❀第十三話❀ 驚きの結果
――♪♪
何か月も聞いてきた音楽と一緒に駆けだす。
「ハナー」
「クラムちゃん」
「シャイニーちゃんっ、頑張れ――!」
あっ、ヴァイオちゃんだ…!
ミルキーちゃんピアノちゃんも来てくれている。
応援が頼もしい。
ハナはにこっと笑い返す。
「「「♪シエ~~ル」」」
歌いだしからだんだんと曲が進んでいく。
速くて体が付いていけない。
それでも曲は進む。
そして最後の山に来た。
「♪空が澄み渡る」
「♪まるでペンキを塗ったような鮮やかない・ろ」
ここが見せ場だ、緊張する。
でも頑張らなきゃ!
「♪シエール空広い」
「「「♪宝石のように輝く
「♪三つの星~三つの宝石~」
ハナがふぅと息を吐く。
そしてすぐに息を吸い込んだ。
ここが一番のポイントなんだ……!
「「「♪空を照らすスリービージュ」」」
いつもの練習よりもいい声が出た。
心臓がうるさいぐらい響く。
会場が静かになった。
え、嘘、失敗したの!?
お姉ちゃん達の方を向く。
どうしよう……。
――パチパチパチパチッ
でも、次の瞬間拍手が聞こえたんだ。
大きな拍手とは行かないけれど、しっかりと会場を包み込む。
良かった……!
後は最後のポーズ。
意外に難しいんだ。
体をひねって、足をついて……。
――♪ジャーン
最後の音が鳴る。
いつも聞いていた音。
鼻が痛くなりながらも、ハナ達はステージを下りた。
感動が抑えきれない。
何か月もの苦労が報われた、そう思う。
するとクラムお姉ちゃんと誰かがぶつかった。
その衝撃でドーンという音がする。
「うぉ――、痛たっ」
「大丈夫!?」
「あなたね……!」
クラムお姉ちゃんが首を傾げた。
きっと誰か分かっていないのだと思う。
ハナも分からない。
この妖精、クラムお姉ちゃんと会ったことがあるのかな?
学校の妖精?
「何?どうした?」
「『どうした?』じゃないわよっ」
ピンク色の瞳がジッとこちらを見る。
赤い髪の毛にピンク色の目、ちょっぴり怖い。
分かった、ラビットさんだっ!
オーディションが一緒だった妖精…!
でもクラムお姉ちゃんはピンと来ないみたい。
すると、シャイニーお姉ちゃんが、
「ラビットさん。ハッピーアニマルの」
と教えてあげた。
「あ――はいはい」
「あなた、わたくしのラル様を取ったのね!」
ラ、ラル?
誰の名前なんだろう。
ハナはこの名前を聞いたことが無い。
「オーディションの時によくも話しかけてくれましたね!全く、結果を見ておきなさいっ」
「クラムがオーディションの時に喋っていた妖精」
何もわからないハナにシャイニーお姉ちゃんがこっそり耳打ちする。
ありがとうっ…。
「ラビットちゃん!」
ラビットさんのアイドルグループ『ハッピーアニマル』のコリーさんがやってきた。
近くで見ると、髪の毛がよりきれいに見える。
オーディション二位なだけあって声もきれい。
「あら、コリー」
「ラビットちゃんどこに行ってたの?探したよ」
そう言いながらラビットさんの肩に手を置く。
するとラビットさんが歩きだす。
きっと戻るつもりなんだ。
「最後に笑うのはわたくしよ!」
「ギャハハハ……!悪役の捨てゼっ、グフッ」
シャイニーお姉ちゃんがクラムお姉ちゃんの口を即座に抑える。
すごい反射神経……。
とその時。
「あの……」
コリーさんがか細い声を出し、こちらを向いた。
ハナはビクッと肩を震わせる。
ラビットさんみたいなことを言われるのかな……。
でもコリーさんはおびえているようだった。
「ごめんなさいっ!」
「「「え!?」」」
子犬のように走り去っていくコリーさんの背中を見つめる。
ハナ達は何も分からずただ立ちつくすしかなかった。
☆🍴❀☆🍴❀
「では順位を発表します」
時間が過ぎて、結果発表の時間になった。
空はもう暁色になっている。
一位はチョコレートボックスなのかな…。
「十位からの発表です。十位、”ヨメール”」
「九位、”チョコレートボックス”」
え……。
「「「「「「「「「「「「え~~~~!?」」」」」」」」」」」」
不満の渦が巻き起こる。
ハナも思わず『え!?』と叫んだ。
あんなに上手だったのに……。
じゃあ一位はどこのグループなの!?
