第2話
杉崎スミレの依頼。それは、とある交差点で起きた交通事故に関する調査だった。
その交差点は、魔の交差点と呼ばれていた。どこにでもある、見通しの良い交差点なのだが、なぜかその場所では事故が多発してる。しかも、そのほとんどが死亡事故であった。
先月、その交差点で杉崎スミレの妹であるサクラが事故に遭い、足を複雑骨折したそうだ。
ただの交通事故。それで済めば、二階堂を頼ったりはしなかった。
交通事故にあった杉崎サクラとそのサクラを撥ねた運転手の両者が奇妙なことを言い出したのだ。
「あの男の子はどうなった?」
まるで口裏を合わせたかのように、ふたりが同じことを言った。もちろん、ふたりが口裏を合わせているということはない。
サクラか運転手のどちらかだけが言ったのであれば見間違いということになるが、ふたりが口にしたということで、それが単なる見間違いではないということになった。
事故の捜査を行った警察からは、ふたりが口にした男の子に関してはそのような人物はいなかったという報告があがっている。
では、ふたりは何を見たというのだろうか。
ただの怪談話。そんな風に片付けることもできた。
しかし、事態は少しだけ変わってきた。
サクラが、病院であの男の子の姿を見かけたのだという。
最初は、本当に見かけた程度だった。廊下を横切る男の子の姿を見た。それだけだ。もしかしたら、似ている子を見ただけかもしれない。その程度だった。
次にサクラが見たのは、ナースステーションのところに佇む男の子の姿だった。その時にやはりあの男の子だということを確信することが出来た。しかし、サクラがちょっと目を離した隙に男の子は姿を消していた。
ナースステーションでサクラは男の子のことを聞いてみたが、看護師たちは「わからない」というだけだった。
その後、男の子の姿を見ることは無くなり、サクラも退院の日が近づいてきた。
それは入院生活最後の夜のことだった。
ふと、夜中に目が覚めたサクラはどこからかの視線を感じていた。
ベッドのまわりはカーテンが閉まっており、外から中の様子を見ることはできないはずだった。
しかし、視線を感じるのだ。
サクラは恐る恐るカーテンを少しだけ開けて、外の様子を見てみた。
真っ暗な病室には廊下からの明かりが差し込んできている。
そして、廊下の方へと視線を向けた時、サクラは息を呑んだ。
こちらをじっと見つめるふたつの目。
そう、そこにはあの男の子が立っていたのだ。
男の子は邪悪ともいえる目でこちらをじっと見続けていた。
あまりの怖さに、サクラはカーテンを閉じて布団の中に潜り込み、朝になるまで震えながら過ごした。
それが一昨日の晩の出来事だったと、杉崎スミレは語った。
すでにテーブルの上には、二階堂の注文した大盛りナポリタンと杉崎スミレの注文したピザトーストが届いていたが、話に集中するあまりふたりとも料理には手を付けていない状態だった。
「ねえ先生、食べないの?」
話が切れたところでヒナコが二階堂にいった。
二階堂はコップに入った冷水をひと口飲んでから、口を開いた。
「それで、私に男の子が何者なのかを調べてほしいと?」
二階堂は大盛りのナポリタンに粉チーズをたっぷりと掛け、右手に持ったフォークを麺に突き刺してからクルクルと回した。
「そうです。警察の調査では男の子なんて存在していませんし、病院にも男の子は入院していませんでした。あの病院には小児病棟は無いんです。そもそも子どもは入院していないんです」
「なるほど……」
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