第九話 異変
スカイガンナー、グルガロンと続けて魔物を討伐した二人は、無事にグラトの森の奥地、ルナール湖へと辿り着き、目的であったルナール草を採取することに成功した。
これでジュエラの母親を助けることが出来ると、彼女達は安心し、来た道を引き返す。帰りの道では特に魔物と遭遇することも無く、二人は比較的快適に森を抜けることができた。
無事に依頼を達成できた記念として、二人で何か美味いものでも食べようじゃないかと盛り上がりながら、森の入り口付近からレーダックへの道を歩いていた時の事である。
「ん?」
少し遠く、二人が歩く道の前方に、人型の影が立っているのが見えた。
「なんだろう、あれ」
「どれのことだ?」
「ほら、あそこ、なんか人っぽい影が……」
「あー、本当だな。なんだあれ」
既に辺りが暗くなり出していたので、具体的にそれが何であるかは、近づいてみないと分からなかった。
「近づいてみる? 魔物とかだったら危ないし、ボクたちで対処した方がよさそうじゃない?」
「だな、そうしてみるか」
ということで、二人はその人型の影に近寄ることにした。
近づいてみると、その影の正体は簡単に突き止められた。
案の定影は人間ではなく、その正体はごつごつとした岩の肌を持った人形ーーゴーレムであった。
「あ? ゴーレム? なんだってこんなところに」
ローザが不思議そうに言った。
ゴーレム。特殊な魔法を使い、岩を素材に人が作り出す使い魔の一種だ。
首を傾げながら、動かずその場に立ち尽くすゴーレムにローザが近づいていくと、突然ゴーレムは動き出して彼女に襲い掛かった。
「うおおおおっ!?」
驚きながら、腕を振り下ろす攻撃に咄嗟に反応して大きく後ろに下がる。
「このっ、野郎!」
驚かされて腹の立ったローザは、そのまま跳躍し、ゴーレムの頭めがけて右足を振り抜いて蹴り砕いた。
「い、いきなり動いたね……」
レクシーも突然動き出したゴーレムに驚いた様子で、胸に手を当てながら言う。
「ああ、こいつ。細かい条件は分からんが、近づいた者を襲うように命令された低級ゴーレムだ」
ゴーレムには低級、上級と種類がある。低級は造り出すのに使う魔力の量も魔法の難易度も比較的控えめで、量産することが可能であるが、自由に思考し動くことは出来ず、動かすにはある程度命令を登録しておく必要がある。
一方、上級のゴーレムは造り出す魔法の難易度も高く、魔力も大量に必要となり、更には素材も厳選する必要があるのだが、その代わり自分で考えて行動し、会話すら可能と、もはや人間と変わりない運用が可能である。
今二人が遭遇したゴーレムは前者にあたる低級ゴーレムだ。
「低級とはいえ、鉱山で有名な地域だからな、まあまあいい素材が使われている。だが、なんだってこんなところにいるんだ?」
「謎だね……。でも、なんとなくだけど嫌な予感がする。早く街へ戻ろう」
レクシーの言葉に、ローザは頷いて二人は走り出す。
ほどなくして、街に戻った二人はそこで信じられない光景を目にすることになる。
「ゴーレムが街を襲ってる……!?」
レーダックの街。そこには、人々を襲う沢山の低級ゴーレムの姿があった。
家屋を破壊し、逃げ惑う人々を追いかけ、四方八方から悲鳴や何かを破壊する音が聞こえてくる。
「ひ、ひいっ! 助けーー」
「させるかあっ!!」
丁度、街の住人がゴーレムに襲われているところを、盾を構えた旅人が割って入り助けたのが見えた。どうやら、戦える者がゴーレムの対処にあたっているようだ。
一方的に蹂躙されているわけではないが、それでも街は昨日までの平和な様子からはかけ離れてしまっている。
「酷いな……」
ローザが顔を顰めた。
「……ボクたちも戦おう」
レクシーはいつもよりも少し冷たい声色でそう呟くと、剣を抜き、駆け出して近くにいた低級ゴーレムたちをまとめて切り伏せた。
岩石相手でも簡単に斬ることが出来るのは、さすが有名鍛冶師によるオーダーメイドの剣と言うべきだろう。
ローザもそれに続いて、槍でゴーレムを突き、薙ぎ、ときに砕く。
「おお! 『蝶の剣士』と『薔薇の魔女』だ!!」
異名付きの旅人が二人も戦力として投入されたことで、ゴーレムはみるみるうちにその数を減らしていく。このままのペースならば、あと十分もすれば全てのゴーレムに対応しきれるだろう。
希望が見えてきたと、周りの人間の顔が少し明るくなる。
ーーだが、その時であった。
「ちっ……ゴーレムが
ローザが舌打ちして言った。
見れば、倒したはずの低級ゴーレムたちがすべて復活していた。
「ローザ、これはどういうこと?」
その様子を見て、レクシーはローザに何が起こっているのか尋ねると、ローザは復活したゴーレムに対処しながら説明を始めた。
「ゴーレムは元々は岩石だ。倒せば素材に戻る。それならその素材をまたゴーレムに組みなおすことだって出来るだろう? 低級ゴーレムは造るのが簡単だから、組みなおすのだって簡単なんだよ。つまり、こいつらに街を襲わせた奴がゴーレムを再生させてるってことだ」
ローザが説明している最中に、また二人が破壊したゴーレムが目の前で再生する。
「こんな風にな」
心底面倒そうに、ため息交じりにローザは言った。
「広範囲に魔法を展開し、範囲内のゴーレムを組みなおしてるって感じだな。街全体に及ぶ規模の魔法だから、ある程度魔力が必要な筈だが、それも大地から魔力を吸い上げて利用しているようだ」
どうやらローザが再生するゴーレムの様子から、魔法の性質を見抜いたようだ。ここにきて魔女の本領発揮である。
「このまま再生しなくなるまでこいつらの相手をするのは現実的じゃないな。大本を叩くしか無さそうだ」
土地の魔力は豊富だ。故に、魔力が切れるまで再生するゴーレムを破壊し続けるのは、可能であってもかなりの時間を必要とする。
その上、大地の魔力を吸い上げて再生するゴーレムが再生しなくなるということは、この街の大地の魔力が枯れるということだ。事態が解決しても、そうなればこの土地の未来は絶望的である。
そうなる前に、この魔法の術者を叩くべきだというのが、ローザの出した結論であった。
「なるほど、分かった。ならそいつを探し出そう」
「こういうタイプの魔法は、自分を中心として円形に範囲指定する方法が一番やりやすい。だから術者はおそらく……まだこの街のどこかにいるぞ」
ローザの言葉にレクシーは頷く。
そうして二人はゴーレムを破壊しながら、このレーダックをゴーレムに襲わせ、今も街に留まっているであろう術者を探し始めた。
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