❀第十二話❀ あの妖精との再会

――リリリリリッ。


 朝にクラムお姉ちゃんの目覚まし時計が鳴った。

 今日はフェアリーアイドル選手権の前日。

 それでもお笑い番組を聞くみたい。

 クラムお姉ちゃんが自分の部屋から出て来た。

 ハナはシャイニーお姉ちゃんが作ってくれた味噌汁を食卓に並べる。

 つい新曲の『シエル』を口ずさんだ。


「ハナ、めっちゃ歌上手!」

「クラムお姉ちゃんおはよう」

「クラム、お笑い番組始まるわよ」

「はぁ――い」


 私達がフェアリーアイドル選手権で披露する新曲は、『シエル』。

 『シエル』はフランス語で『空』という意味なんだ。

 とても気に入っている曲。

 ハナはラジオに耳を傾ける。


――「さあー今日もラジオからお届けします!素晴らしく面白い番組、略してSOB」


 陽気な音楽とともに、芸人さんの声がする。

 クラムお姉ちゃんはこの番組が気に入って、毎日早起きしているんだ。

 健康にいいからシャイニーお姉ちゃんは喜んでいる。

 ハナもクラムお姉ちゃんと朝喋れて、嬉しいっ!

 心を躍らせながら、ハナはサラダを運ぶ。


「ハナは休んでいていいのよ。お――いクラム!お皿運びながら聞けるでしょう!?」

「ちぇっ。めんどくさいなぁ」


 クラムお姉ちゃんはラジオを楽しんでいる。

 それを邪魔するのが悪いと思い、ハナはクラムお姉ちゃんの分のサラダを運んだ。

 するとクラムお姉ちゃんが、


「ありがとー!ハナは優しすぎる~」


 と言った。

 えへへへ。


「そんなことないよ~」


 シャイニーお姉ちゃんの方が家事をいっぱいしてくれている。

 ハナももっと家事を手伝わないと!


「やっぱりハナも五時半起きにしようかな…」

「絶対やめなさい!」


 前も言われた気がする。

 しょんぼりと肩を落としながら、三人で朝ごはんを食べ始めた。



☆🍴❀☆🍴❀



 ついに……フェアリーアイドル選手権当日!

 ハナ達は、見覚えのあるユニコーントレインに乗って会場へ着いた。


「「「ええっ!?」」」


 ついた会場が、お、大きい!


「こ、ここで、ハナ達…やるの……?」

「そ、そうね…」


 そして、会場には、チョコレートボックスのグッズを持った妖精が、たっくさん。

 何だか誇らしくなる。

 あ、でも、今日のハナは、チョコレートボックスのファンとしてではなく、スリービージュとしてなんだった。

 これで、ハナ達は、一位を取るんだ…。

 頑張らないと。

 無言のまま、建物の中にある控室へ行く。

 出演するグループ、二十組くらいの控室がある。


「グループに一部屋やなんて、豪華…!」

「だね」

――ガチャリ


 シャイニーお姉ちゃんが開けた扉の中へ入る。

 ひ、ひひひ、広過ぎるっ!!

 家のリビングの、二倍くらいの大きさだ。

 しかも、鏡が四つ、きれいな棚、荷物置きまである。

 豪華なものの中で、一番目を引くのは、ハンガーにかかった、可愛いドレス!

 これが、今日の衣装なんだ…!

 

「これ、本当に無料?」

「こら~、シャイニー、またお金。お金博士だね~」


 クラムお姉ちゃんが、シャイニーお姉ちゃんにバカにする口調で言う。

 やめておいた方が、いいんじゃないかな…。

 それにしても、本当に、この衣装、キレイ。


「なーにがお金博士よ?ええ?」

「本当の事を言っただけだし~」


 け、喧嘩がヒートアップしちゃってる。

 ハナは、決意を決めて、お姉ちゃん達の間に入る。


「ねえ、このドレスの衣装、ハナ達にピッタリじゃない?」


 アクア色、桜色、カナリア色のドレス。

 ハナ達が好きな色にばっちり当てはまっている。


「本当ねぇ」

「んー、それにしても、このドレス、何か普通過ぎない?」

「「まさか、また…」」


 クラムお姉ちゃんがきょとんとした顔になった。

 この流れは、あの魔法を使っちゃう……?


