第五話 少女からの依頼
ローザ=フェローナは旅人である。旅行く先で個人的、もしくは正式な依頼を受け、魔物や魔人を討伐し、周りから薔薇の魔女と称され名を馳せた。
彼女の名が広く知られるようになったのは、レクシーが蝶の剣士と呼ばれるようになった時期と被る。その上、蝶と薔薇、剣士と魔女だ。二人は面識が無いにもかかわらず、周りの人間から対になる存在として認識されていることも多く、よく二人セットで語られている。
実はローザの方は、もう一人セットとして語られる人物がいるのだが、今回は関係ないので割愛するが、ともあれそんな世間からの評価は、当然本人たちの耳にも入っており、レクシーもローザも、いつか会って話をしたいと思う程度には、互いの事を意識していた。
そんな二人が、レーダックの武具店オリハルコンで
ローザは、せっかく出会えたのだからと、こんな提案をレクシーにするのだった。
「この後時間はあるか? 良ければ私と少し話さんか」
ローザがファイスから注文の品を受け取り、オリハルコンを出た二人は、適当にお茶のできる店に入店し、会話に花を咲かせていた。
二人の相性はバッチリであった。初対面とは思えない程に意気投合する彼女たちは、
「分かる! ボクも周りから『薔薇の魔女』についてどう思ってるのか偶に聞かれるんだけど、困ってたんだ」
「互いに苦労していたんだなぁ。だが、次からは気の合う人物だったと答えられるな」
互いに周りの反応について共感し合ったり、
「シーレンの街には行ったかい? 今度行くことがあれば、一度は食べてほしいものがあるんだ。『美食海域』という店のーー」
「『クラーケンライス』か? それなら私も食べたことはあるぞ、中々に美味かった」
旅先で食べたものについて語り、食の好みが似ていることを発見したり、
「そういえば、お前もあの爺さんに武器を作ってもらっていたのだな」
「ああ、旅先でファイスさんの命を救ったことがあってね、そのお礼になんと無料で作って貰えることになったんだ」
「む、無料だと……!? くっ、私は十五万ゴールドも払ったからしばらく高い買い物は出来ないというのに……」
ファイスに無料で剣を作ってもらったことを、ローザが羨ましがったりと、様々な話題で話が弾んだ。
数時間話し込んだ後、互いに「また会ったら話そう」と約束をして二人は別れ、レクシーはその後街をぶらぶらと夜になるまで歩き回った。
そうして、夕食を食べに食堂に向かった時の事である。
「まさか同じ宿に泊まっていたとは……」
「や、やあ……また会ったね……」
レクシーがカウンター席に座るローザを発見し、二人はその日のうちに再会するのだった。
「宿の好みまで気が合うとはね。あ、隣いいかい?」
「ああ」
レクシーはカウンター席に座っているローザの隣に座る。
聞けば、ローザは今日この街に来て、先程宿の部屋を取ったのだという。部屋の番号は304号室だそうだ。さすがにそこも隣同士というわけでは無かった。
二人は店員を呼び、料理を注文する。注文したのは二人ともコカトリスのソテー定食であった。
「普段から注目を集めることがあるのは自覚しているが、私たちが一緒にいると、尚のこと目立つみたいだな……」
店内の旅人達の声に、ローザはふと呟く。
並んで座る二人の姿を見た客が、『蝶の剣士』と『薔薇の魔女』の共演に盛り上がっているようで、一人でいる時よりも噂話が耳に入ることが多いのである。
「今まで会ったこと無かったのに勝手にセットみたいな扱いだったし、ボクらが一緒にいる光景に何か感じるものがあるみたいだ」
「ま、悪い噂が広まってない分は問題ないんだがな、少し落ち着かないところだけは気になる」
ローザはそう言って、小さくため息をついた。
「それに関しては同感」
そんなこんなでしばらく待っていると、料理が運ばれてきた。二人はコカトリスのソテーをただ堪能するのだった。
食後、二人が席を立ち、部屋に戻ろうとした時のことだ。
この宿で店員として働いている赤毛の少女が、二人に話しかけてきた。
「あの、お二人は『蝶の剣士』さんと『薔薇の魔女』さんですよね……?」
少女の問いに二人は肯定で返す。すると、彼女は意を決した様な表情で口を開いた。
「私、この店で働いているジュエラといいます。お二人に、お頼みしたいことがあるんです……!」
レクシーとローザは、互いに顔を見合せ頷き、ジュエラに話を聞くことにした。
「ーーという訳で、この街から少し離れたところにあるグラトの森で、ルナール草という薬草を採ってきて欲しいんです」
二人が話を聞いてみると、ジュエラが二人に頼みたい事とは、とある依頼であった。
ジュエラの話はこうだ。ジュエラは母と二人で暮らしている母子家庭の子供だった。つい先日、母が病に倒れ、医者に診てもらったところ、この病を治す薬を作るにはルナール草という薬草が必要であるとの話だった。
だがルナール草は珍しい薬草であり、薬に必要な量が揃っていないという。近くの森に自生しているものの、そこにはかなり危険な魔物が生息しており、腕の立つ者に依頼して採ってきてもらうしか無いそうだ。
そうして、彼女は何度か名のある旅人に依頼をしたのだが、彼女一人では十分な報酬が用意出来ず、何度も断られているのだという。
「私から出せる報酬額では、行く場所の危険度に見合わないのかもしれません。ですが、母を助けるにはもう時間が無いんです! ですからどうか、お二人にルナール草を採ってきて欲しいんです。お願いします……!」
「ローザ、キミはどうする?」
レクシーは、そう言ってローザの顔を見た。
「どうするって、決まっているだろう」
それに、彼女は当たり前のように返す。
「受ける」
「やっぱり、気が合うねボクたち」
フッ、とレクシーは笑みを浮かべる。どうやら、二人共同じ意見のようであった。
「その依頼、ボクたちに任せてくれ」
「ルナール草は必ず、私達が採ってこよう」
「い、いいんですか……?」
ジュエラに、レクシーとローザの二人は声を合わせて力強く答える。
「勿論」
「……っ! ありがとう、ありがとうございます……!」
ジュエラはまさに瞳に希望の光が宿ったような顔で、感謝の言葉を繰り返すのだった。
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