はんぶん怪談異聞『思春期幽霊』

@tsutanai_kouta

第1話


俺、「トグロ・ガイコツ」て名前で活動してるライターだ。生き残るのが難しい世界で髪を金髪にしたり、赤い名刺を作って配ったりとバカバカしい努力をしながら埋もれないよう日々奮闘ひびふんとうしてる。主に怪談や心霊系の話を収集して記事にするのが仕事だが、何故か俺のとこに集まるのは、どこか“抜け”てる話が多いと言うか、悪い意味でそのまま記事に出来ないものが多い。


例えばこの『赤ん坊』て記事、水子供養みずこくようの塔を壊して建てたアパートに住んだ女に話しを聞いたんだけど、その女、土地の因縁を知った時


「バカヤロウ!とは思ったけど、それより裸足で走って泣きながら公衆電話をかけてた自分って”昭和歌謡”みたいで可笑おかしい」


とか言って笑うんだよ。そんなオチ要らないのに。そして引っ越した後に、そのアパート見に行ったらしいんだけど─


「そしたらアパートの塀の門柱が片方は水子供養みずこくようの塔、片方はほこらになってた!」


て、爆笑してんだよ。

いや、もちろん記事にはしないけどさ…。

んで、更にヒドいのは、この『2人乗り』て記事の元ネタになった男。これって幽霊に取り憑かれた男が他の人間に押し付けようとしたけど、取り憑かれる相手が増えただけだった─て話で、最後に男が「増殖してやがる」て言って締めてるけど、実際に取材した時は「コピーかよ!」て大声で突っ込んでさ。しかもその後、男が駅前を見渡してみたら同じように背中に幽霊乗っけた奴が、けっこう居たって言うのよ。


更に…ああ、これは本当にバカバカしくて話したくないんだけど、そこに黒子くろこの格好して虫取り網を持った連中が現れ、網を幽霊の頭にかぶせて引き剥がし、回収して行ったって言うんだよ。

男は「自分のも回収してくれた」てニヤニヤしてさ…。


ネタを提供してくれるのは、ありがたいけどさ、なんか釈然しゃくぜんとしないよね…。


………。


いや、やっぱ取材対象への愚痴だけってのは違うよな。だから俺自身の微妙なエピソードも話しとこうと思う。



 ********



俺の田舎は中部地方にある地方都市なんだけど、たまーに帰って、あるものを確認してるんだ。この「あるもの」てのは幽霊…て言うか、残留思念ざんりゅうしねんなんだ。俺の。



俺は田舎で疎外感そがいかんを感じながら少年時代をすごした。と言うのも、俺の趣味嗜好しゅみしこうが他の奴とは違ってたんだ。笑っちまうくらい些細なことだけど、未熟で肥大した自我を持つ思春期のガキにはデカかった。更に言い訳させてもらうと今ほどSNSが普及してなかったから仲間を見つけるのも楽じゃなかったんだよ。


俺は抱えこんだ孤独やら欠落感を漫画やアニメ、小説、映画、音楽なんかで癒し、埋めた。…どうよ? 凡庸ぼんようすぎて死にたくなる話だろ? でも、もう少し続きがあるんだ。



当時、俺が足繁あししげく通っていた本屋やDVD・CD・レコード屋のほとんどは今はもう無い。時代の流れもあるけど、品揃えがマニアックだったのも一因いちいんだろな。今では違う業種の店舗になってたりするんだけど、その頃に切実な面持ちで、そこに通ってた俺の情念みたいなもんは残ってるんだ。


DVD屋があった場所は今ではコンビニになってるが、その店内に少年時代の俺が真剣な顔でDVDを選んでる姿がある。他の人には見えないが、俺には異常にはっきり見えるんだ。そしてCD・レコード屋だったカフェの店内にも見える。本屋が入ってた雑居ビルなんかは今じゃ駐車場だから、本屋があった3階あたりの空間にニキビ面の俺が浮いてやがる。


あと、唯一残ってる小さな映画館の最前列には食い入るようにスクリーンを見つめる俺が居るので、帰省した時は同じ席に座って昔の俺と今の俺を重ねたりしてるよ。


…我ながらキモいな。でもこれは初心を思い出す儀式みたいなもんなんだ。

俺は「面白いことに関わりたい」「面白いことをやって食っていきたい」と思って田舎を出たんだ。それなのに今の俺ときたら、想定外の奇妙な「面白さ」を処理しきれずにボヤいたりしてる。


本当はわかってんだよ。目の前の細々した仕事や締め切りに汲々きゅうきゅうとするだけじゃなく、『バカげた門柱』やら『謎の黒子集団』を追っかけりゃいいって─。



すまんね。なんか長々と1人語りした挙げ句、自己完結しちまって。

だから、まあ、こんな俺を「下には下が居るんだ!」て励みにしてくれたらいいよ。

「こんな奴だって好きにやってるんだから自分も…!」て思ってくれたら、なお良い。


─なんてね。大人になったら恥ずかしいことを口走っちまう夜もある、てことで。





 ─了─






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