「「ああっ!」」

「すごいでしょ――!…えっどうしたの二人とも。そんなに青ざめちゃって~」


 クラムお姉ちゃんが不思議そうに声を出した。

 アクア色のドレスに雲の模様が一つついている。

 これはクラムお姉ちゃんの『色を変える』魔法のせいだよね!?

 ど、どうしよう……。

 そう思っている間にシャイニーお姉ちゃんとハナのドレスにも模様を付けちゃった!


「シャイニーは星、ハナはお花だよ~」

「えっ、ちょっと…!」

「クラムお姉ちゃん、それは…」

「えっ気に入らないの!?それなら……」


 ああっ!

 ハナのお花の模様を少し変えた。

 さっきまではタンポポだったけれど、今は桜…。

 面積がっ………広がっちゃった!


「さ、そろそろ開演時間だ!着替えようっ」


 クラムお姉ちゃん、それは、あなたが言いますか……。



☆🍴❀☆🍴❀



「さあ――始まりました。フェアリーアイドル選手権!まずは、各グループの自己紹介です」


 陽気な司会者さんの声とともに、フェアリーアイドル選手権の幕が上がる。


「エントリーナンバー一番!”ハッピーアニマル”!!」

「コリー・ドック・ケーです」

「ラビット・セレブ・ユーですぅ。よろしくねっ!うふっ」

「「ハッピーアニマル、応援よろしくねー」」


 ま、待って!

 次はエントリーナンバー二番だよね。

 エントリーナンバー二番はハナ達だ……!

 心の準備ができていない。


「エントリーナンバー二番!”スリービージュ”!!」


 ひゃぁ―――!

 視線が怖いよ! 


「三つ子の長女で、リーダーやってますっ。しっかり者のシャイニーです」

「三つ子の次女!ボケても滑らないクラムで~す」

「すすす、末っ子のハナで、す」

「「「三人でスリービージュです!」」」


 どうしよう、練習通りに言えなかった…。

 それでも続いて行く。

 そして、最後は……。


「エントリーナンバー二十三番!”チョコレートボックス”!!!!!」

――きゃぁ!


 黄色い歓声が飛び交う。

 ハナも一緒に飛び跳ねたい……!

 でもハナは『スリービージュ』なんだ。

 五人のオレンジ色に水色が入ったきれいな目を見つめる。

 近くで見ても、可愛い!

 一人一人自己紹介が終わるごとに大きな声がする。

 でも一際大きな黄色い悲鳴が聞こえたのは……。


「リーダーのカレンですっ!」

――わーーーーーーーっ!


 

 耳の横でシンバルが鳴っているみたい。

 これがチョコレートボックスの実力……!


「では審査を始めていきたいと思います。エントリーナンバー一番”ハッピーアニマル”さん以外はステージを下りてください」


 ハナ達はスタッフさんに連れられて、ステージ袖に待機する。

 

「そう言えば、『ハッピーアニマル』の二人は私達と一緒にオーディションを受けていたわ」

「えっ、嘘――!またまたシャイニー様ご冗談を~」

「冗談言って私の得になりません」


 シャイニーお姉ちゃんの記憶力は抜群!

 一か月前のご飯も覚えている。

 すっごく尊敬しちゃう。

 

「ラビットさんは一位、コリーさんは二位だったのよ」

「え、ウチ負けてた!?」


 ステージに視線を移す。

 コリーちゃん、すっごく上手っ!

 キレッキレッのダンスに合わせて、長くて茶色い髪が揺れる。

 さすが二位……!

 ハナも見習わないと。

 ラビットさんは…あれ?

 ちょっとしどろもどろ。

 緊張したらハナも同じ状態になるから、分かる。

 

――ジャンッ♪


 え、もう終わったの?

 三分の曲なのに、十秒ほどに感じられた。

 次は、ハナ達『スリービージュ』の番だ…!

 頑張ろうっ。

 三人で右手を重ね合わせる。

 これは最近スリービージュで決めた合図。

 始まるよ、ということを実感した。


「スリー」

「「「ビージュ!」」」


 『ビージュ!』の声で天に手を伸ばす。

 今までの自分を信じよう!

 いよいよ、ハナ達のステージが始まる!


「次は”スリービージュ”の方々です」

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