フェアリーアイドル！！

🍴第九話🍴 心から楽しむ

「ワン、ツースリー、フォー」

　次の日から、デビュー曲の練習が始まった。

　デビュー曲は、『ステップアップ』。

　とても明るい、勇気がもらえる曲なんだ！

　ウチ的には、お菓子の曲が良かった…。

　『ジューチュ』とか…。

　よ～しっ！

　この曲でデビューしたら、次は、『ジューチュ』を頼んでみよう！

　そして！

　練習がすごくハード！！

　いつもは踊る”だけ”、歌う”だけ”。

　でも今回は、同時にやらなきゃいけない。

　それに加えて、笑顔も大事。

「ここがサビです。右足をひいて、ターン。片足で立ち、両手を振り上げて、ジャンプ。着地の時に、右手も一緒に着けます。その後、体勢を戻しながらアップロックをし、右側に向けて側転をします。では、一回やってみましょう」

　………へ？

　今、ナンテイイマシタ？

　喋ったの、十秒くらいだったよね？

　これでやれっていうの？

　いや、冗談か、きっと。

――♫♫♫

　えっ嘘！

　ホントにやるの？

　暖房がついてる十一月なのに、寒気がしてきた～！

　ビート先生、スパルタでクビになってほしい！

　他の先生に代わってもらえる～！

　シャイニーが、口を開いた。

「ビート先生、もう一度言ってくれませんか？」

「えっ、もう一回ですか？」

　ビート先生の眉毛がピクリと動く。

　怒ってるよね!?

「はぁ」

　ひえっ！

　ビート先生、クビにならなくていいから、今すぐ長期休み取って！

☆🍴❀☆🍴❀

　ああ、終わった…。

　こ、こんなことがあるなんて…。

　が、頑張った、ウチ。

　れ、練習が、辛い～！

　て、手足が筋肉痛に…。

　さて、気づきましたか？

　二度目の登場、クラム名探偵。キラーン。

　頭文字を合わせると、『あ・こ・が・れ・て』！

　ウチに、あこがれて！

　…なんて言っていられる余裕も無い…。

「さあ…帰…る、わよ……」

「そう…だね…」

　シャイニーもハナも、とっても疲れているみたい。

　この光景、前に見たことある。

　そう、入所したての頃は、いつもこんな感じだった。

　ロッカーから荷物を取り、ウチは扉を開ける。

　すると……。

――ザバ――――――ッ。

　滝のように水が上から落ちてきた。

　そしてウチの体に勢いよく当たる。

　な、何？

「まさか社長からのプレゼント？」

「…な訳無いでしょ。さっさと帰るよ」

「うえ―――――ん」

「クラムお姉ちゃん、はいハンカチ。これで体を拭くと良いよ」

　そうだった！

　ウチは濡れてるんだったよ！

　いそいそとハナからもらったハンカチで体を拭き、歩きだす。

　歩いていると、通りすぎた妖精の言葉が耳に入った。

「わ―――ずぶ濡れ！」

「みっともな―――いっ。ギャハハハッ」

「仕組むの成功して良かったよぉ」

　えっ…。

　ウチは固まった。

　この妖精達がこの仕掛けを…？

　いくら鈍いウチでも分かった。

　ウチ…いじめられてる!?

