第8話 シスコン?


 てゆー事で俺達は、C級ダンジョンへと足を踏み入れた。

 配信自体は柚花のチャンネルで行われているため、配信機材はハネマンちゃんもとい、羽生田みちるが持ち歩いている。

 お陰で俺は手ぶらなまま、祭理達の護衛に集中できるってワケだ。

 というか、そのために連れて来られたようなものだしな。

 仲良く話しながら歩く二人の後をついて行く。


「柚花さんのそれ、かわいーですね!」


 祭理が柚花の首に巻かれている黄緑色のスカーフを指差した。


「だしょー? 砂煙とか上がった時に便利なんだ。一応火にも耐性あるんだよ」


 柚花の格好はデザイン性に特化した装備に偏っている。

 普段はそう言った武器や防具、アイテムを配信の中で紹介しているらしい。

 様々な道具を使いこなすにはそれなりに器用且つ知識が豊富でなければならない。

 お洒落に着飾りながらも、極力無駄が無いように整えられれているのが見てとれた。

 努力と研究の賜物か、はたまたセンスやカリスマか。どちらにせよ、なるべくして人気者になったのだと思った。

 それからも、二人は装備について話しながらダンジョンを進んでいった。

 やがて、開けた鍾乳洞のような空間に出た。

 そこには数匹のゴブリンと、デカいコウモリのようなモンスターが集まっていた。

 モンスター達がこちらに気づいて振り返った。

「祭理ちゃん、いくよ!」


「うん! ──サンダーボルト!」


 柚花が啖呵切り、ゴブリンへと突っ込んでいくと同時に、祭理が雷撃魔法で空の敵を攻撃。

 その間柚花は鎖鎌を駆使して、見事な手際で2体のゴブリンの首を落とした。

 岩陰に潜んでいた他のモンスターなども出て来たが、二人は息のあった連携で危なげなく撃退していく。

 こりゃ、俺の出る幕は無さそうだな。


 一通り敵を一掃し終えると、二人は笑顔でハイタッチを交わしていた。

  

〈つええぇぇ!〉

〈いいぞー二人ともー〉

〈すげー息合ってるじゃん!〉


 コメント欄も二人の戦闘に熱を上げていた。

 

「ゆずさんすごい! 鎖鎌なんて初めて見ましたよ。そんなのも使えるんですね!


 祭理が拍手をすると、柚花は胸を張りながら得意げに笑った。


「ま〜ねっ! 祭理ちゃんこそ、あの距離からサンダーボルトを当てれるなんてなかなかやりおる」


「なはは、それほどでもっ」


 照れ臭そうに後頭部を掻く祭理。

 そういえば、祭理が俺以外の人と仲良くしているのを初めて見たかもしれない。

 微笑ましい光景に口角を上げると、横から冷めた視線を感じた。

 ジト目で俺の顔を見つめているみちるが、カメラを俺に向けながら言った。


「アイリスさんって、シスコン?」


 ────っ!?


 脳みそに直接隕石が落ちたような衝撃。

 シスコン……他人に言われたのは初めてだ。

 そもそもシスコンの定義ってなんだ? どこからがシスコンなんだ? 兄が妹を大切に想うのは普通の事だろう。

 あぁ、声が出せないのがもどかしい。 

 何故か湧き上がる小っ恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じて、それを隠すように下を向く。

 

「わー。照れてるー。かわいーとこあるじゃ無いですかぁー。ぬふふふふふ」


 気の抜けた口調で煽ってくるみちるに、俺は内心「このクソガキが!」と罵りながらも、ぐっと堪える。


〈姐御www〉

〈まぁ、そんな気はしてたよ〉

〈姉妹愛てぇてぇ〉

〈総員!衝撃に備えよ!ギャップ萌えがくるぞ!〉

〈↑もうおせーよ〉


「わたし想うんですけどー。アイリスさんみたいな人って高嶺の花すぎて逆に恋愛経験無かったりするんですよねー」


 俺は笑顔を貼り付けたままぬるりとみちるに近づいて、拳でこめかみを挟み、ぐりぐりと押し付けた。


「えっ!? あたっ……いたたたたたたっ!!」


 経験上、これでワカラない人間はいない。

 

「いだぁ! わがりましだっ! もう言わない! いわないからぁ! ごめんなざいたたたたっ! オ"ッ♡ヤッベ♡」


 この通り、生意気なキッズも即落ちである。

 なんだかセンシティブな声を上げた気がしたので、取り返しがつくうちに離してやる。

 祭理より打たれ弱いなこいつ……。

 みちるはぐりぐりされた所を押さえながら涙目になっていた。


〈秒でわからされてて草〉

〈ハネマンェ……〉

〈一瞬やべぇ声出てなかった?〉

〈気のせいや〉


「む〜〜っ。痛いじゃないですか〜」


 正直、少しかわいそうだったかもしれない。祭理と接する時みたいなノリでやってしまったが、みちるは他所の妹なのだ。

 俺は謝罪がてら、ぐりぐりした所を優しく撫でてあげた。


「アイリスさん……」


 恍惚とした表情を浮かべるみちる。

 

「なんだかアイリスさんの手、すごく落ちつきます〜」


 しまった、男と女では手の作りも違ってくる。

 怪しまれないうちに離そうと思ったその時、いつの間にか近くにいた祭理に、手首をガシッと掴まれた。

 

「おに……お姉ちゃん? ハネマンちゃんに何してるのカナー? 調子乗ってるの? あコレ調子乗ってるねぇ」


 ニコニコ笑顔を貼り付けているが、目の奥は笑っていなかった。

 視界の外でみちるが「ハネマン言うなー」と吠えたがフルシカトである。

 祭理は俺の手首を離すと、今度は俺の鼻っ面を指差し、念を入れるように言った。


「あんま他の子にベタベタ触っちゃダメだよ。分かった?」


 俺が首を縦に振ると、祭理は不機嫌そうにそっぽを向いた。

 小さく「ほんとに分かってるのかなぁ……」と言う声が聞こえたが、気にしないでおこう。


「おーい、早くしないと置いてっちゃうよ〜」


 前を歩く柚花が遠目からこちらに向かって手を振っていた。

 その背後に、巨大なゴーレムがいる事にも気付かずに。


「柚さん──っ!」


「え?」


 柚花が振り向いた時には、ゴーレムは腕を振り上げていた。

 咄嗟に距離を取る柚花だったが、振り下ろされた拳の衝撃で飛び散った石つぶてに巻き込まれてしまう。


「きゃっ! いつつ……」


 倒れ込んだ柚花に対し、ゴーレムは再びその剛腕を振り上げた。

 柚花は完全に体勢を崩している。

 躱し切るのは困難だろう。

 このままでは柚花が一旦木綿か挽肉にされてしまう。多分後者だ。

 

「おねぇ!!!!」


 みちるの叫びが響き渡ると同時に、俺は素早く大地を蹴った。

 ゴーレムが腕を振り下ろすのが見えた。


 ────間に合えっ……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る