❀第三話❀ バックダーン、発動注意⚠
――ドンドンドンドンドコドコドコドコドンッッ!
太鼓の音が広場に響き渡る。
「 今日は学園祭ですっ!」
司会者さんの声に、生徒たちが、
「おおーっ」
と応える。
「皆で楽しみましょうっ!」
「ふ~楽しみっ」「友達と回ろっかな」「早く行かなきゃっ」「クラスの出し物当番だったっけー」
色々な声が聞こえて来た。
う~、緊張マックス!!
「大丈夫か?」
ヴァイオちゃんがハナの肩をポンッとたたく。
ヴァイオちゃんまで緊張してるのかな。
ハナは、六人で校内を回ることにした。
アイドルステージの時間まで。
ああ、思いだすと、緊張が…。
大好きな雲あめを買ったり、魔法対決ショーを見たりしたんだけど!
肩の震えが止まらない~っ!
――ガタガタガタッ
「肩、揺れてる。ペガサスが水を飛ばす胴震いみたい」
ヴァイオちゃんがそう言うけど、つっこむ余裕も、笑う余裕も無い。
「はぁ――。すぅー、はぁ―――」
ため息を深呼吸でごまかす。
「そろそろステージの時間だよっ。行こうか」
シャイニーお姉ちゃんに言われて、ハナは歩きだす。
大広間のステージ裏まで来た。
衣装に着替えてスタンバイ。
クラムお姉ちゃんが、魔法で、衣装を自分好みの色に変えている。
やっ…やめてあげて、手芸係さん、頑張ってたんだから。
「次は、一年生のアイドルステージです。曲は、チョコレートボックスのマガジンです。どうぞ」
司会者さんの声を合図に、ステージへかけていく。
――♪♬♩♫
観客席を見て、ハナは目を瞬いた。
観客が…少ない。
ヴァイオちゃん達三人に加えて、他の観客は四人しかいない。
がらんとした空席が目立つ。
今まで頑張ってきたのに、全然見てもらえない…。
「♪朝起きて 流行に合わせた服を着る」
今までの成果を発揮できなかったのか、
「もう行こっか」
と言う声が聞こえる。
ついには、観客席には、ヴァイオちゃん達三人しかいなくなった。
それでも、ハナ達は、必死に歌い、踊り続ける。
三人の前だから、緊張はしない。
でも……、頑張った成果を、もっとたくさんの妖精達に見てほしかった。
――ジャーンッ
最後の音が、空しく、響いた。
ハナ達は無言のままステージから退く。
「「「はぁ――」」」
いつも元気なクラムお姉ちゃんまでもがため息をついた。
いそいそと服を脱ぎ、ヴァイオちゃん達とも合流し、校内へ戻る。
「どうしてこんなに妖精がいなかったの?」
そう言いながらシャイニーお姉ちゃんが近くの売店で買ってきたアイスコイヒーと言う甘い大人気ドリンクを手渡す。
「うーん。確かに何でだろ~ウチ達のアピールが足りなかったのかな?」
「そんなことありませんよ」
クラムお姉ちゃんの意見をミルキーさんが否定する。
「シャイニーちゃん達、すごいがんばってたよ~」
「そうだな…」
ピアノちゃんとヴァイオちゃんも言う。
「ありがとう…でも、やっぱりアピール不足かも」
ごくりとアイスコイヒーを飲む。
「こ、このアイスコイヒー、お、美味しいねっ!」
クラムお姉ちゃんがぎこちない笑顔で言う。
ちょうどその時。
――ピリーンポローンパラーンポローン
「これから放送を開始します」
低い声。多分、男性の声だ。
どうしたんだろう。
「この中学校にバックダーンを仕掛けた。仕掛けていない場所は、大広間だけだ」
バックダーン――それは、妖精を飛べなくさせてしまう、最悪の薬をまき散らす機械。
すべての妖精が恐れている。
「警察に通報すれば、すぐにバックダーンを起動させる。存分に恐怖を味わえばいい。ヒッヒッヒッヒッ」
――ピリーンポローンパラーンポローン
バックダーンがこの学園に!?