「私達、四年もいるんだよ～?」

「社長が気に入ってるからってさ～」

「絶対コネで入ってきてるよね～」

「そーかもー」

　…は？

――カチンッ

　ウチは、一歩前に出て、その妖精たちにつっかかろうとする。

「クラム、行くわよ。手を出したらあの妖精達の思うつぼよ」

　小声で言われ、ウチは何とか思いとどまった。

　そのまま、ウチ達は事務所を去った。

☆🍴❀☆🍴❀

　その調子で二か月。

　いじめもどんどんエスカレートしてきた。

　上履きを水浸しにされたり、楽譜を破られたり。

　でも、ウチはだんだんいじめをスル―できるようになった！

　ふふん、エライ！

　ウチやっぱり大人っぽい！

　そして！

　ビード先生のレッスンは七十倍、いや百倍厳しくなった！

　そのかいあって、レッスン初日よりすっごく上手になった。

　ウチ、天才、よっ！

　ウチは『レインボーチャレンジ』の二次面接で知り合った、ラル君に、自慢のお手紙を書いたんだ。

　ふふふふっ、シャイニーの事をばかにすることは忘れなかったよ！

　何か後ろから冷たい気配が……。

　「どうだぁ――――い、今日は収録じゃぞぉ」

　な、なんだ社長さんか！

　てっきりシャイニーの鬼の顔が立ってるんだと思っていた。

　ウチの顔に垂れる汗を思いっきりぬぐう。

　そうだった！

　今日は収録だった！

「最初の歌詞…。コック、スティック、シャンプー？」

　ハ、ハナ…？

　何を言ってるの？

「それを言うなら、ホップ、ステップ、ジャンプじゃない…？」

　ブフッ！

　ハ、ハナ～！

　あなたはお笑いの神様です！

「それじゃあ、収録室へ行くぞ～」

「おー！」

　と言っても、もう、目の前は収録室だった。

　スタッフさんに誘導してもらい、マイクをセットする。

　楽しみ～。

「う、う、う、うーーー」

　ハナが叫ぶ。

　 体もガクガク震えている。

　うわぁー、緊張しているのが丸わかり。

　面白い！！

「大丈夫？」

「う、ううん……」

　ハナは、うんと言っているのかううんと言っているのか分からないような声をあげた。

　シャイニーも少し羽が青い。

　ま、まさか！

「緊張してるの！！フフフッ」

「そんなこと無いわよ～！残念でした～」　

　く、悔しい……！

　次こそは緊張してほしい……グフフッ。

「おっ、お三方緊張してるのかぃ？」

　社長さんがいつも通りのなまった声で言う。

「はい……」

「おおっ、そう言う時はなぁ、大切な合言葉があるんじゃぁ」

「「「合言葉!?」」」

　合言葉って何？

　ウチは興味津々の顔で、社長さんをのぞきこむ。

「心から楽しむっということじゃぁ」

「……？」

　心から楽しむ。

　社長さんから出た言葉に、ウチはあんぐりと口を開けた。

　ウチてっきり、社長さんに説教されるのかと思った……！

　説教されるのはシャイニーからだけで、良い！

　ウチは安心のため息をついた。

「心から楽しんでいないと、今日を聞いた妖精はぁ、楽しいとは思ってもらえないぃ。まずはアイドル達が楽しむんだぁ」

「分かりました！」

　ウチは、シャイニーとハナを見つめる。

　三人で一緒に楽しまなきゃ！！

――ワン、ツー、スリー、フォー

　音声さんの言葉の後に、楽曲のイントロが流れた。

「「「ホップステップジャンプ」」」

「さあ、駆けだそう！」

　社長やビート先生がウチ達のことをガラスごしに見つめている。

　何か……どんどん楽しくなってきた！　

　思いっきり息をス――と吸い込む。

「初めてしたことは何も知らないから―――」

　だんだんと曲が終わりに近づく。

　それでも、心から楽しむ気持ちは変わらない。

「「「自信を持って歩み出そう！」」」

「自分の好きなことは好きだと言える」

　もう少しだ。

　心臓が激しく動くのを感じる。

「「「自分を信じて――！」」」

　お、終わった!?

　現実にいないようなふわふわした気分。

――パチパチッ。

「オッケーです！」

　ドアが開き、社長さんとビート先生がウチ達に近づいてきた。

「すごいよぉ！デビュー曲からぁこんなにぃﾞ上手だなぁんてぇ！感動したよぉ」

「えへへへへ！」

　さすがウチ！

　これで世界の妖精にウチの素晴らしさが伝えられる！

「今までで一番良かったです」

　ウチ達は満開の笑顔を交わし合った。