インターミッション ~ 黒薔薇の戦い2

宇宙震ジバンシズモス!」 タルタロスの衝撃波ハンマーショットが、床を破壊しながら襲いかかる。


紅薔薇千重剣ミルフルール!」 ナルサスの華麗なる斬激が、闇をえぐる。


貪魔双顎剣テラサゴニ!」 ジャックの黒剣の妖気が、顎をひらいて大きく迫る。


溶岩爆裂打ラヴグルーヴ!」 ボルカヌスの連打が、炎を吹く。


 騎士たちの、一斉攻撃――!


 しかしダルクフォースは憎たらしいほどに、表情ひとつ変えない。自分のまわりに氷の魔法盾を厚く張り巡らせた。


 グワァァン!


 一瞬にして、すべての魔法盾が粉微塵こなみじんに砕けた。ダルクフォースが床に膝をつくのは、初めてのことだった。


「やったか!?」


 叫んだジャックの期待は、すぐに裏切られた。ダルクフォースは立ちあがり、強力な雷撃で四騎士全員を弾き飛ばしたのである。


「ぐあぁぁぁ!」


 さらに襲い来る氷弾を、ボルカヌスは素早い動きでかわした。


(ダルクフォースの魔法盾が弱ってきおったぞ。こやつ、黒薔薇の間のトラップを防ぐのに、かなりの魔力を消耗したらしい。……王子、トラップは無駄ではありませんでしたぞ!)


 ボルカヌスは低く身を沈めると、仲間たちに叫んだ。


「雲の流れを読め!」


(雲の……流れ?)


 ジャックは注意ぶかく目を細めた。


 言われてみれば確かに、氷魔法や雷魔法が発動される直前に、ダルクフォースの体のまわりに瘴気の黒雲が発生する。その雲の動きを読み、次の行動を予測して動けと、ボルカヌスは言っている。


 チィッと、ジャックは舌打ちした。


(オヤジは、やっぱバケモンだな……。瘴気の流れが読めたからって、あんたみたく、そんなカンタンに避けれっかよ!)


 ボルカヌス以外の騎士は、みな若い。団員たちはボルカヌスを、親しみを込めて『オヤジ』とか『オヤっさん』とか呼んでいる。


 愚痴を吐きながらも、ジャックは身をのけぞらせ、氷弾をかわした。


(オヤジにできるなら、俺にもできるはず! 俺は負けねぇぞ、畜生メルド!)



 ちょこまかと動き回る騎士どもにしびれを切らしたダルクフォースは、腰をかがめ、床に触れた。


「――氷世界グラスモンド!」


 鏡のような白銀の氷が床一面に広がり、一瞬で騎士たちの脚を捕らえた!


 ボルカヌスはすかさず炎道ヴィアフラーマを放ち、足元の氷を溶かした。タルタロスは床にハンマーを打ちつけ、氷原を割って脱出する。だが――ジャックとナルサスは、脚を固着された。動けない!


 ダルクフォースは集中的にジャックに電撃を放ちつづけた。


「ジャック、防ぎ切れない!」と、ソウルイーターが悲鳴をあげる。


「泣きごと言うんじゃねぇ! 気張れや!」


 ジャックは剣のひらで雷撃を受けつづけた。ソウルイーターが魔法盾を張ってはいるものの、ジャックは次第に弱ってゆく。


 タルタロスがジャックを救おうと、注意を惹きつけるように、野太い声で叫んだ。


「うしろがガラきだぜ! 魔皇帝!」


 ダルクフォースはふり返りもせず、冷たい声で一言、


「おまえがな」


 と答えた。


 衝撃波を放とうとしたタルタロスのうしろの空間が、パックリとふたつに割れた。その割れ目から、ふいに、毛むくじゃらの巨大な手が現れ出た。手首から指先まで、二メートルはある。長く鋭い爪を生やした、巨大な鬼の手だ。


 鬼の手はまるで人形遊びでもするように、タルタロスの体を背後からむんずと掴むや、たちまち電撃を放出した。


「ぐぬおおおお」


 激しく体を引き攣つらせ、タルタロスは悶絶し、泡をふいて気絶した。



 騎士たちは見た……ダルクフォースの右手が黒い雲のなかに消えている。空間を飛び越えて、鬼の手とつながっているのだ。この鬼の手もまた、ダルクフォースの魔法のひとつだった! 




✱.˚‧º‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧º·˚.✱


 タルタロス、倒れる!


 騎士たちに勝算は!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る