せんじゅさま
ある日曜日、照りつける日差しの下でワザワイは歩いていた
ワザワイ「なんの都市伝説にしよう…」
そう呟いた時、キヨラの言葉が頭によぎり、立ち止まった
ワザワイ「都市伝説を生み出すのはやめろ…か…」
一瞬迷いの表情が浮かべたが、すぐに首を振った
ワザワイ「このままじゃ僕の望みは叶わない…不幸を回収し続けないと!」
ワザワイは前をまっすぐ見て歩き出す。数分歩くと公園が見えてきた。そこには子どもたちが遊んでいる
ワザワイ「これだ…!」
思いついたように小さく声をあげると公園に手のひらを向ける。すると公園の周りの柵が一瞬光った
ここな「はぁ…どうして私ってこうなんだろう…」
午後2時頃、小学6年生の渡辺 心和(わたなべ ここな)は公園のベンチに座ってため息をついた。今日は午前中ミニバスケットボールクラブの練習試合があったのだが、ここなは良いところまでくるものの、何度もシュートを外してしまったのだ。それによりここなのチームは負けてしまった
ここな「みんな優しいから許してくれたけど…次の試合出してもらえないだろうなぁ…」
そう言うとここなは膝を曲げて足をベンチに乗せて顔を埋めた
ここな「なんでも完璧にできるようになりたいなぁ…」
「その願い、叶える方法教えてあげるよ」
ここな「えっ…?」
突然声がして顔を上げる。するとここなの前に少し年上の見知らぬ少年が立っていた
ここな「あの…誰ですか…?」
少年「僕は怪夢 ワザワイ」
ここな「そうなんですね…叶える方法ってどういうことですか?」
ワザワイ「君はなんでも完璧にできるようになりたいんでしょ?その願いがあることをすると叶うってこと」
ここな「そんなことあるわけないじゃないですか」
願いが叶うなんてありえない。バスケが上手くなれるならともかくなんでもできるようになれるとは思えない
ここな「用がないなら私は帰りますね」
ワザワイ「本当に叶うんだよ?」
ここな「えぇ…でも私そんなの信じないし」
ワザワイ「願い、叶えたくないの?」
ここな「それは…」
叶うのであればなんでもできるようになりたい。みんなにすごいと思われたい。しかし本当に叶うとは思わない。いろんな気持ちがここなの中で戦う
ここな「う〜ん…じ、じゃあ方法だけ教えてください!」
それを聞いたワザワイはホッとした表情になり、頷いた
ワザワイ「願いを叶えるには、"せんじゅさま"というおまじないを使うんだ」
ここな「なんだ…やっぱりおまじないじゃん…」
ワザワイ「信じようが信じまいがどっちでもいいけど、とりあえず最後まで聞いてくれ」
ここな「は〜い…」
ここなはとりあえずワザワイの最後まで聞くと家へ帰った
ここな(ワザワイさん、イケメンだったけどなんか変わった人だったな〜)
家に帰ったここなはおやつを食べながらワザワイのことを考えていた
ここな(ツノ生えてたし…あれってカチューシャかな?人間にツノ生えるとかありえないもんね)
つぐみ「お姉ちゃん、なに笑ってるの?」
ここな「あぁ、つぐみ」
いつの間にか1歳下の妹、麗心(つぐみ)が隣に来ていた
ここな「私笑ってた?」
つぐみ「うん、なんか面白そうに笑ってたよ」
ここな「そっか〜、なんか男の子がカチューシャ付けてるの可愛くない?」
つぐみ「え?可愛いけど…お姉ちゃん急にどうしたの?」
つぐみは不思議そうにここなを見つめる
ここな「えっ、公園でカチューシャつけた男の子に会っただけ〜!それで、何しに来たの?」
つぐみ「あ、そうそう!一緒にトランプやりたい!」
ここな「え〜、またぁ?」
つぐみ「お願い〜!」
つぐみは顔の前で手を合わせてここなを見つめる。つぐみは最近トランプにハマっている。いつも学校で友達と遊ぶらしいのだが、家では友達を呼んでおらず、両親も相手してくれないため相手してくれるのがここなしかいないのだ
ここな「も〜しょうがないなぁ、1回だけだよ」