衝撃で体が思うように動かない。
「
「そうだな」
「ほら、早く~」
ヴァイオちゃん達三人が言う。
こんなに大変な事態なのに落ち着いてるみたい。
少しひっかかりを覚えたけれど、
「「う、うん…」」
と、クラムお姉ちゃんと一緒に答える。
「それじゃあ、私の魔法でさっさと行きましょうか。私のどこかにつかまって」
――バギューンッ
「「「「「〇☆※◇?9÷@!!!!」」」」」
シャイニーお姉ちゃん以外が全員、声にならない悲鳴を上げた。
風力が強い!
発電出来る量だ…!
そして、怖い……!!
頭がくらくらする。
シャイニーお姉ちゃんの魔法のせいなのか、バックダーンのことを知ったショックなのか、またはその両方か。
分からない。
「あっ!妖精がいっぱい来た」
クラムお姉ちゃんが指差した方向を見ると…あ、本当だ。
妖精が、ジューチュを三階からこぼしたときみたいに、勢いよく飛んでくる。
地球の波のようだ。
列にもなっていない。
皆、大慌て。
「おお、大広間が、妖精の羽で、カラフルになっていく!」
クラムお姉ちゃん…確かにきれいなんだけど…。
皆の心は、カラフルな羽と対照的に、とっても暗い。
「皆を、元気にできないかな…」
皆の心を明るくしたい。そう思って、ハナはつぶやく。
「いいんじゃない?何をするの?」
「クック―配るのはどう~?食べ物で元気もりもり~!!」
「さすがにクック―、こんな人数配れませんよ?」
ミルキーちゃんが適切なツッコミを入れる。
確かに…。
「じゃあ、どうしろって言うの~!」
「何か
「マジックとか……」
「魔法対決ショーとか~」
でも、出来そうに無い。
何かないかな……。
「あっ!」
シャイニーお姉ちゃんが声をあげる。
何か思いついたの……?
「アイドルステージをやるのは!?」
「「あっ!」」
「「「っ!!」」」
アイドルステージか…!
皆が楽しくなれそう……!
「さっきの失敗もリベンジできる!一食二鳥!ジュルルッ、おいしそ~」
「一石二鳥よっ。一回の食事で二羽も鳥、クラム以外は食べません!でも…よしっ、やるのなら行動あるのみ。先生に許可取りましょう」
「あっ!フー先生、ちょうど良いところに~!フー先生!」
フー先生の所にクラムお姉ちゃんが駆けていく。
クラムお姉ちゃんはフー先生にあれこれ説明しているみたい。
「…………戦通りですね」
ミルキーちゃんの声が聞こえた。
「うん?」
「あっ、いえ、何でもありません」
少し経つと、クラムお姉ちゃんがハナ達の所に戻って来た。
「イェイッ」
そう言いながら大きな丸を作る。
少し分かりにくいけれど、つまり先生が、オッケーを出してくれたってこと。
「じゃあ、ピアノはここで待ってるね!頑張って!ほら、ヴァイオも」
「…頑張れ…」
「応援してますよ」
三人とも…ありがとう!
「行って来ま~す」
「ハナも行ってくるね」
「二人とも、行くなら早く行くわよ」
ハナ達は、妖精混みをかき分けて、二度目のステージ裏へ向かう。
衣装に着替えて、いざ、ステージ!
――♪♬♩♫
「なに?」 「えっっ」 「もしかして、バックダーンが大広間にもあったの!?」 「そんな!」
ハナ達がステージに立つと、大勢のポカンとしたかをがこっちを向いた。
ひえぇっっ。
恥ずかしいっっ。
「こんにちは。これから、特別ステージを始めます」
シャイニーお姉ちゃんが、群青色の空に手を上げる。
「えっ何?」 「こんな時に?」 「まさか犯人からのメッセージ?」
不安の声がハナの耳に届いた。
確かに、私が見ている立場だったら、絶対、そう思う。
「ウチ達が皆を元気づけたいと思って、急きょ企画しました~。バックダーンとは関係ないから、安心して~。クラスメイトの皆も、楽しんでって~!」
「いや、クラスメイト以外の人にも楽しんでもらわないと」
お姉ちゃん達の会話で、少しだけ、笑いが起こる。
――♪♬♩♫
ハナ達が交互に歌い出した。
曲が進むにつれて、皆の顔が明るくなってくる。
すると突然、一人の妖精がハナのことを指差した。
えっ、何?
