マダム・コイコイ
ある日の夕方、ワザワイはとある町の公園のベンチに座っていた
ワザワイ(僕は…なんで人間になりたい気持ちが無くならないんだ?ただ…僕が…)
ワザワイはずっとそのことを考えていた。オバリョ山でキヨラに「なぜ人間になりたいんだ?」と聞かれた時から今まで自分が望んでいた理由が自分でもわからなくなってしまったのだ
ワザワイ「まぁいいや…、いずれ分かるだろう…」
そう呟いてため息をつくと、立ち上がって公園から出ようとした。すると、ちょうど下校している女子高生2人が歩いてきた
女子高生1「ねぇ、朝ニュースみた?」
女子高生2「見たよ!」
女子高生1「あの2年前に起きた行方不明事件〜ってやつやってたじゃん?」
女子高生2「あー、あの中学2年生の男の子のやつでしょ!その子さ、名前すごくない?」
女子高生1「だよねー!あれ、なんて名前だっけ?」
女子高生2「なんか幸せそうな名前してた気がしたけど忘れた!でも前に教えてくれた怪夢ワザワイ?って子ぐらい名前すごかったよね」
女子高生1「だよね!ちょっと似てた気がする!」
女子高生2「それにしても可哀想だよね〜、両親はショックで死んじゃったみたいだしさ〜…」
そんな会話をしながら通り過ぎていく女子高生たちをワザワイは目で追った
ワザワイ「僕の名前…なんで知ってるんだ?」
自分の名前が出てきたことにワザワイは驚く。しかし、今はネットで調べればなんでも出てくるだろう
ワザワイ「僕の名前を知られてもしょうがないか」
さっきの会話を気にせず、歩き出した
金曜日の放課後、高校1年生の桜井 翔(さくらい かける)と紺青 瑛人(こんじょう えいと)と佐久間 光留(さくま ひかる)は教室に忘れ物を取りに来ていた
かける「あぶね〜、これ忘れたら明日課題提出できなかったよ〜」
えいと「しかも数学の問題集だぜ?先生にブチギレられるところだったな!」
ひかる「まさか3人とも忘れるとはね〜!」
3人は揃って笑う
えいと「でも取りに戻ることができるのは家の近くに高校があるからだよな」
かける「そうそう!本当に助かるな〜!」
ひかる「どうせならもう少しここで話してようぜ!」
かけるとえいとは「賛成!」と声を揃えて、ひかるの席に集まった
ひかる「朝のニュースでかける出てなかった?!」
かける「あぁ、俺出たよ!」
えいと「インタビュー受けてたもんな」
かけるは今朝のニュースで2年前に行方不明になった中2の少年についての話題で、その少年の友達としてインタビューを受けていたのだ
ひかる「かけるたちの友達…なんて名前だったっけ?前教えてもらったのに忘れちゃった。すごく珍しい名前だったのは覚えてるんだけど…」
かける「瑞夢 サイワイ(ずいむ さいわい)だよ」
ひかる「あぁそうだったね!やっぱすごい名前だな!」
えいと「俺達も初めて会ったときはびっくりしたな!でもそいつ本当にいいやつだったんだよ」
かける、えいと、サイワイは小、中学校が一緒あり、親友同士でとても仲が良かった
ひかる「なんで行方不明になっちゃったんだろうね」
かける「それは…なんでだろうね」
えいと「また会えたら会いたいな〜」
かける「そうだね。でも生きてるかもわからないよな」
するとえいとは悲しそうに小さく何度も頷く。それをみたひかるは気の毒に思い、空気を切り替えようとパンッと手を叩いた
ひかる「よし!そろそろ帰ろうか!」
えいと「そうだね!」
かける「そろそろ先生たちも仕事終わる時間だよな!」
ひかる「鍵戻してこないとだし、早く行ったほうが良いよな」
3人はバッグに数学の問題集をしまうと、教室を出て職員室へ行った
かける「鍵、誰が行く?」
えいと「来た時2人が取りに行ってくれたから俺が行くよ」
ひかる「おっ、サンキュー!」
えいとはバッグを置くと職員室へ入っていった
ひかる「俺最初行っておいて良かった〜」
かける「お前隣にいただけで何もしてないけどな」
ひかる「へへっ、ごめんな」