つぐみ「やった!ありがとう!じゃあ今日は神経衰弱やろ!!」
ここな「いいよ〜」
リビングに行くと2人で床にトランプを並べていく
ここな「よし、並べ終わった」
つぐみ「じゃあお姉ちゃん先ね!」
ここな「えー、いつも私からだよね〜?」
つぐみ「いつもじゃないも〜ん!ほら早く!」
急かすつぐみに少し苛立ちながらもここなはトランプをひっくり返す。現れたのはハートの9とクローバのQだ
ここな「まぁ最初はね!はい、つぐみどーぞ」
つぐみ「私はこれにしようかな!!」
身体を乗り出して素早く2枚ひっくり返す。現れたのはスペードとクローバの8だ
つぐみ「えっ!やった〜!!」
ここな「すごーい!」
2人は開始してすぐ揃ったことに興奮してはしゃぐ。つぐみがまた2枚引くと次はダイヤとスペードのAだ
つぐみ「今日私運いいかも!!」
2人はゲームを続けていく。ここなは2回ぐらいしか同じ数字を引くことができず、結果はつぐみの圧勝だった
つぐみ「お姉ちゃんほんと弱いよね〜!勝ったこと3回ぐらいしか無いじゃん」
ここな「うるさいな〜、つぐみが強いだけだよ」
つぐみ「またそうやって言い訳するよね。お姉ちゃんって特技無いんじゃない?」
ここな「なっ…」
まさかそんなことを言われるとは思っていなくて黙り込んだ。言い返そうとしても、ここなは勉強ができる方ではないし、運動もバスケぐらいしかできない。そのバスケもできると自信を持って言えるほどの実力がない。考えてみると特技と言えるものがないため、言い返せなかった
つぐみ「え、本当にないの?!かわいそ〜!」
ここな「あぁうるさい!!あんたには私のすごいところなんてわからないでしょうね!!」
ばかにするように言ってきたつぐみへの苛立ちが爆発し、怒鳴って自分の部屋へと駆け込んだ
ここな「流石にあの言い方はなくない?」
椅子に座らせていたぬいぐるみを掴むとベッドに思いっきり投げ、ドスッと椅子に座る。そして机に肘をつくと大きなため息をついた
ここな「だから何も上手にできないのが嫌なんだよ…!」
そう言ってダンッと机を拳で叩く。するとその拳の隣にある黄色の花の刺繍がある筆箱が目に入った
ここな(黄色い花…そうだ!)
ここなは勢いよく立ち上がると時計を見る。もうそろそろで16時だ
ここな「まだ大丈夫だ!!」
そう叫ぶとミニバスのバッグについている鈴のキーホルダーを持って外へ飛び出した
やがて公園へ辿り着く。するとここなは辺りを見回し、黄色い花を見つけるとそれを摘んだ
ここな「たしか黄色い花を持って願いを言えば良いんだよね?」
それは今日ワザワイに教えてもらったせんじゅさまのやり方だった。
ここな「えっと、これを持って願いを唱えて、鈴を鳴らして不幸を祓ってもらう…でいいんだよね!多くの子供が使う場所だから公園で大丈夫だし…よし、準備完了!」
ここなは両手で花を持って目の前に持ってくる。そして息を吸った
ここな「なんでも完璧にできるようになりたいです!!」
はっきりと言って、鈴のキーホルダーを鳴らす。何度か鳴らして、ここなは「ふぅ…」と息をついた
ここな「本当に叶うか分からないけど…これでなんでもできる気になれたし満足!」
せんじゅさまは願った者を極楽に導くとワザワイはあのとき言っていた。ここなは本当だとは思ってないが、気持ちが少し軽くなった気がして機嫌が良くなった
ここな「よ〜し、帰ろ〜!」
ここなは軽やかに公園から出ていった。その様子を少し離れたところで1人の少年が見ていた。ワザワイだ
ワザワイ「16時ね…了解…!あの子が試してくれてよかった」
ワザワイは真剣な顔で自分の手を見つめる
ワザワイ「今回も回収してみせる…」
手を見つめる目の左目にある十字架がわずかに光った
翌日、ここなは1時間目の算数で計算の小テストを解いていた
ここな(あーわかんない!…もういつも通り適当に答えちゃえ!)