「八位、”スリービージュ”」
「「「えっ!?」」」
驚きが二倍になる。
ハナ達が、あのチョコレートボックスに勝った!?
ありえない、絶対にあり得ない。
六年前から努力をし続けて、やっと昨年一位を取ったチョコレートボックスに、まだグループ結成一年もたっていないハナ達が勝つはずがない!
本来なら、嬉しさの方が勝つはずだけど、ハナは、悲しさの方が大きかった。
司会者さんが、うつろな目をしている。
きっと、お酒を飲み過ぎておかしくなっちゃったんだ。
「七位、”モモレンジャー”」
え、本当に勝ったの…?
間違っているなら、放送が入るはず…。
それでも、順位発表はどんどん進んでいき、ついに一位の発表…!
チョコレートボックスを抜かして勝ったなんて、どんなグループなんだろう。
「一位は…”ハッピーアニマル”っ!」
えっ…。
呼ばれたのは芸能界に入ったばかりのグループ。
しかも、さっき喋ったラビットさんとコリーさんのグループだった。
確かに実力はすっごくある。
でも、長年チョコレートボックスを見てきたハナにはどうしても納得いかない。
――パカ――ンッ
久寿玉が割れた。
そこには『祝ハッピーアニマル』と書かれていた。
本当に、チョコレートボックスが負けたんだ。
でも、もちろん会場が不満の声で包まれる。
……………でも。
「「「「バンザーイ、バンザーイ、ハッピーアニマル、バンザーイ」」」」
目の赤い集団が、突然叫び出した。
きっと、ハッピーアニマルさんのファンなんだ。
その、赤い目の集団につられて、
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「バンザーイ」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
会場が、『バンザーイ』という声だけになった。
ハナは、その声を聞き、ステージの中央で怪しく笑う、ラビットさんを見た。
少し、ぞっとした。
ただ、嬉しいだけなんだろうけど…。
そう思っても、ハナの胸騒ぎは収まらなかった。
☆🍴❀☆🍴❀
――次の日
ハナは、そろそろと昼ご飯を運んでいた。
クラムお姉ちゃん、まだ寝てるのかなあ。
――先日、フェアリーアイドル選手権が行われました。
ハナ達が出たものだ。
ちょっぴり胸が痛む。
いっぱい頑張ってきたチョコレートボックスがハナ達よりも下…?
すると、次の瞬間ドダドダドドドドドド―ッと、階段を駆け下りる音。
「うるさいクラム!」
「あ、おはよう、クラムお姉ちゃん」
「大魔王と我が天使、おはよー」
「なんですって…?」
「お、お姉ちゃん達、ラ、ラジオ聞こうよ!」
――チョコレートボックスがなんと九位。一位と期待されていましたが、一位は、若手アイドルのハッピーアニマル。ハッピーアニマルの人気に火が付きました。では次のニュースです
「な~んだウチ達のことじゃなかった~。SOB無いし二度寝しよう~」
「クーラーム―!?昼ご飯出来てるわよー!?」
「げっ」
クラムお姉ちゃんは、休日いつも十二時に起きているもんね……。
ハナはお姉ちゃん達をなだめながら昼ご飯を食べ始める。
でも、ずっとチョコレートボックスのことを考えていた。
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