第5話  彼女の名前は月 

「リク君、そんなに警戒しなくてもいいでしょう。」

僕はストレートに聞いた。

「月は人間?それとも龍?」

「はあ?」

「最近、よく龍が夢か現実か、僕の周りに出没するんだ。また夢でも見てるかなって?」

「リク、いくら私のことを警戒しているっていっても、女子に龍は、ないね。   

普通は月といえば人間は、かぐや姫を連想するんでしょう。私が龍ね。

そんなに私、怖そう?龍は私じゃなくて、君だよ。」

「僕?」

「私は月面人。名前も月でややこしけど。」

僕は弁当を抱えたまま、自分から月面人、宇宙人なんて言うのか。あーやっぱり、この女子、やっぱりやばい。朝も桜の木の下にいたしな。もしかして僕のストーカー?

それとも高2にして、遅い中2病か。

あんまり関わりたくないな。ここは、軽ーくスルーしよう。

「リク、今、私のこと変な人だと思ってるでしょう。それにスルーしようと思った。」

ゲッ、この子、今僕の心が読んだぞ。

あー、ついてないな。変なのに絡まれてばかりだ。

「だから言ったでしょう。私は月面人。人間じゃないよ。心が読めるのは、当然。

月面人はみんな、口で話さない。脳内で会話するのよ。だから相手の脳内が透けて見えるの。」

「へえーそうなんだ。」僕はなんとなく、遠くに目をやって空を見た。青い。

春休みの塾の屋上。春の暖かい風が吹く。

「よし決めた。」僕は目の前の現実を受け入れることにした。

「月、それで?君の話を聞かせてくれ。君は、月面人だと信じるよ。

そのかわり、僕の質問に答えてくれ。」

以外と僕は切り替えが早い。

「いいわよ。」

「今朝、僕の家の前の桜並み木にいたのはなぜだ?」

「リクを見つけたってヤマトが教えてくれたから。」

「ヤマト?ヤマトは龍?」

「そうよ。ヤマトは、リクとは友達だってうれしそうに言ってよ。」

あー、ヤマト。あれは夢じゃなかったんだ。

そうだ。そうだった。桜餅の箱に封印されていたヤマト。いやしい龍だ。

僕は一瞬、キョロキョロした。ヤマトが今にもニューっと出てきて「俺様は高貴な龍だ」って言いそうだ。

月は続けて「ウラルからもリクにヨロシクって伝言受けたよ。」

ウラルか。あー、あれは夢じゃなかったんだ。広い高原、いい大陸だった。

と言うことは月が言ってる7番目の龍が僕?ありえる。

でもどうして僕が7番目の龍なんだ。月がつづけて「リクは7番目の龍だけど。人間よ。

まだ龍に覚醒していないだけ。

ヤマトやウラルとは違う。伝説の龍よ。」

「それで僕を見つけて君は月はどうしようしてたんだ。」

「リク、人間の言葉で漢字。月と龍と書いておぼろってなんって読むのか知っててる?」

「おぼろ?」

「そう。おぼろよ。おぼろは、この世界とも、私が住んでいる月面とも違う。全く別の空間。その世界のドアを開けるのが。

私、月と龍のリクよ。」

僕は思い出した。ウラルが7番目の龍が現れるとき新しい世界が開くといっていた。

月が突然、僕の手を強く握った。晴れた穏やかな春うららの空に白い霧がかかり始めた。

「リク、おぼろのはじまり。よく見ておいて。」

空に扉が次の瞬間、えっ?」

「なあ、月、このあと僕はどうなるの?」

「リクは私と一緒にあの空の扉からおぼろの世界へ行く。」「おぼろの世界って?」

「おぼろは、この世界に干渉できる。宇宙にも干渉できる本当に不思議な世界。

何をするのかは、行ってから。」

急に僕のカラダが宙を浮いた。気づけば、僕はヤマトの背中に乗っていた。

「リク、元気だったか。」

「ヤマト、夢じゃなかったんだな。」

「そうだ。」

月もウラルの背中に乗っている。

僕ら2人と2体の龍は、そのまま、空に開いてる扉から勢いよく、おぼろの世界へ入っていった。


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