第5話 クレーンゲームとギャル
次の日、俺がモンスターの群れ相手に暴れまくったシーンが切り抜かれ、動画サイト上に広がっていた。
祭理のチャンネル登録者数もみるみる増えていき、既に5万人を突破していた。
たった一日でこれなのだから、まだまだ増えることだろう。
とりあえず今日は配信の予定がないので、俺は気分転換に駅前の繁華街へと足を運んでいた。
祭理はこれからの企画や活動方針を練るのに忙しいらしい。相変わらずダンジョン以外では引きこもりのままだ。
小腹が空いていたので牛丼屋に入ると、隣の席に座っていた二人組の若者が、スマホで何かの動画を流し始めた。
「なぁ、これしってる? 最強ゴスロリ姉さん! 今めっちゃ話題になってんの。まじむちゃくちゃ強いからみてみっ!」
「──ぶふぉっ! こほっ……ごほんっ!」
思わず飲みかけていた水を気管に詰まらせてしまった。
「あのっ、大丈夫ですか?」
「けほっ……けほっ……だ、大丈夫です。すいません……」
きっとその動画に写ってるゴスロリ姉さんが、今隣で牛丼食べてる青年男性だとは想像もしていないだろう。
なんとなく居づらくなった俺は、急いで牛丼を食べ終えると、そそくさと店を出るのだった。
「……ったく、まさかこんな身近に視聴者がいるなんてな」
これが、バズるって事なのか……。
今更ながら実感が湧いて来たぞ。
「ん?」
ゲーセンの前を通りかかった時、外から見えるクレーンゲームに祭理の好きなキャラクターのぬいぐるみを見つけた。
あーあれだ、ちい◯わだちい◯わ。
せっかくだし取っていってやるか。
そう思いゲーセンに入ると、目当てのクレーンゲームに先客がいた。
硬貨投入口の横に積まれた100円玉から、取れるまでやめないスタンスが伝わってきた。
「あーもう! 今惜しかったのに〜!」
目深に被ったキャスケットから金髪をあふれさせている少女は、綺麗なネイルの施された指で100円玉を次々と機械に投入していく。
さてはこいつ……三本アームの闇を知らないな?
「キーッ! なんでとれないのよ! 持ち上がるところまではいくのに〜マジ腹立つ〜っ!」
「ふっ」
クレーンゲームにマジギレしている姿が微笑ましすぎて思わず笑ってしまった。
「──ちょっと、今笑ったでしょ?」
やべっ。
少女に睨まれ、俺はさっと目を逸らした。
しかし見逃してはくれないらしく、少女はグイっと俺の方に詰めよってきた。
ほんのりと香水の甘い香りが鼻をつく。
「あんさ、ウチの代わりにこれ取ってくんない?」
「えっ?」
思わぬ要求に、間抜けな声が出てしまった。ゲーセンの雑音に掻き消されていた事を願おう。
「だから、おにーさんこういうの上手いんでしょ? なら取ってよ」
「なんで俺が……」
「だってウチが取れないの見て笑ってたじゃない! つまり自分なら楽勝だって事でしょ?」
「いや別にそういうつもりじゃ──」
「いいからはやく!」
「お、おいっ」
無理矢理クレーンゲームの前に立たせられると、少女は100円玉を投入して、「はいどうぞ」とプレイを促して来た。
つっても、こんなもん技術でなんとかなるもんでもないんだよなぁ。
「ワクワクっ♪ ワクワクっ♪」
期待に満ちた視線を横から感じながら、俺は諦めて腹を括った。
ええい、ままよ!
俺は操作ボタンを押して、ぬいぐるみの上までクレーンを持っていく。
ゆっくりとクレーンが下降していき、ぬいぐるみを掴んで持ち上げた。
通常なら、ここでアームが弱まり落ちてしまうのだが、クレーンはぬいぐるみを抱えたまま、排出口へ──ぼとん。
「まじか」
偶然にも、丁度確率機の設定金額を満たしていたらしい。
「うっそマジ!? 一発じゃん!」
「…………」
これは逆に言うと、俺の分を取るにはここからフルに店側の設定金額を注ぎ込まなければならないという事。よし、諦めよう。
「わーいやったー! ねぇねぇっ、もしかしておにーさんプロの人?」
確率機のシステムを知らない無邪気な少女が、景品排出口から出てきたぬいぐるみを抱き締めながら羨望の眼差しを向けてきた。
「まぁそんなとこよ。んじゃな」
もはやゲーセンに用はない。
少女の夢を壊さぬよう、クールにその場を去ろうとした俺であったが、後ろから手首を掴まれ止められる。
「待ちなって」
首だけで振り返ると、少女は蠱惑的な瞳で笑いかけて来た。
マスク越しでもその口元が三日月を描いているのが分かる。
「お礼にコーヒー奢らせててあげるっ」
キャピッ☆って感じでウィンクをしながら実に図々しい事を言ってきた。
なんなの? 新手の美人局?
「あ、すいません。知らない人について行ったらダメってママに言われてるんで。てかなんで俺が奢る側なんだよこれだから金髪は」
「何その金髪への穿った偏見!?」
「知らない金髪より知ってるモヒカンって
「絶対ないでしょ! ウチよりアホな事言うな!」
「自分がアホな自覚あんのかよ……」
「アホなりに人生楽しんでますから(ドヤッ)」
「くっ、眩しいぜ……!」
「アハハッ! なんだ結構ノリいいじゃん! って事で一杯どっすか?」
……恐るべきギャルのコミュ力。
距離の詰め方がエグすぎて、気付いたら仲良くなったと勘違いしてしまいそうだ。
だが、その程度でホイホイついて行く俺ではない。童貞ナメんなよ?
「仕方ねぇな。一杯だけだぞ?」
「わーい決まりね! じゃ行こっか♪」
…………。
強く断るのも後ろめたかっただけだ。別に他意はない。二度言おう、他意は無い!
そうして俺達は賑やかなゲーセンを出て、近場のカフェへと向かった。
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