11 ペールネール、王宮に帰りつく
ところがペールネールにとっては、帰り道がたいへんだった。ちょうど大きな嵐がやってきて、国境地帯を襲ったのだ。
……目もあけていられないほどの、暴風雨!
ペールネールは巨樹の陰に飛び込んだが、それでも雨風は防げなかった。滝のような大雨に、川が氾濫して森にあふれてきた。そして気づかぬうちに、濁流に巻き込まれてしまった。
なんとか川面に浮かびあがって、空中に逃れたが、足元すべてが濁流で、降り立つところもない。仕方なく、そのまま暴風雨のなかを飛びつづけた。豪雨が重くのしかかり、狂風が体を縦横無尽にもてあそぶ。体は芯から冷え切り、ふるえが止まらなかった。
この凄まじい嵐は、七日七晩もつづいた。
……そういうわけで、ペールネールはアル・ポラリスにたどり着いた時、瀕死の
☪ ⋆ ⋆
シュメール、ムーシュカ、医師、侍女たち……人々が見守るなか、ペールネールは話し終えると、袋からふたつの宝石を取り出した。
一瞬のうちにペールネールの影が消えたので、人々はオオッと息を呑んだ。陰影の消えた彼女の顔は、ほのかに輝いているようにも見えて……人々はしきりに
苦労して手に入れてきた宝石を、ペールネールは惜しげもなくシュメールに差し出した。
「わたし、シュメールに罠から助けてもらった時、本当にうれしかった! だから、その恩返しがしたかったの……これを使って!」
「ありがとう、ペールネール……」
感激に目を潤ませたシュメールは、ペールネールの手のひらを宝石ごと、両手でつつみこんだ。すると、シュメールの影もスッと消えて、ふたりの姿は不思議な光の泡につつまれているように見えた。
「美談だわ!」
と、突然大きな声がしたので、シュメールがふり返ると、そこにリンネが立っていた。
「わっ、姉上!」
感激したリンネが、両手を胸の前で組み合わせて、黒い瞳をきらきら輝かせている。
「ペールネール、わたしは王女リンネ・アル・ノクタリアです」
「王女さま……?」
ペールネールは、ぽかんと口をあけた。「え? リンネ……? あの本を書いた……」
「まあ! うれしいわ! わたしの本を読んでくれていたの?」
「は……はひ……」
ペールネールはふるえる声で返事をした。緊張でカチコチだ。
(……まるで月から降りてきた、女神さまみたい……)
ペールネールはそう思った。高貴で、圧倒的で! ペールネールの目には、リンネが光り輝いているように見えた。
身をふるわせるペールネールを落ち着かせるように、リンネはやさしく声をかけた。
「わが弟のために危険を冒し、遠い国まで《影吸いの宝石》を取りに行ってくれたこと、お礼を言わせてください。ありがとう」
「え? 弟?」
ふりむいたペールネールに、シュメールはうなずいた。
「うん、そうなんだ。僕はリンネの弟で、シュメール・エール・ノクタリア。この国の王子だよ」
(えーーーー!? 王子さまなの!?)
ペールネールは息をのんだ。
……夢中になって読んだ本の作者が、突然に現れて……
……それが美しい王女さまで……
……しかもシュメールがその弟で……
……ということは、王子さま……?
この時、ペールネールの脳みそは、四回転半ほど、でんぐり返った。その超絶難易度の空中技は、ペールネールの脳みそを緊急停止させるのに充分だった。
しおしお……と鳴いて、彼女はベッドの上で、ぱたんと倒れた。
「あー!、ペールネールが気絶した!」
病みあがりの体にはショックが大きすぎたようで……客室は一時、大騒ぎになったとか……。
☪ ⋆ ⋆
それからすぐに、シュメールの《昼の国》への冒険が、承認された。
玉座に座ったラーマ女王は、愛息を見おろしながら言った。
「あなたのお父上は、あなたが成長したらたくさんの冒険や旅行をさせて、立派な騎士に育てたいと、かねがねおっしゃっておられました。わたくし個人としては、愛する息子と離れるのは、切なくて、寂しくて、哀しくて、胸がイタくて……食事もノドを通らないほどですけれど……」
およよ、と泣いて、母はハンカチを目の下に当てる。
「……お父上の遺言を叶えるためにも、あなたの希望を尊重します」
シュメールの顔が、ぱっと輝いた。
「ありがとうございます! 女王陛下」
「たくさんの物事を吸収して、必ず、笑顔で戻ってくるのですよ」
「はい!」
女王が合図すると、小人の側近が、銀色のトレーをかかげて運んできた。トレーの上には、綺麗に彩色された小箱が乗っていて、蓋がひらかれている。
箱の中にあったのは、一本の針だ。曇りひとつなく、黄金色にきらめいている。小指くらいの長さで、シュメールが知らない古代文字が、細かく彫金されていた。
「これは?」
「王家に伝わる、魔法の針、スタークリエーターです」
「スタークリエーター!?」
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女王から授けられたのは、魔法の針――
いったいどんな
【今日の挿絵】
シュメール・星空
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