はんぶん怪談異聞『思春期幽霊』
@tsutanai_kouta
第1話
俺、「トグロ・ガイコツ」て名前で活動してるライターだ。生き残るのが難しい世界で髪を金髪にしたり、赤い名刺を作って配ったりとバカバカしい努力をしながら埋もれないよう
例えばこの『赤ん坊』て記事、
「バカヤロウ!とは思ったけど、それより裸足で走って泣きながら公衆電話をかけてた自分って”昭和歌謡”みたいで
とか言って笑うんだよ。そんなオチ要らないのに。そして引っ越した後に、そのアパート見に行ったらしいんだけど─
「そしたらアパートの塀の門柱が片方は
て、爆笑してんだよ。
いや、もちろん記事にはしないけどさ…。
んで、更にヒドいのは、この『2人乗り』て記事の元ネタになった男。これって幽霊に取り憑かれた男が他の人間に押し付けようとしたけど、取り憑かれる相手が増えただけだった─て話で、最後に男が「増殖してやがる」て言って締めてるけど、実際に取材した時は「コピーかよ!」て大声で突っ込んでさ。しかもその後、男が駅前を見渡してみたら同じように背中に幽霊乗っけた奴が、けっこう居たって言うのよ。
更に…ああ、これは本当にバカバカしくて話したくないんだけど、そこに
男は「自分のも回収してくれた」てニヤニヤしてさ…。
ネタを提供してくれるのは、ありがたいけどさ、なんか
………。
いや、やっぱ取材対象への愚痴だけってのは違うよな。だから俺自身の微妙なエピソードも話しとこうと思う。
********
俺の田舎は中部地方にある地方都市なんだけど、たまーに帰って、あるものを確認してるんだ。この「あるもの」てのは幽霊…て言うか、
俺は田舎で
俺は抱えこんだ孤独やら欠落感を漫画やアニメ、小説、映画、音楽なんかで癒し、埋めた。…どうよ?
当時、俺が
DVD屋があった場所は今ではコンビニになってるが、その店内に少年時代の俺が真剣な顔でDVDを選んでる姿がある。他の人には見えないが、俺には異常にはっきり見えるんだ。そしてCD・レコード屋だったカフェの店内にも見える。本屋が入ってた雑居ビルなんかは今じゃ駐車場だから、本屋があった3階あたりの空間にニキビ面の俺が浮いてやがる。
あと、唯一残ってる小さな映画館の最前列には食い入るようにスクリーンを見つめる俺が居るので、帰省した時は同じ席に座って昔の俺と今の俺を重ねたりしてるよ。
…我ながらキモいな。でもこれは初心を思い出す儀式みたいなもんなんだ。
俺は「面白いことに関わりたい」「面白いことをやって食っていきたい」と思って田舎を出たんだ。それなのに今の俺ときたら、想定外の奇妙な「面白さ」を処理しきれずにボヤいたりしてる。
本当はわかってんだよ。目の前の細々した仕事や締め切りに
すまんね。なんか長々と1人語りした挙げ句、自己完結しちまって。
だから、まあ、こんな俺を「下には下が居るんだ!」て励みにしてくれたらいいよ。
「こんな奴だって好きにやってるんだから自分も…!」て思ってくれたら、なお良い。
─なんてね。大人になったら恥ずかしいことを口走っちまう夜もある、てことで。
─了─
はんぶん怪談異聞『思春期幽霊』 @tsutanai_kouta
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