第十六話 模倣されたローザ
無邪気に走っているように見える、透明な身体の少女達。外見は相当幼いが、その少女の見た目はどう見てもローザであった。
「ちっちゃいローザだ、可愛い」
「は? 大きくても可愛いだろ」
「おおう、予想外の反応」
ローザは随分と、自分の外見について自信を持っているようである。
「でも、可愛くても相手は魔物、外見に惑わされないよう気を付けないとね」
「ああ、分かっている」
武器を構えて、二人はスライムのローザを追いかけ回す。
レクシーが一体に追いつくと、彼女は動けないように、瞬時に剣で斬ってバラバラにした。
ローザはその光景を目にして苦笑いする。
「なかなかに、酷い絵面だな……」
スライムが変身しているだけとはいえ、見た目は小さな女の子だ。それをバラバラにするというのは非常にショッキングな光景である。
ましてや、ローザにとっては自分の姿をしたものがバラバラにされている。かなり複雑な心境だろう。
一定の小ささにされたスライムは、形を保つ力を失う。
バラバラにされた少女の身体のパーツは、どろっと溶けかけているような見た目で地面に散らばっている。
「う……外見に惑わされないようにって言った矢先のことだけど、これはさすがに気が引けるね」
レクシーもその光景に顔を顰めた。
「……向こうから襲ってくるわけでもないから、いっそのこと無視して先に進むっていう選択肢もあるな」
確かに、今回は二人がちょっかいを出しただけで、特にスライムから襲ってきたわけでもないのだ。そう考えると、このスライムはそこまで危険ではない可能性もある。二人はそう考えた。
「そうだね、この周辺で『薔薇の魔女』に似たスライムの目撃情報が出る可能性がある以外は、問題なさそうだ」
「できれば目撃情報は勘弁願いたいんだがな……」
そうして、なんとなく二人がこのスライムを無視する方向へと考えがまとまってきた時の事であった。
「っ!?」
「なっ!?」
レクシーの頬を、赤い光弾が掠めた。
それは、二人の様子を遠くから眺めていたスライムローザのうちの一体が放った
光弾の射出された方を向くと、一体のスライムローザの上に、赤い花の魔法陣が展開されていた。
二人は確信する。本物のローザのものよりも威力は低いが、あの光弾は明らかにフラワー・バレットである、と。
「あのスライム、魔法まで私と同じ……!」
「一度飲み込んだ相手の特徴を再現できる、のかな。攻撃も仕掛けてきたし、やっぱり危険な存在かも」
戦闘を避けることが出来るかもしれないと思っていたところだが、考えを改める。
ローザの魔法を扱える魔物など、野放しにしていいものではない。むしろ優先して排除するべき存在だ。
再びあのスライムを敵と認定し、二人は武器を構えて戦闘態勢に入った。
二人の対峙しているスライムは、名をイミテートスライムといい、体に取り込んだ相手の見た目や能力を模倣する特性を持つ。
恐ろしき特性だが、あくまで模倣であるため、外見の再現度は高いものの能力も完全再現とまでいくことは珍しい。例えば先のフラワー・バレットには、ローザのものより威力が低く、連射もできないという相違点がある。
イミテートスライムには、攻撃手段を持たない限りは積極的に相手を襲うことはしないが、模倣により攻撃手段を得た場合は相手を攻撃するようになるという習性がある。
つまり、相手を模倣すると攻撃性の高い魔物になるのだ。
そして、獲得した能力による攻撃が通用しないと相手から逃げるようにもなる。
一度目の模倣、レクシーの上半身を取り込み、スライムがただ腕を伸ばしたときの行動がそうだ。人間の腕という力を手に入れ、積極的に相手を取り込もうとした後に腕を斬られ、攻撃が通用しないことを察し、ローザの姿を模倣した直後までは逃げの一手を打った。
その後、レクシーとローザが話し合っている
と、言うことである。
一部愛好家の中では、新しい攻撃能力を手に入れる度、「あれっ、もしかしていけるんじゃない!?」と調子に乗る辺りがおバカで可愛らしいという意見もあるが、総評するとイミテートスライムは危険な魔物である。
その上、今回二人が遭遇したのは世にも珍しい超巨大サイズ、更に本来は持たない魔力吸収という特性すら持っている。退治しておくに越したことはない。二人の判断は正解と言えよう。
スライムを退治することに決めた二人のうち、初めに動いたのはローザだ。
「どれ、私がひとつ魔法の手本を見せてやろう」
魔法とはこうするのだと、得意げな笑みを浮かべ、『薔薇の魔女』は高らかに宣言する。
魔法を発動させるまでの速さ、目標を撃ち抜く正確性、威力、どれをとってもローザの方が上、完全上位互換の魔法を放つ準備は整った。あとは放つだけである。
だが、彼女はここで大切なことを忘れていた。
「"フラワー・バレット"!」
しかし
「あっ 」
「えっ?」
そう、ローザにはもう魔力が無かった。スライムに取り込まれた際、魔力を吸収されたのに加え、無理な脱出で使ったことで、もうすっからかんであった。
沈黙、二人の間に冷ややかな風が吹いた。
「……もしかして、もう魔力無い? え、嘘。魔法使いなのに自分の魔力が足りないことに気付かなかったの?」
「あーっと……ん゙んっ!」
ローザは赤面しながら、なんとか動揺を表に出さないよう取り繕って咳払い。
「い、いや、分かっていたぞ。た、戯れ……そう、ちょっとした戯れだ」
「……ほんとかなぁ」
「ほ、本当だっ! 笑うな!!」
折角格好つけたというのに、ぐだぐだである。
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