第14話 デート
羽生田姉妹とのコラボ配信があった日から数日。
朝起きると、スマホに柚花からのメッセージチャットが届いていた。
『凪ぽん! 今日暇?』
…………。
まさか本当に連絡してくるとは……。
特に断る理由はないが、ただでさえ俺は清水アイリスとして柚花に会っている。
コンタクトを取る事自体、リスキーこの上ないのだ。
画面を見ながら悩んでいると、柚花から通話が掛かってきた。
「あー。おかけになった電話は現在使われておりませ──」
『凪ぽーん! ねねっ、今からデートしない?』
「デッッ!?デェトォ◯★◇×!?!!?!?」
いきなり突拍子のない事を言いだす柚花に、寝起きのまどろみが吹っ飛んだ。
『実は、ちょっと付き合って欲しくて』
「つ、付き合って欲しいィ◇×△&!!??」
おいおいおいおい。
こりゃ一体どういう風の吹き回しだい風神さん? 急に春一番運んでくるじゃん。
今の俺は柚花が配信者で、美人局の様な悪い事をする人間ではないのを知っている。
まさかそんな、無意識にジゴロの才を発揮していたと言うのか……。
神よ、許したまえ我の罪を。乙女を惑わす、無自覚ゆえの業と過ちを。
『それじゃ、1時間後に駅前集合ね」
俺が返事をする前に通話が切られた。
少しだけ話しただけなのに、まるで世界が静まり帰ったかのような錯覚に陥る。
陽の気を持つ者の力を思い知った朝だった。
◇◇◇
「って事で! 今日は荷物持ちよろしくね」
まぁ、知ってたけどね。お決まりの流れだったし。別に期待とかしてなかったけどね。
いやホントに。
いくら今時のギャルとは言え、いきなりよく知りもしない男に告白する訳がない。
だけど、涙がでちゃう。男の子だもん☆
「あれ? どうしたの? もしかして花粉症?」
「ああ、柚花粉の季節だからな」
「柚花粉って何!? そんな事言う奴にはこうだ! えいっ!」
そう言って柚花は俺の腕に抱きついてきた。
洋服越しにたわわな感触を押し付けられ、俺は咄嗟に得意のポーカーフェイスを貼り付ける。
「何ニヤニヤしてんの〜?」
できてなかった。まだまだ修行が足りんな。
黒いTシャツの隙間から覗く谷間は桃源郷。
紺のスキニージーンズの描く流れるようなヒップラインの黄金率。
シンプルな着こなしで、完成されたコーディネートに、油断すると目が釘付けになりそうだ。
こんなお洒落な美少女と街中を歩けると言うだけで、普通の男なら羨ましがるだろうが、清水アイリスとしての顔を持つ俺としては、一概には喜べない。
「それで、どこ行くつもりなんだ?」
柚花の顔がマスク越しに笑うのが分かった。
「行ってからのお楽しみっ」
……なるほどね。
「それじゃ行こっか。レッツラゴートゥーヘル!」
「地獄行ってどうすんだよ」
腕を組んだまま歩き出す俺達。
柚花は帽子とマスクで素顔を隠してはいてはいるが、溢れ出るカリスマオーラが街を行き交う人々の視線を集めていた。
駅前の巨大な商業施設の中に入っているダンジョンショップに到着する。
……なるほどね。
以前、祭理がダンジョン配信を始めた時に来た事がある店だ。
壁にはいくつもの高そうな剣や盾が掛けてあり、商品棚には品揃え豊富なアイテムが陳列している。
「実はウチDチューバーやってるんだ。これでもそこそこ人気なんだよー」
「へぇ〜」
知ってる知ってる。
知ってるどころか一緒に探索した仲だからね。
柚花は嬉々としてショップの中を散策し、俺はその光景を微笑ましく見ていた。
「みてみて! どう? 似合う?」
柚花は金の柄に豪華な装飾のあしらわれた剣を腰に当て、ドヤ顔で胸を張った。かわいい。
二度言おう、マジでかわいい。ええい足りぬわ! 三度言おう、超絶かわいい!!
「まぁ、いいんじゃねぇの。よく分かんねーけど」
「まっ、買わないんだけどね」
柚花は剣を元の場所に戻すと、カゴを持ってアイテムコーナーに向かった。
次々とアイテムをカゴに入れていき、最後にチャクラムとレイピアを持ってレジへ持って行った。
会計をカードで済ますと、俺はアイテムの詰まった袋と武器を抱え店を出た。
思ったより重いが、大変と言う程ではない。
「ねねっ、なんかお腹空かない?」
確かに、そういや起きてから何も食べてなかった。
「ああ、なんか食べるか」
「そういえばここ、最近新しくハンバーガーショップできたらしいから行こうよ!」
「おっ、いいな」
って事で昼飯はハンバーガーに決定した。
──それにしても、分からないな。
柚花が俺を誘った意味。
俺がアイリスだと気付いている可能性は無いと思いたいが……だとしたら何を考えている?
最初に会った時から、何かがおかしい。
初対面の男をナンパし、その相手を休日に買い物に誘う。
俺のような硬派オブ硬派な男で無ければ勘違いしていた事だろう。一目惚れでもされたのかと。
俺の知る限り、柚花はそういう娘では無い。
だがその疑問は、すぐに明らかとなった。
ハンバーガーショップで昼食をとり、その後洋服や雑貨など普通の買い物をした俺達が帰路に着く頃には、既に空は茜色に染まっていた。
駅前を離れ、人気の無い通りまで来たところで、柚花がポツリと言った。
「──ねぇ……キスしよっか」
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