第4話 一騎当千ゴスロリ姉さん
「──ッ!」
俺は左手に仕込んでいた無数の針を飛ばすと同時に、モンスターの群れに突っ込んだ。
「お姉ちゃん!!」
まるで自殺行為のようにも見えるだろうが、問題ない。
俺を取り囲んだモンスター達は次の瞬間、細切れとなった。
ワイヤーの先に針が付いており、扱いは難しいが上手く使えばかなり効率よくモンスターを狩る事ができる。表面が硬い相手には不向きだけど。
「よっと」
張り巡らせたワイヤーをコントロールし、次々とモンスターを切り刻んでゆく。
そこから漏れたり距離の近い相手は短剣で処理。
モンスター達を7割方屠った所で、暴走から目が覚めたのか、残りは逃げるように散って行った。
「ふぅ、終わったか……」
危険が去った事を確かめ祭理の元へ戻ると、祭理は目を丸くしながら口をポカンと開けて固まっていた。
無理もない。
祭理は俺が探索者をやっていた事は知っていても、S級でしかも攻略組の特記戦力だった事までは知らないのだ。
「おに……お姉ちゃんってこんなに強かったんだ……。可愛い妹もびっくりだよ」
そりゃどうも……って、何俺にカメラ向けてんだ!
俺は祭理から配信機材を奪い取り、画面を確認。
〈化け物すぎて草〉
〈お姉さんやばすぎだろwwwww〉
〈伝説の始まりwww〉
〈惚れました! 推します!〉
〈姐御って呼ばせてください!〉
〈姐御(最強)〉
〈マジでなにもんだ?〉
〈一騎当千ゴスロリ姉さんww〉
〈かっけぇぇ……〉
〈つっよwww〉
〈姐御! 一生ついて行きます!〉
「…………っ」
コメント欄は大変な賑わいを見せていた。
同接も千人を超えていた。
さっきまで100人もいなかったのに……。
コレがいわゆる……
「バズってやつだねっ!」
俺は配信停止ボタンを押し、頭を抱えた。
「ちょっと! いきなり切っちゃだめじゃん! みんなびっくりするでしょー!」
「お前まさか、ずっと撮ってたのか……?」
「もちのロン! タンヤオ!」
タンヤオどころか国士無双級の振り込みである。
「どうすんだよこれ……俺の女装姿でバズっちまったぞ!?」
「切り抜きとか出るだろうから、これからもっとバズるゾ☆」
「勘弁してくれ……」
あまり広まりすぎると昔の仲間とかにバレかねない。てか絶対バレる。女装好きの変態だと思われてしまう! 想像するだけで死にたくなった。
「まぁまぁ、とりあえず帰ろうよ。お風呂入りたいし」
「お前ってやつは……」
どこまでもマイペースな祭理である。
……まぁ、なってしまったものは仕方ない。
今後の事を考えるのはとりあえず後にしよう。
ダンジョンからの帰り道、並んで歩いていた祭理がこんな事を言い出した。
「それにしても、やっぱお兄ちゃんって凄いね」
「なんでお前が嬉しそうなんだよ」
「べっつにー? なんででしょう〜?」
「知らね。なんでもいいわ」
「いきなりそっけない!?」
元気そうな祭理の様子を見て、俺は内心安堵していた。
さっきの体験がトラウマになっているかも知れないと思ったからだ。
プロの世界でも、ダンジョンで悲惨な記憶を植え付けられ、足を洗う人間は珍しくない。
例えば俺のように……。
「妹として誇らしいからに決まってるでしょ! えいっ!」
祭理が突然手を繋いできた。
何が楽しいのか、ニコニコと笑う顔を見ていると、こっちまで頬が緩みそうになる。
「変なやつ」
俺は祭理の小さな手を握り返し、そのままダンジョンの出口へと向かうのだった。
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