❀第二話❀ 学園祭でアイドル!?

「ええええぇっ!」


 中学校生活に慣れてきた五月に、ハナこと、ハナ・ガーデン・ワールドに、

事件が起きた。

 説明するには、さかのぼること十五分。

 担任のフー先生が、


「学園祭の準備をしましょう」


 と言った。

 この中学校の学園祭は、季節はずれな六月にあるんだ。

 町全体でやるから、この町ではすごく有名。

 カフェが開かれたり、抽選会が行われたりして、とても本格的。

 そしてそして!

 各学年人グループが、アイドルステージを披露する。

 学園祭のアイドルステージに憧れたのが、この中学校に入学した理由の一つなの。

 誰にも言っていないけれど、ハナは、アイドルが大好きなんだ。

 この学年は立候補者が一人もいなかったから、抽選になった。

 いつもは見る方専門だけど、ちょっとステージに立ってみたい。

 そんな思いもあったけれど、ハナは恥ずかしくて立候補できなかった。


「はぁ――」

「ん?」


 彼女は、ヴァイオ・ブラック・ミュージック。

 手芸の授業で、針に糸が通せず悩んでいたヴァイオちゃんに、ハナが、こつを教えたことがきっかけで、仲良くなったんだ。

 ヴァイオちゃんは、学園祭で、手芸係になりたいみたい。

 ハナはしょんぼりと肩を落とす。


「は~い。皆、男女関係なく、アイドルくじひいて~。くじが外れたら、何係になるか決めてね~」


 気さくなフー先生が言う。

 ハナは、何の特技もない。

 何係に入ればいいんだろう。


「ヴァイオちゃん、くじの列、並ぼっか」

「ああ」


 少しぶっきらぼうだけど、ハナのことをきづかってくれるヴァイオちゃんは大切な友達。

 照れ屋さんなのかも…?


「今日のお弁当何?ハナはハンバーグなんだ」

「……キャラクターの形に切られた海苔が貼ってあるおにぎり。具はショケ」


 ショケは妖精世界フェアリーワールドのお魚。

 妖精世界フェアリーワールドに海は無いけど、池はあるんだ。


「へぇ~!そうなんだ、いいな~」


 そんな話をしていると、くじ引きをひく番が来た。

 学年に一人の確率。

 一クラス三十人×三クラスだから…当たる確率はとても低い。

 きっと、シャイニーお姉ちゃんが目玉焼きを焦がしてしまうくらいの確率。

 そんな場面見たことが無い。

 それが当たった人は、今年のおみくじが大吉だった妖精だろうな。

 ハナはちなみに、末吉だった……。


「えいっ」


 ヴァイオちゃんはハズレ。


「ハナも~、えいっ」


 パラパラと四つ折りの紙を開けると、


「えぇっ」


 赤い文字で『あたり』と書いてある。


「おめでとう~!」


 フー先生の声で、やっと状況を飲みこんだ。

 末吉なのにアイドルステージ!?


「ええええぇっ!」


 こうして、今に至っております。

 どっどっどっどうしようっっ。

 ハナは、アイドルが大好きだけど、目立つのは、む、無理~!

 不安がどっと押し寄せてくる。

 押し寄せすぎて、溺れそうだよ。

 それなのに、皆ときたら…。


「ハナ、おめでとう、良かったな?」


 とヴァイオちゃん。


「お、ワールドさんになったのか。俺、やらなくていいぜ!ヨッシャ―!」


 などなど。

 新学期早々、大、大、大、大ピンチ!



☆🍴❀☆🍴❀



 授業が終わり、十分休憩。

 すると、お姉ちゃん達が話しているのを見つけた。

 無我夢中で駆けだす。

 校内で飛んだら校則違反だから、走る。

 あ、もしかして、走るのも、校則違反?