そう言って笑うひかるをかけるは呆れた表情で見た。すると職員室の扉が少し開き、青ざめた表情のえいとの顔が覗いていた
かける「えいと、どうした?」
ひかる「顔色悪くないか?」
えいと「2人とも来てくれ…」
かけるとひかるは首を傾げながらも職員室へ入る。すると目の前の光景に絶句した。先生たち全員、床に倒れていたのだ。先生のそばには箒やさすまたが落ちている
かける「誰かに…襲われたのか…?」
えいと「首とか腕に何個か痣があるから多分そうだと思うんだ…」
ひかる「なにか細いもので叩かれたのかな?」
痣は一直線のものが何個もある。何に叩かれたのか考えたが、3人は細いものに思い当たるものが全く思いつかなかった
かける「この時って何をするのが正解なんだ?!警察?救急車?」
えいと「どっちも必要だろ!」
ひかる「俺呼ぶよ!」
かける「ひかるお願い!!」
ひかるは慌ててスマホを取り出す。するとひかるの顔がだんだん焦った表情になっていった
えいと「どうした?!電話のかけかたわからないのか?」
ひかるは首を横に振る
かける「じゃあ早く呼んでくれ!」
ひかる「無理なんだよ!スマホの電源が入らない!」
かける「もう俺が呼ぶよ!!」
かけるはスマホを取り出す。しかし苦々しい表情になった
かける「そんな…!俺も電源入らない!!」
えいと「まじで?!俺もなんだけど!」
ひかる「じゃあどうすれば良いんだよ!?」
えいと「知らねえよ!!」
3人がパニックになっていると、遠くから「コツッ…コツッ…」という音が聞こえた。その音は次第に近づいてくる
ひかる「な、なんだ…?」
えいと「まさかこっちに来ないよな…?」
かける「やめろよ!それ言ったらガチで来るかもしれないじゃん!!」
すると、突然職員室の扉が開き、赤い服を着て、赤いハイヒールを履いている女性が入ってきた。女性の手にはムチが握られている
かける「ほら入ってきた!!」
ひかる「誰だよこいつ!!」
えいと「知らないけどとりあえず逃げよう!!」
3人はえいとの言葉を合図に、入ってきた方とは反対側の扉から飛び出した。その後ろから女性が追いかける。すると職員室の前に少年が現れた。その少年はワザワイだ
ワザワイ「3人か…チャンスだな…!」
ワザワイは走っていった4人の行った方向へと走り出した
かける「はぁ…はぁ…こ、ここまで来れば大丈夫かな…」
図書室へ駆け込んだかけるは、肩で息をしながら床に座り込んだ
かける「2人は大丈夫かな…?」
ひかるとえいとは逃げているときにはぐれてしまい、どこへいったのかわからない状況だった
かける「あの女も都市伝説みたいなやつなんかな?」
中学生の時に一度都市伝説の怪人に襲われたことがあったため、その時のことを思い出しながら呟いた
かける「2回目になると思ったより冷静に動けるもんなんだな…あのときも動けたら良かったのに…」
そう言って膝を抱え、顔をうずめた
しばらくして、かけるは目を覚ました。いつの間にか寝てしまったらしい。時計を見ると図書室に来てから1時間が経ちそうだ
かける「あの女はいなくなったのかな?」
扉を恐る恐る開けると、女がいないか確認する
かける「ここにはいなさそうだな」
安心して「ふぅ…」と息をつくと廊下に出た。廊下は薄暗くなっていて、なんとなく不気味な雰囲気が漂っている
かける「えいととひかるはどこいったんだ?」
かけるは2人を探しに、歩き出した
その頃、2階の廊下にワザワイがいた
ワザワイ「くっ、見失った…」
女の気配は感じられるが、場所までは感じ取れない。ワザワイは周りをきょろきょろと見回しながら歩く。階段付近まできたとき___
「うわぁぁぁ!!」
という悲鳴が聞こえた
ワザワイ「上か?!」
ワザワイは階段を駆け上がり、三階へ行った。すると目の前にある図書室から少し離れたところにかけるがいた。そしてかけるの前には赤いヒールを履いた女がムチを振り上げていた
ワザワイ(よし、やっと不幸を回収できる…!)
