第6話 長江

 映画『長江ちょうこう』(1981年11月7日公開・148分)はドキュメンタリー映画に近いものです。さだまさしさんは、脚本と監督の他、自身が出演し、音楽面では、主題歌『生生流転せいせいるてん』(1981年9月25日発売)で作詞作曲及び歌唱を担っております。


 映画のあらすじです。

 河川の長江は実在するものです。中国の南に横たわっており、日本からは、「上海しゃんはい」の近代化の進んだ所より入り、ずんずんと奥へ続く印象があります。さだまさしさんは、海に注ぐ長い河の旅で、目的を決めていました。長江の最初の一滴を撮りたい、会いたいと遡る旅です。後に、「三峡さんきょう」のありのままを記録したものとしての価値も見いだされました。


 主題歌についてです。

 『生生流転』は通算20枚目のシングルになりました。さだまさしさんは後に、アルバムからシングルカットをするのではなく、アルバムにはアルバムに相応しい、シングルにはシングルに相応しい形があるだろうとお話しされていました。考えますと、映画音楽は映画のイメージが沁みつくような気がいたしますので、映画音楽を纏める以外でしたら、シングルが似合う生き方だと思います。


 さて、歌詞です。

 タイトルの「生生流転」ですが、「生生」は、次々と生まれて行く様子で、「流転」は、移り変わる様子を表しています。すなわち、あらゆるものは生まれて移り変わることと捉えられます。画家、「横山よこやま大観たいかん」が描いた「生々流転せいせいるてん」を夫の市松いちまつ緑青ろくしょうと見ましたが、長さもさりながら迫力がありました。このように、生きる上でのテーゼといたしたいと思う節があるのでしょう。


 歌詞に迫ってみたいと思います。

 繰り返されるフレーズは、⦅生きたい⦆、その様ですね。これを修飾するのは、⦅あたりまえ⦆、⦅ささやか⦆、⦅前のめり⦆、⦅ひたすら⦆、⦅優しく⦆、⦅素直に⦆と散りばめられた言の葉に無駄を感じるかも知れませんが、一定方向を向いているだけで、遊びはないと思います。そして、「長江」との関わり方は、そこで生まれた自分達のこれまでとこれからを描いているのでしょう。一番直結しているものは、「時間」だと思います。「長い河」と書いて「長江」です。「時間」は我々が生まれる前から動いていたものです。河の中にしろ、畔にしろ、溺れることもあるでしょう。しかし、万物がもがいても生きています。私という生き物の決意を感じさせる歌詞だと思います。


 この映画が二次的にもたらしたものについてです。

 映画『長江』は、興行収入はよかったのですが、様々な困難を抱えて製作費がかかり過ぎました。さだまさしさんとスタッフの方々、まさかの人生分岐点です。桁の分からない程に赤字となり、当初の融資額は28億円で返済しながらの金額は35億円にもなりました。ここで投げないでコンサートなどの音楽活動を通じて完済となったのは、30年程後になりました。この大きな借金もトークのネタになっておりますが、さだまさしさんご本人は深刻だったと思います。一度不渡を出したとき、この場ではお邪魔だと思ったのか「俺、パチンコ行ってくる」と、もう史記しきの「燕雀えんじゃくいずくんぞ鴻鵠こうこくこころざしらんや」なのでしょうか。


 それから、「なつ 長崎ながさきから さだまさし」(1987年8月6日から2006年8月6日開催)と言う無料のチャリティーコンサートを「広島ひろしま原子爆弾げんしばくだんが落ちた日に長崎から発信したい」思いを込めて行われたのも金銭的に無謀なときでした。しかし、多彩なゲストにも支えられ、19年続けることができました。様々な思いで多くの舞台となった稲佐山いなさやまに人々が集まったことでしょう。笑顔ばかりではないでしょうが、歌を聴くことそのものが「平和」への小さな繋がりだと私は思います。そして、一区切りをつけたその年、第48回日本レコード大賞(2006年12月30日開催)にて、長年の「夏 長崎から さだまさし」における活動を称され、「特別賞」を授与されました。


 それから、河川の『長江』についてですが、私の本名は『静江しずえ』と申します。母は「あらそう」なんて字があるから頭が変なんだとか私に向かって言いましたが、結婚しても下の名前は変わりません。父は小学生の私の質問に、「揚子江ようすこう」から「江」の字にしたと話していました。特段の想い入れがあります。私に力がついたら、何某かの形で、『長江』を題材にしたものを創りたいと思っています。


 ◆


 さて、次も映画の作品について書かせていただきます。


 うさぎも大好きさだまさし!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る