アリの巣

目を開けると、僕は薄暗いところにいた。


「おや、なんだか大きなのがついてきてると思ったら、こんなところまで来ちゃったのかい」


 すぐ耳元で声をかけられ、びっくりしてそっちに顔を向けると。

 驚いたことに、さっき巣穴に光るものを運んでいたアリが目の前にいた。僕と同じ大きさで。手にはぴかぴか光るボールみたいなものを持っている。他のアリたちの姿はない。

 僕は慌ててきょろきょろと周りを見回した。


「ここって、もしかして巣の中なの?」

「そうだよ。仕方のない子だね。ついておいで。すぐには出られないんだから」

「え? どういうこと? 早く帰らないと、僕、困るんだけど」


 僕が言うのを無視してアリは歩きはじめる。おいていかれたら大変なので、急いでついていく。奥へ奥へと進んでいくとだんだん暗さがましてきて、怖くなる。アリの持っているぴかぴかだけが頼りだ。

 しばらく行くと、なんだかいい匂いのするところへ出た。


「さあ、お座り」


 薄明りの中、テーブルみたいな席を進められ、素直に座る。


「さて、アンタはどっちが食べたい?」


 唐突に訊かれて首をかしげると、アリは僕のすぐ目の前に二本の手を差し出した。

 アリの手にあるものは、どちらも同じような塊で区別がつかない。いつも選択権を与えてもらえない癖で、ついこう言ってしまう。


「どっちでも」

「なんだって? どっちでもだなんて、そんなのはないんだよ。アタシはあんたの意見を聞いているんだ」

「そんなことを言われても、僕には区別がつかないし、どうせ選んだって結局違う方を取らせたりするんだろ?」

「何を言っているんだい。アンタには自分の意志ってもんがないのかい? それならアタシがえらんでやるよ。これを食うといい」


 そう言って差し出されたものを手に取ると。

 それは急に臭いにおいを発してぐずぐずと崩れてしまった。とても食べられそうにはないものだ。


「こんなの食べられないよ」


 文句を言うと、アリはじっと僕の目をにらみつけた。


「なんだって? アンタが選べないって言うからアタシが選んでやったのに、食べられないとはどういうことだい?」


 怒鳴り気味の口調にしどろもどろの返事しかできずにいると、アリは一転して優しい口調になった。


「自分でしっかり考えて、その意思をはっきり言わないと、何をつかまされても文句は言えないんだよ。どうせ、なんて言ってるとロクなことはない。自分の意見を押しつける人はいろめがねで物を見ているんだ。押しつけられそうになったら、反論しなきゃいけないよ。きちんと理由を言えば、相手も考えるさ。それと、もう一つ。身の丈に合ったものが一番さ。むしめがねだからここに来れたんだからね」


 そう言って、もう一つ持っていたものを差し出した。

 それは甘い果物のようなにおいがする。僕はうながされるまま、それにかぶりついた。


 するとかじったところから、さっきと同じような光がぴかーっと漏れた。

 僕は思わず目を閉じた。

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