そう思ったが、ワザワイはかけるを見て戸惑った表情になった。今まで会ったことがないはずだが、どこかで会ったことがあるような気がしたのだ
ワザワイ(なぜだ…? )
ワザワイは戸惑っていると、女がかけるに向かってムチを下ろそうとした
ワザワイ「だめだ!!」
反射的にワザワイは叫ぶと走り出し、かけるを突き飛ばした
バチンッ!!
女の振り下ろしたムチがワザワイの身体を攻撃する
ワザワイ「うあぁっ…!」
痛みのあまり、ワザワイは床に倒れ込んだが、すぐに立ち上がる
ワザワイ「はやく…消さないと!」
ワザワイは女に手のひらを向けると何かを唱えようと息を吸った。その時、女はムチでワザワイの手を打ち払った
ワザワイ「ぐっ…!い、今は無理か…」
ワザワイは叩かれた手を抑えながら女から離れるとかけるの手を掴んだ
ワザワイ「ここから逃げよう!」
かける「に、逃げる…?」
ワザワイ「早く立つんだ!こいつに攻撃され続けるとあの先生たちみたいになってしまう!」
かける「わ、わかった!」
かけるが立ち上がるとワザワイはかけるの手を引いて走り出した。階段を下りるとその下には2人の男子がいた
かける「えいと!ひかる!」
えいと「良かった!無事だったんだな!」
ひかる「君は…?」
ひかるはかけるの手を引いている見知らぬ少年が気になった。するとワザワイは真剣な顔でえいととひかるを見た
ワザワイ「君たちも逃げて!」
ひかる「えっ?」
えいと「もしかしてあの女追いかけてきてる?!」
えいとの言葉にワザワイは頷く。するとえいととひかるはワザワイに着いて走った
かける「なぁ、あの女って都市伝説みたいなやつなのか?」
ワザワイ「あぁ、そのとおりだ。あいつは"マダム・コイコイ"という教師の霊なんだ」
そう説明しながらワザワイはため息をついた
ワザワイ(なんで僕はこの人らを助けているんだ…)
自分に呆れながらも走り続け、理科室まで行くと3人に身を潜めるよう指示した
かける「君は隠れないのか?」
ワザワイ「僕はマダム・コイコイの様子を見てくる。助かりたかったらここでじっとしていて」
そう言ってワザワイは理科室を出る。そして静まり返っている薄暗い廊下を警戒しながらゆっくり歩いた。角まで行った時、突然ムチがワザワイに振り下ろされた
ワザワイ「うっ…!」
ワザワイは咄嗟に避けたが、腕に少し当たってしまった。腕を押さえながら前方に立っているマダム・コイコイを睨んだ。
マダム・コイコイはニヤッと笑い、ワザワイを突き飛ばす。そして倒れたワザワイに向けてムチを振り上げた
ワザワイ「やめろ!今はもうお前は用無しだ!」
ワザワイは素早く体勢を整えると手をマダム・コイコイに向かって手をかざす。すると、左目の十字架が黒く光出す。マダム・コイコイの身体が白く光り、ワザワイの身体の中へと吸収された。一瞬ワザワイは顔を歪めたが、すぐ理科室へ行った
かける「マダム・コイコイは?!」
ワザワイ「大丈夫、もういなくなったよ」
えいと「よかったー!」
ひかる「助けてくれてありがとう!」
ワザワイはわずかに頷くと理科室から出ようとした。その時___
かける「…サイワイ?」
かけるがそう呟くとワザワイの動きが止まった
かける「君、瑞夢 サイワイなのか?」
ワザワイ(瑞夢…サイワイ…?)
初めて聞く名前だが馴染みがあるように聞こえた。ワザワイは振り向いて、かけるたちを見つめた。
するとワザワイの脳裏にある光景が蘇った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます