第4話 翔べイカロスの翼

 映画『べイカロスのつばさ』(1980年1月26日公開・112分)で、音楽、栗山くりやまとおる役での出演で関わりました。

 主題歌は『道化師どうけしのソネット』(1980年2月25日発売)です。


 映画は、1978年に草鹿くさかひろしさんのノンフィクション、『べイカロスのつばさ - 青春せいしゅんのロマンをピエロにけた若者わかものあい』を下敷きにしてあります。これは、テレビドラマやミュージカルに舞台と様々な形で表現されております。その中にさだまさしさんの撮りたいものがあったのでしょう。


 映画のあらすじになります。主役の栗山徹は、写真家への道に難しさを覚えていました。サーカスを取材に行くと、ファインダーからは彼らが芸に真摯に取り組む姿を感じ取り、仲間に入れて欲しいとお願いしました。勿論、一朝一夕に上手く行くものでもなく、日々熱中します。当初は栗山徹を嘲笑っていた者もその努力を彼を受け入れてくれるようになります。数年後、目指していたものを掴んできます。「ピエロ」でした。自分なりのピエロ像を作り上げ、人々に喜んで貰えることを生き甲斐としました。ラストは私の手では伏せます。


 さて、さだまさしさんは、本作用に『道化師のソネット』を書き下ろしました。


 先ず、タイトルについてです。

 映画で「ピエロ」を演じることが大切なキーワードとなり、ラストシーンに「ピエロを見つめている気持ち」を銀幕の向こうで感じることとなります。そこで、「ピエロ」つまりは「道化師」の想いを歌詞に入れて行きました。

 サビ及び冒頭などに、特にラストシーンに響く、⦅笑って欲しい⦆と飾らない歌詞が入ります。「ピエロ」を演じていた主人公の気持ちです。また、映画を離れたとしてもメッセージとして受け止めやすいと思います。

 後半の「ソネット」ですが、十四行の定型詩でイタリアに始まったものを指します。歌を作り上げた後で、自分でも気が付かなかったけれども、ソネット形式に当て嵌まることに気が付いたそうです。

 そのような経緯で、『道化師のソネット』と歌に命が吹き込まれました。


 次に、歌詞についてです。

 繰り返される⦅笑って欲しい⦆とのメッセージは、⦅君⦆だけではなく⦅僕⦆へ向けてのものでもあります。私が、海岸に立つとすらっとした波が足の下にある砂をさらうのを楽しんだ記憶がありますが、それは心地いいものでした。この繰り返しは、哀しい気持ちにも繋がるけれども、それを打ち消すかのように、五回寄せてきます。

 一番の歌詞では、人生を⦅時の河⦆として、⦅船人ふなびと⦆は⦅哀しみ⦆を⦅荷⦆として抽象的に表されております。さだまさしさんの歌詞の世界に「時」というものは大変重きのあるキーワードとして登場します。

 二番の歌詞では、人生を⦅山⦆として、⦅山びと⦆として表されております。また、「真実」と書いて「ほんとう」と読ませるのは、『親父の一番長い日』(1979年8月28日発売)から継承されていると思いました。


 私が本作を拝聴しましたときには、まだ若く、二番の方が好きでした。最近までもそれは変わらなかったのですが、家庭の様相に変化があり、母、花岡はなおか壽賀子すがことの糸電話が切れてしまいました。人生はいつ終わりがくるのか分からないと、「時」について畏怖の念さえ抱くようになりました。二番の⦅一人一人ががんばって山を登る⦆姿よりも一番の⦅河みたいに流れて行く時の畔を我々は歩いて行くしかない⦆と諦めの気持ちさえ感じられるこちらの方がしっくりくるようになりました。息子の市松いちまつ群青ぐんじょうくんが小学校四年生のとき、好きな漢字として授業で書いたものが掲示されていたのを参観日で知ったのですが、「諦」でした。確かに彼もイジメに遭っていました。私は、ママとして心配し、帰宅してから話し合いをしたものです。普段から群青くんは「漢和辞典」が愛読書でしたので、純粋に漢字への興味から選んだようでした。


 私は、結婚前の花岡はなおかの家で、テレビ放送で映画を家族と観ました。

 映画の中での主題歌『道化師のソネット』の感想ですが、映画がなければこの⦅笑って欲しい⦆気持ちはただ空を切るようなものだったと思います。私はブラウン管越しに、哀しみを知っているからこその歌だと思いました。私もイジメに遭っていました。人前で大切にしている言葉を話すときは、「信頼」でした。


 娘の市松いちまつ薄紅うすくれないさんもイジメに遭っていました。さだまさしさんの歌を私が流したり鼻歌やギター弾き語りで色々と知ったのでしょう。『道化師のソネット』ではありませんが、NHK総合で放送されている『今夜こんやなまでさだまさし』に自分の想いと痛々しいイラストを添えて『いのちの理由りゆう』をリクエストしていました。彼女の言葉では、「さる」そうです。


 映画は市松の家族とは見ておりませんが、群青くんと薄紅さんがもし触れることがあれば、やはり、実直に生きることは過ちではなく、慎重に命も大切にして欲しい。そして、笑顔で幸せを感じさせてくれたら、ママの私は嬉しいと思います。


 ◆


 さて、次も映画の作品について書かせていただきます。


 うさぎも大好きさだまさし!

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