「ねえねえ、お姉ちゃん達~」

「ハナ!走ったらだめっ」


 シャイニーお姉ちゃんに言われちゃった…。

 ごめんなさい。


「ど、どうしようっっ。学年代表、アイドルステージを、ハ、ハナがやらなきゃいけなくなっちゃった……」

「「ええっ!」」


 お姉ちゃん達は声をハモらせた。


「あの、人見知りのハナが?」

「人前で喋れなくなっちゃうハナが?」

「人前に立つと、冷凍した岩みたいになっちゃうハナが?」

「「アイドルステージ!?」」


 お姉ちゃん達の、機関銃攻撃。

 大声でハナの人見知り歴を言わないでほしいよ~。

 しかも、『冷凍した岩』って、どういう表現…?

 つっこみたいけど、本当のことだから、つっこめないよ。


「それで、頼みたいことがあるの…!」

「あっ、もしかして…」


 シャイニーお姉ちゃんが話を遮る。


「ハナのふりをして、ステージに立てばいいの?」

「違う…」


 ハナ達、顔はそっくりだけど、髪の毛の色は全く違うよ…?

 シャイニーお姉ちゃんは黄色、クラムお姉ちゃんは白色、ハナは桃色。

 クラムお姉ちゃんの魔法を使えば色は変えられるけれど、性格は全く違うし、ばれちゃうよ。

 羽の形も違うしね。

 あと、声をもう少し小さくして…目立っちゃう。


「ハナと一緒に、アイドルステージ、出てくださいっ」


 九十度に、頭を下げる。

 勢いよくハナのポニーテールが揺れた。

 フー先生に聞いたら、


「他の妖精と一緒にやってもいいわよ~」


 と言っていたんだ。


「そんなの…」


 クラムお姉ちゃんの声に、ハナは青ざめる。

 もしかして、断られちゃう?

 一人になったらどうしよう…。

 でも、頭の上から降ってきたのは意外な答え。


「良いに決まってるよっ」


 えっ!?


「妹のためウチ、頑張れるっ」

「妹のためにしかできないんだ」


 姉のためにも頑張ってと言わんばかりシャイニーお姉ちゃんがつっこむ。

 クラムお姉ちゃん、家事を全部シャイニーお姉ちゃんに押しつけてるもんね。

 ハナも、もっと手伝わなきゃ。

 あ、いけない。

 話がそれちゃった。


「シャイニーお姉ちゃんは一緒にアイドルステージやってくれる?」


 シャイニーお姉ちゃんは頭を使って考えるのが得意だから、いてくれると、とっても頼りになる。

 一を聞いて十を知る、って言う言葉が似合うお姉ちゃんなんだ。

 心臓が地球生物のうさぎ、みたいにビョンビョン跳ねる。


「お願い、シャイニーお姉ちゃん!」

「うーん。そうだねぇ。まあ、衣装代とか、かからないなら良いよ」


 そう言ってシャイニーお姉ちゃんはウインクする。


「え、本当?」

「うん、本当本当」

「本当に良いの?」

「だから、良いってば。私、目立つこと嫌いじゃないから」


 う、嬉しい~。

 ありがとうっ。

 ハナは道に花が咲いているのを見つけた時のように、無邪気に笑う。

 ハナの魔法で、周りに、オレンジ色の花が咲いちゃった!


「じゃあ、先生に連絡しに行こっか」


 と、シャイニーお姉ちゃんがせかす。


「あ、あそこに、ミルキーちゃんと、ヴァイオちゃん、ピアノちゃん、フー先生がいる~」


 クラムお姉ちゃんが叫ぶ。

 目立つから大声出さないでっ。

 あ、ピアノちゃんこと、ピアノ・ホワイト・ミュージックちゃんは、シャイニーお姉ちゃんの友達であり、ヴァイオちゃんの双子の姉でもあるの。

 意外なつながり。

 それにしても、ヴァイオちゃんとピアノちゃんが一緒にいるのは分かるけど、ミルキーちゃんとフー先生も一緒なのは、何でだろう。

 ハテナマークが頭を埋め尽くした、その時。


「おーい、ミルキー!」


 クラムお姉ちゃんがミルキーちゃんに声をかけちゃった!?