ハナ、何かやらかした!?
「あの子、すごく歌上手~!キレイな歌声~」
「確かに~」
え、ハナの事、褒めてくれてる!?
しかも、賛同してくれてる!?
嬉しい!
最初、
「バックダーンが…」
と言ってハナ達のステージをみていなかった妖精も、笑顔で音楽に合わせて手拍子を打ってくれている。
「次、サビだよ~!盛り上がって~!」
クラムお姉ちゃんの声に、皆が歓声で応える。
クラムお姉ちゃん、盛り上げるの、上手だな。
「♪何事も、自分らしくいれば大丈夫!
♪妖精の羽がカラフルなように、性格も皆カラフル!」
ハナは、大広間中をオレンジ色のマリーゴールドで彩る。
すると、なんと!
クラムお姉ちゃんが、マリーゴールドの色を青色に変えてしまった。
お花は、本来の色の方が美しいんだよ、クラムお姉ちゃん…。
でも、皆のウケは良いみたいだから、怒らないでおこう…。
――キラーン✧
昼間なのに流れ星…、いや、違う。
シャイニーお姉ちゃんだっ!
そう言えばシャイニーお姉ちゃん、
「光の速度で飛ぶと、私の羽は黄色だから、流れ星みたいに見えるの」
って言ってたっけ。
~おぉー!~
大広間中にどよめきが広がる。
「♪カラフル相手の事も自分の事も認め合おう 明日へ~す~す~もう~~」
――ジャーンッ
~パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ~
「最高だったよ~」 「すごかった!」 「楽しかったよー」
拍手と大歓声が聞こえてくる。
よ、よかった…。
皆に喜んでもらえて、頑張ったかいがあった。
あ、でも、バックダーンが…。
と、思ったその時。
「皆さん、楽しめましたか~?」
声がしたほうを見ると…ピアノちゃん!?
その隣には、ヴァイオちゃんとミルキーちゃんがいる。
「バックダーン事件!~中学校の皆はバックダーンの謎を解けるのか~と言う企画をやっていました」
「謎が解けた人はいませんでしたが、アイドルステージ、楽しめましたね」
「これで、サプライズ企画を終わります」
「「「ありがとうございました」」」
………………………………え、え、え、え?
ど、どういうこと!?
☆🍴❀☆🍴❀
「で、どういうことだったの?」
下校時刻。
シャイニーお姉ちゃんがヴァイオちゃん達を問い詰める。
「うーんと…」
ヴァイオちゃん達が話した内容をまとめると、こう。
ミルキーちゃんが持っている魔法は、『
その魔法で、ミルキーちゃんは、ハナ達のアイドルステージに、観客が来ないことが分かった。
ヴァイオちゃん、ピアノちゃんと話し合って、別のイベントが無い時間に、アイドルステージを移してもらおうとした。
アイドルステージと同じ時間に大人気マジシャンのマジックショーがあり、観客が来ないから。
でも、アイドルステージの時間を移すことは不可能だった。
だから、大広間に人を集めるために、先生達にも協力してもらって、デマバックダーン事件を起こすことにした。
「フー先生と三人が話してたのは、これかー」
「私達が三人でアイドルステージをやるって言ったときに驚いていたのは、魔法が当たったからだったのね」
「元々、ハナ達が三人でアイドルステージをやるってこと、知ってたんだね」
「ハナ達の優しさを利用した、ごめん」
え~っ、もう。
照れちゃうなぁ…。えへへっ。
今回は楽しかったから、大丈夫!
「ヴァイオちゃん達、ハナ達のために企画してくれてありがとう」
ヴァイオちゃん達は、嬉しそうに目を細めた。
ハナ達は、笑いながら、オレンジ色の夕日を見つめた。
アイドルって人を笑顔にできる、素敵な存在なんだな。
ハナ達のアイドルステージ、無事(?)、終了ですっ!
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