どんどん思いついた数字をテスト用紙に書いていく。しばらくして、テスト終了のタイマーが鳴った
先生「はい、じゃあ隣の人と交換して〜」
全員が交換し終えると先生は黒板に答えを書いていく。それを見て丸つけしていった。先生が全ての答えを書き終えた時、隣から「すげぇ…!」という声がした
クラスメイト「ここな、全部合ってたよ!」
ここな「え、うそ?!」
丸つけた小テストを渡し、返してもらった自分のテストをみる
ここな「ほんとだ…!」
クラスメイト「いつも3点くらいなのにどうしたんだよ」
ここな「どうしたんだろう…!」
計算苦手なここなはいつも適当に問題を解いているが、それが合っていたことは1回もなかった
ここな(これ、偶然でもすごくない?!)
先生「今日のは難しかったよね〜。ちなみに満点だった人!」
ここな「はい!」
手を挙げて周りを見る。なんと、手を挙げたのはここなだけだった
先生「えっここなさん!?すごいわね!しっかり勉強したのね!」
先生は嬉しそうにここなを褒める。周りのクラスメイトたちも「すごーい!」「ここなちゃん実は頭いいんじゃない!?」などの声を上げている。それを見てここなは思わず笑みが溢れる
ここな(もしかして、せんじゅさまは本当だったのかも!)
ここなはこれからも注目されることができるのではないかと期待が生まれた
その後も期待の通り、国語ではすらすらと漢字の問題を答えていき、体育では跳び箱を8段跳び、そのたびにクラスメイトに「すごい!」と注目された。ミニバスの練習もシュートは1回も外さなかった。そんな日が3日ほど続き、ここなはすっかりみんなの人気者になった
つぐみ「お姉ちゃん最近すごいよね。私たちの学年にも噂になってるよ」
ここな「そうなんだ〜!」
つぐみ「突然どうしちゃったの?」
ここな「それはね〜」
せんじゅさまのことをつぐみに教えようとした。しかし、教えてしまうとつぐみも同じく人気者になってしまうだろう。それは嫌だと思ったここなは別の理由を言うことにした
ここな「日曜日につぐみからあんなこと言われて悔しかったからかな〜」
つぐみ「あー、あれは本当にごめんなさい!言い過ぎました!」
ここな「ほんとだよ〜、結構傷ついたんだからね〜!」
つぐみ「ごめんなさーい!」
ここな「まぁ許してやろう」
ここなは上から目線でそう言って、ニッと笑った
せんじゅさまをやってから1週間が経った
ここな「もー最高すぎる!今の私最強よね!」
ここなは自分の部屋でベッドに大の字に寝転がり、笑顔になる
ここな「はぁ…幸せ〜!」
ここな(私はもうなんでもできるんだよ!今日は少し遠いところまで1人で散歩してみようかな!)
跳ねるように身体を起こし、ベッドから降りる。そしてお出かけ用のバッグを持つと踊るように外へ出た
ここな「いい天気〜!太陽がまさに私のように輝いてるよ〜!」
笑顔でターンをする。ここなの歩みがスキップに変わった
ここな(こんなに幸せな人は他にいないんじゃないかな!)
