第13話 裏祭理
…………
……
──玄関の扉が閉まる音が聞こえた。
大方、お兄ちゃんがあたしの機嫌を取る為にデミグラスハンバーグの食材でも買いに行ったのだろう。
子供扱いしないでよね! って言いたいトコだけどやっぱり嬉しい自分がいる。
別にそれほど怒ってないんだけどね。妹たるもの、たまには拗ねてみる事も、お兄ちゃんの気を引くためには必要なのだ。
それにしても今日はびっくりした。
まさかお兄ちゃんが柚さんの師匠になるなんて……予想外。
柚さんがあんなに積極的だなんて思わなかったよ。お兄ちゃんが女装してて良かった。
少なくとも今は、あくまで同性に対する憧れでしかないはずだ。
……けど、万が一お兄ちゃんが男だって分かったら?
「気をつけなきゃ……」
部屋中に貼られているお兄ちゃんの写真を見渡す。
お気に入りの"クソデカお兄ちゃんポスター"の側まで行き。その頬に口付けをする。
それだけで、あぁ、なんて耽美な幸福感だろう。◯麻も、コカ◯ンも、L◯Dも、きっと及ばない。あたしだけの幸せ。あたしだけのお兄ちゃん。
ファミレスでの会話を思い出す。
「言える訳ないよねぇ……」
引き出しの2段目を開ける。
柚さんは大人のオモチャを隠してたみたいだけど、それがどうしたと言うのか。
可愛いもんじゃないか。
あたしの持ってる──お兄ちゃんのパンツ(使用済み)に比べれば。
このグレーのボクサータイプのパンツこそ我が宝具。
「スゥゥゥゥゥゥッ、ハァァァァァぁ〜〜」
血中の酸素にお兄ちゃんの匂いを行き渡らせる。あー、トビそう。
お兄ちゃんのガードが甘いのが悪いんだからね……。
お兄ちゃんは同じメーカーの同じ色の下着をいくつも持っている。
その中から一つ盗んでしまえば、後はローテーションだ。何度か使ったら戻して、また新しい使用済みパンツと入れ替える。見た目が同じならバレようが無い。
名付けて──『
パンツを被ってベッドにダイブ。
そこから先はゴールデンタイム。
お兄ちゃんの匂いを堪能し、自家製お兄ちゃん抱き枕を抱きながら、テンションを高めていく。買い出しに行ったお兄ちゃんは暫く帰って来ない。
多少声を出しても大丈夫なはず……。
せっかくだし、派手にイこうぜ☆
…………
……
〜20分後。
「はぁ……っ……はぁ……っ」
いやー捗った捗った。多幸感に包まれて足腰に力が入らない。
さざなみのような余韻に浸りながら、被っていたパンツを取って大切に抱き締める。
「お兄ちゃん…………好き」
あたしはおかしいのだろうか──否っ!!
妹が兄を愛して何が悪いと言うのか。
偽物だらけのこんな世の中で、唯一信じられるモノ。
世間体、建前、モラル、法律?
仮に敵がいようがあたしには関係ない。
お兄ちゃんの事が好きなこの感情だけは本物であり、何者にも否定できはしないのだ。
少しでもお兄ちゃんに構って欲しくて選んだ引き籠りロード。別に学校が嫌いな訳じゃないし、人見知りでも無い。ただ、探索者になって自立したお兄ちゃんに戻ってきて欲しかっただけだ。
まぁ、探索者を辞めたのには何か別の理由があるみたいだけど、それは聞いてもはぐらかされてしまう。
けどなんとなく、凄く悲しい事があったんだろうと思った。それは表情を見れば分かる。妹だからね。
なんにせよ結果オーライ。
今こうしてお兄ちゃんと暮らしながら、一緒に配信活動出来ているのだから。
少しずつ、兄妹の仲は深まっている。後はそれを、血の繋がりを超えた愛に昇華していく事ができればいずれは……キャーッ♡
うかうかしてぽっと出の女の子にお兄ちゃんを取られでもしたら最悪だ。奥手なお兄ちゃんに限ってそう無いとは思うけど、油断は出来ない。
「お兄ちゃんは、あたしのもの……」
もう一度、パンツを鼻に当てて堪能する。
匂いが薄くなってきた。そろそろ替え時かな。
今日の夜にでもすり替えて置こう。
余韻が抜けて行き、上体を起こす。
……お風呂入りたい。
今日はダンジョンにも入っていっぱい戦ったしで汗もかいた。体がベタつくのは当然だ。
お兄ちゃんに臭いと思われるのだけは勘弁である。
「かっこよかったなぁ〜」
清水アイリスに扮したお兄ちゃんの華麗なる戦闘シーンを思い浮かべると恍惚としてしまう。
今頃日本中の視聴者が清水アイリスのかっこよさに惚れ惚れしているだろうけど、お兄ちゃんの凄さを知っているのはあたしだけなのだ。
言い知れぬ優越感が、沈みかけていた色欲の碇を再び引き上げた。
「もう一回だけ……」
しょうがないよね。お兄ちゃんがかっこよすぎるから、本当に罪深い兄だよ。可愛い妹を狂わせておいて自分は平然としちゃってさ。
むかつく……でも、好き。
一人の時間。今だけは素直でいたい。
お兄ちゃんが帰ってくるまでのほんのひと時。
帰ってきたらまたいつも通り、わがままで、無邪気で、だけどちょっと面倒臭い……危なっかしくて放っておけない、そんなお兄ちゃんに愛される妹に戻るから。
せめて今だけは、
血を超えた好きでいさせて──
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