第17話 温泉ダンジョン 其の1


 祭理とダンジョン配信を始めてから、はや二ヶ月。

 今の所目立った危機もなく、女装もバレず、順調に活動は続いている。

 登録者も順調に増えていて、収益化する事もできた。

 俺としては何も文句ないのだが、祭理はそうでもないらしい。


「なんか、マンネリ化してきたなぁ〜」


 ここ最近、祭理の配信は低級ダンジョンに入っては雑魚モンスターを倒し、時々レア素材を見つけての繰り返しになっていた。

 最初の頃のように、スタンピードに出会したり、裏面でドラゴンに遭遇したりなどのイレギュラーは起きていない。

 

「なんか面白い事ないかなぁ〜」


 退屈そうにぼやく祭理。

 単純に、慣れもあるだろう。

 人間、何事も始めた頃は楽しいが、慣れてくると更なる刺激が欲しくなるものだ。

 特に配信者なんかにはその気が強く、過激な配信で視聴率を稼ごうとする人達も少なく無い。


 そもそも祭理の配信にはこれといったテーマがない。

 強みと言えば、祭理の可愛さと、最強ゴスロリ姉さんのインパクトだけだろう。

 それも後者はカメラマンで滅多に姿を見せないしな。

 そんな時、朝のニュース番組からとあるトピックが取り上げられた。


『〇〇のB級ダンジョンに、天然温泉が発見されたようです。さっそく現地に繋いでみましょう。

遠野アナー遠野アナー』


 画面が変わり、身体にタオルを巻いてお湯に浸かっているアナウンサーが映し出された。

 背景には鍾乳洞のように煌めく岩壁と、所々に瑞々しい植物が生えているのが見える。

 画面越しに見ても、湯気と相まって非常に幻想的な光景だった。



『はい! こちら、話題の温泉に来ております。

湯加減もいい感じてすっごく気持ちいいです〜。何よりこの広さ! まるでレジャー施設のプールみたいですね! しかも専門家によると美肌効果や、バストアップ効果など、女性に嬉しい効能があるようです! 

あ〜極楽極楽浄土浄土♪』


 画面がスタジオに切り替わり、羨ましそうな反応をする出演者達が映し出される。


『いやー気持ちよさそうでしたね〜。探索者の方々は是非探してみてくださいね!』

 ※探索中の事故や怪我は自己責任になります。実力に自信が無い方はお控え下さい。

 ↑テロップ


 ………………。


 番組が次のコーナーに移行したその時、祭理は勢いよく立ち上がると、天啓を得たかのように叫んだ。


「これだっ──!!」


「ま、そうなるわな」

 

 配信者たるもの、話題性がある物には乗って起きたい所だ。

 っていやいやいやいやいや。


「B級は流石に危ないからダメだ」


「いやでもこんなチャンス滅多にないよ! お願い! 手伝って! 視聴者もお兄ちゃんの活躍見たがってるよ!」


 B級ダンジョンは初心者が気軽に踏み入っていい場所じゃ無い。祭理もそれは分かっているはずだ。

 俺が渋っていると、祭理が真面目な口調で言った。


「危ないと思ったらすぐ帰るから。温泉がある所はセーフティエリアみたいだし……ね?」


 その瞳からは、B級ダンジョンへの好奇心が滲み出ていた。

 祭理が上目遣いで俺を見つめる。


「お兄ちゃん……お願ーい♡」


 緊急津波警報発令! お兄ちゃんダム決壊! 

 急速に理性が飲み込まれ、無意識に「しょうがねぇなぁ」の一言が口を突いて出た。

 まったく俺ってヤツは……。

 

「わーい! それじゃあ次の配信は、温泉回に決定ーー! ぽろりもあるよ!」


「ねぇよ。収益化剥奪されんぞ」


 Dチューブ君はえっちなのを決して許さない。

 てな訳で俺達は、最新でホットなビッグウェーブにいち早く飛び乗るべく、準備を整えるのだった。

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