☆第十一話☆ あのチョコレートボックスと……!?

「「「フェアリーアイドル選手権!?」」」

 

 私達は、すっとんきょうな声を上げた。

 だってビート先生がさらりと大切なことを述べたから。


「その、レッスン始めますみたいなノリで言わないで下さいよっ」


 と私はビート先生にすかさず突っ込む。

 さっき、ビート先生はこう言ったんだ。


――「えーーあなた達にフェアリーアイドル選手権に出てもらいます」


 と。

 フェアリーアイドル選手権は聞き覚えがある。

 全星で有名であり、ハナがスーパーアイドルチョコレートボックスノートに書いていた名前だ。

 ドクンと心臓が跳ねる。


「ど、ど、どどど、どういう大会なんですか?」

「このチラシを見てください」


 『百聞は一見に如かず』と言わんばかりに、ビード先生がチラシを渡す。

 ハナ、あなたがきっとフェアリーアイドル選手権を知ってるでしょ……。

 クラムにばれないようにするためかしら。

 

「え~、なになに~」


 クラムが大声を上げて、チラシをのぞき込む。

 それにつられて、私もチラシを見た。


――妖精世界フェアリーワールド一のアイドルを決める大会!前回王者の大人気グループ『チョコレートボックス』今年も出場!!


 え、えええ!

 私は息をのみ込む。

 この世界ほしで知らない妖精はいない、ハナの大好きな『チョコレートボックス』!? 

 

「これって……優勝を目指すんですか?」

「はい、勿論そうですよ?何言っているのですか?」


 私の質問に、また質問が帰ってきた。

 クラムが小声でドンマイと言ってくる。

 むかつく!


「耳良いので聞こえてますよ」

「ヒェ――――ッ!」

「そして、新曲を書き下ろしてもらったのでレッスンを始めましょう」


 う――ん、また大事なことをサラリと言ってない!?

 そう言うよりも先にレッスンが始まった。


☆🍴❀☆🍴❀


 

「ゔい゙……ビード…レッズンぎづい…」


 クラムが『!』を付けずに言う。

 地味にビート先生を呼び捨てにしている…………。

 でも、本当に疲れた。

 歌詞で頭が破裂しそう。

 記憶力のある私でもきつい。

 ハナもクラムも床でぐったりしている。

 とそこに、


「あ、あなたちに、ラジオのオファーが来ていましたよ」


 と言いながらビート先生がやってきた。

 ラジオのオファー……。

 本当!?


「オハーって何?」

「オファー!オハーじゃないっ!」


 はぁ、呆れちゃう。

 私はそっとため息をついた。


「出てください、ってお願いされることだよ」

「ハナ~、ありがとう~」


 私とは全く違う態度でクラムが言った。

 

「おかず一品減らそうかなぁ」

「えっ!」


 私はにやりと笑う。

 その顔を見たクラムはすぐさま叫んだ。


「ごめんなさい、ごめんなさい!!本当にもう、しません!どうか、どうかお許しくださいっシャイニー様素晴らしい」


 クラムは明らかに一品減らされたくないから、言っている。

 私はクラムを横目でにらんだ。

 ほんっとうに嘘が下手なんだから。


「フェアリーアイドル選手権の二か月後ですね」

「ヤッター―!」


 ビート先生の言葉に疲れが吹き飛ぶ。

 クラムの声に疲れがたまったけど!

 

「楽しみだね、お姉ちゃんっ」

「うん」

「もっちろん」


 ラジオにフェアリーアイドル選手権、いっぱいやる事がありそう。

 でも、楽しくなりそう!

 そう言えば……。


「家にラジオあるかも…」

「え!本当!?」

「その前にフェアリーアイドル選手権頑張りましょう」


 そうだった、私達はチョコレートボックスが出る選手権に出場するんだった!



☆🍴❀☆🍴❀




「あっ、ラジオあったよー」


 クラムがゴミ倉庫からラジオを見つけてきた。

 ゴミ倉庫とは家のいらなくなった物が眠っている倉庫。

 特に、クラムの……お菓子のキーホルダーが多い。

 夕飯の炒め物を作る手を止めて、ラジオの方を向く。


「料理から目を離しちゃダメッ!ウチのご飯が焦げたら、悲しいから!」

「全くもう、話しかけたのはそっちでしょ」

「むぅ―――っ」


 クラムがほおを膨らませる。

 私はクラムの顔を見返してから、炒め物に目を落とした。

 ジュウッときれいなやけ目ができる。


「クラムお姉ちゃん、どこにラジオ置きたい?」

「う――ん、皆で使いたい」

「……とすると」


 私は炒め物を皿に移しながら、考える。

 ラジオが邪魔にならずに、聞ける場所と考えると、あそこだ。


「「「カウンター!」」」


 三つ子らしく、声がそろった。

 それが何だか面白くて、三人で目を合わせて笑う。


「今まで情報が伝わらなかったから、すっごく助かるねシャイニーお姉ちゃん」

「そうね」


 ハナがにこやかにこちらを見る。

 どうしてこんなに優しい末っ子なんだろう。

 それに比べて次女は…。


「お笑い番組、楽しみ――――!!!」

「それは聞いたことが無いわね」


 長女の私が単刀直入に言った。

 お笑い番組、デレビにはあるけれどラジオにあるとは聞いたことが無い。

 あったら楽しそうだと思う。


「ゔゔっ。うわ――ん」


 クラムが大げさなほどに泣く。

 私にがあったら良いな。

 番組を作って、クラムを黙らせられるのに。


「あっ。朝の六時からお笑い番組がある………ってヴァイオちゃんが言ってた……と思うよ」

「本当!?やったぁ――!明日はぁ――六時に♪起・き・よ!ランランラン~っ」


 クラムが騒ぎながら歌う。

 いつもは八時五十分に起きているクラムが六時に起きると考えると……すごいな。

 

「六時に起床してくれるんだ、助かる」


 いつも五時半に起きて、洗濯に掃除機に朝ご飯の用意をして……大変なんだから!

 ハナが


――「ハナも五時半に起きて、手伝う!」


 と言ったときは全力で止めた。

 でも、クラムは逆にやってほしいと思う。

 私が笑うとクラムは悔しそうな顔をした。

 

「う――シャイニーが喜んでる……でも見たいんだよなぁ」


 クラムの独り言に私はもう一度にやりと笑った。



   

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