 ダメじゃないの、話をさえぎったら!? 

 迷惑かけてない?


「あら、噂をすれば」


 フー先生が笑いながら言う。


「え、ウチ達のこと話してたの~?」

「うん、そう。ハナがアイドルステージをやるってことを話してた。そうでしょ、ピアノ」


 え、ハナ…?

 ヴァイオちゃんに、お姉ちゃん達と一緒にやろうと考えていること、話したっけ?


「ううう、ううううん!そそそ、そうだよっ!」


 手を回しながら、ピアノちゃんが言う。

 明らかなる嘘、だよね。


「悩みがあるなら、いつでも言ってね」


 思わずそう言う。

 おせっかい過ぎたかな。

 嫌われてないかな。

 冷汗が垂れた。


「いや、何でもありません。」


 ミルキーちゃんが笑顔で答えてくれた。

 何でもないならいいけど。


「ところで、何の用?ワールドさん達」

「フー先生。私達、三人で、アイドルステージをやります」

「「「!」」」


 ヴァイオちゃん、ピアノちゃん、ミルキーちゃんの三人が目を見合わせる。


「あ!ミルキー達がウチ達三人でやるって聞いて、びっくりしてる~。あははっ」

「ふーん。魔法ってすごいのね」

「「「?」」」


 フー先生のつぶやきに、ハナとお姉ちゃん達は、首をかしげる。


「あ、なんでもないわ。先生は、三人でやるの、応援するわ」

「「「ありがとうございます」」」

「二日後までに曲を決めておいてほしいのよ。これ。詳しい説明が載ってるから、よく読んでね」


 書類を渡して、フー先生は去っていく。

 と、シャイニーお姉ちゃんが、ひきとめた。


「先生、待ってください」

「ん、なあに?」


 ハナも、クラムお姉ちゃんも、ヴァイオちゃん達も、もちろんフー先生も何を言おうとしているのか予測不能。


「衣装代、自腹じゃないですよね?」


 ちょっとっ…!

 目立ってる、恥ずかしい…。

 ハナとシャイニーお姉ちゃん以外、いつもクールなヴァイオちゃんまでが、笑いだした。


「あははっ。も、もちろんよ~。が、学園祭の、あはは、手芸係に、やってもらうから」


 笑い過ぎて出た出た涙をぬぐいながら話す、フー先生。


――キリ―ンコローンカラーンコローン


 あっ。

 授業が始まる。

 ハナは、フー先生、ヴァイオちゃんと一緒に、教室に向かう。

 席に着くと、隣の席の妖精が、ハナに言った。


「お疲れ様」


 もしかして、ハナ達の会話、教室まで聞こえてたっ?

 恥ずかしさで顔が真っ赤になる。

 ――って、こんなことで恥ずかしがってるようじゃ、アイドルステージ、一体どうなるのっ?



☆🍴❀☆🍴❀

 


 二日後の昼休み。

 ハナ達は、アイドルステージの練習をしているんだ。

 ハナ達が選んだ曲だから、余計にやる気がわいてくる。

 とっても有名で、伝説級だいにんきの五人組アイドル『チョコレートボックス』の、「マガジン」っていう曲なんだ。

 ハナは、誰にも言っていないけど、チョコレートボックスの大ファンなんだ。


「「「ワン、ツー、スリー、フォー」」」


 ヴァイオちゃん達も練習に付き合ってくれてるの。

 持つべきものは友だよ。

 ありがとう。


「ハナちゃん、よそ見しないで~」

「御三方、笑顔笑顔ですよ~」


 アドバイスもしてくれる。

 こんなにも応援してくれる妖精がいる。

 期待に応えて、頑張らないと!

 毎日、チャイムが鳴るぎりぎりまでお手本の画像を見て練習する。

 毎朝の発声練習、体力をつけるためのジョギング。

 そうしていると、どんどん上手になっていく…気がした。

 

 ――一か月の月日が流れた。

 そして、学園祭の日がやってきた!

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