黒いモジャモジャの物体

タンティパパ

あれは20年前の新婚の頃のある日の日曜日

朝というには遅く昼というには早いぐらいの時間に目が覚め

布団から出た。

妻はまだ寝ている。


寝起きの渇いた喉をうるおすためにキッチンに向かう

緑色のカーテンから日光が透かされた翠色の薄明るい室内

足元に黒い紐のような帯のような?見知らぬモノが落ちている

それはリビングに向かって伸びていた。


寝る前に何か出してそのままだったか?

覚えは無い

頭に疑問符『?』を浮かべリビングに向かう。


 !…ん…何だコレは…


リビングのローテーブル替わりのコタツ前に得体の知れない黒いモジャモジャの物体がリビングの床半分を占めている…

まるで黒いスライムがリビングに根を張っっているようだ。


 怖い


最初の感情は、怖いだった。

今までまったく見た事が無い物体が家の中にあるのだ

『怖い』は自然な感情かと思う。


しかし動くようなことは無い。

新種のUMA?

  全く動かない石像のようなUMAがいたよなぁ…

不審者が家に侵入?

 嫌がらせに置いていった?心辺りは…有るような無いような…

寝起きの働かない頭の中をネガティブな憶測が錯綜する。


目が慣れてくると黒い物体の中に箱のようなモノがある。

 そして、足元にも…


その箱は見覚えのある物だった。

ビデオテープのケース箱?箱には思い当たる『XI』の認識シール

そして、少し先の箱には女性の写真が…ボヤけて見えてきた…


「あぁっ!」


駆け寄るようにその黒い物体に近寄り持ち上げる。

 『怖い』は一瞬のうちに吹き飛び『焦り』へ変換された。


なぜ?なんで?どうして?!

 イヤイヤっ!…

どうしてココにある?!

 隠していたはずなのにっ!


あぁ、、やられたぁ…

厳選した珠玉のコレクションが…あぁ…

親父の形見と言える物もあるのに…


その黒い物体の正体は…

アダルトビデオのビデオテープ

ビデオカセットからテープリールを引きづり出されたテープの山だった

それも厳選した30本近くあるAVビデオコレクションが1本残らずテープを引きづり出されていた。

それだけの量のテープなのだ、リビングの半分を占める山にもなるだろう。

 もう……修復は無理だな……。


『焦り』から『諦観』そして…

 誰がやったんだ?



「もう、いらないよね?」


 !?

背後からの妻の声…

 驚きとともに硬直する身体


「私がいるんだから、もう、いらないよね?」

 抑揚のない声でのダメ推しの一声


さようなら…

 恋人達AV女優達

そして今までありがとう…

万感の思いを込めて…

 振り返る事無く背中で返事を返す


「うん…そうだね…」




 了…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黒いモジャモジャの物体 タンティパパ @tantypapa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画