いドロドロしたものをイメージしていたら、ぜんぜん違った! 特にクセのない、甘くて透明なお酒で、拍子抜けしました笑)

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