ここな「うふふふふふっ!」
自分が幸せなことが嬉しくて笑いが思わずこぼれる。そうしているうちにとても広い道に出た
ここな(あっ、ここ確か大通りだよね!初めて1人で来れた!やっぱ私天才かも〜!)
あたりを見回すと道を歩いている人はほとんどいない。
ここな「へ〜、ほぼ貸切状態じゃ〜ん!やった〜」
ここなは軽やかにステップを踏みながら前に進む。するとドンッと誰かにぶつかってしまった
ここな「きゃっ!!」
ぶつかった衝撃でよろけてしまう。しかしとっさに地面に手を突き、なんとか無傷で済んだ
ここな(も〜、なんでぶつかっちゃうのよ〜!せんじゅさまやったから強運で幸せになれるんじゃないの〜?)
手についた細かい石をパンパンと落としながら、ぶつかった人を見た。その人は青い瞳で、ワザワイと同じくらいの年齢の少年だった
ここな(えっ、ちょっとかっこいいかも…!!もしかして…運命の出会いだったりする?!)
少年「大丈夫?怪我してない?」
少年はここなに手を差し伸べる。ここなはその手をドキドキしながら取った
ここな「怪我はないです!あの…ぶつかっちゃってごめんなさい!」
少年「いいんだ。君が怪我しなくてよかった」
ここな「じ、じゃあまた…!!」
歩き去ろうすると少年が「ちょっと待ってくれ」と呼び止めた
ここな「は、はい!なんですか?!」
少年「聞きたいことがあるんだ」
ここな「は、はい!どうぞ!」
ここな(もしかして告白されたりして…!)
溢れそうな笑みを堪え、優しく微笑んで少年の言葉を待った
少年「君はせんじゅさまを知ってる?」
ここな「え?」
そんなことを聞かれると思わなかったここなは戸惑ってしまう
少年「せんじゅさまを知ってる?」
ここな「あ、はい!知ってます!」
すると少年の眉間に少し皺が寄った
少年「実際にやったりとかは…?」
ここな「やりました!!だから今すっごく幸せなんです!!」
少年「あぁ、だからか…このままじゃ君は大変なことになる」
ここな「た、大変なことって?」
少年「詳しくはわからないけど、そうなる前に僕が鎮める!」
少年はそう言うとここなに向かって手のひらを向ける。そして大きく息を吸い、何かを言おうとした時___
ワザワイ「やめろ!!」
突然、ワザワイが少年に飛びかかった
少年「うわぁ!!」
少年は衝撃で後ろに倒れる。ワザワイはその隙に少年の手首を掴み、動きを止めようとした
少年「離せ!」
ワザワイ「キヨラくん、まだ鎮めないで!」
キヨラ「お前の言うことなんか聞くもんか!!」
ワザワイとキヨラがバタバタしながら言い争いをしている中、ここなが笑顔でいた
ここな「ワザワイさん!あなたのおかげで私の願いが叶って今幸せなんです!!ありがとうございます!」
それを聞いた2人は一旦動きを止め、同時にここなを見た。ワザワイは最初驚いた顔になっていたが、ふっと微笑んだ
ワザワイ「そっか、もう少し君が幸せでいてくれると嬉しいよ」
ここな「はい!ありがとうございます!」
キヨラ「まさかお前がこの子にせんじゅさまを教えたんだな!」
ワザワイ「そうじゃなきゃなかなか不幸を回収できないじゃないか」
また掴み合いと言い争いが始まる
ワザワイ「とりあえずあと1分待ってくれ!」
キヨラ「えっ、いっぷん?!」
ここな「1分?」
ここなは付けてきた腕時計を見る。あと1分で16時になる
ここな「なんかよくわからないけど…私帰りますね!」
争っている2人にそう言うと来た道を戻ろうとする。すると前からここなに向かって自動車が猛スピードで向かってきているのが見えた。よく見ると運転席には誰も乗っていなかった
ここな(やばいじゃん!まあ今の私は無敵だから大丈夫か!!)
ここなは気にすることなく歩き出す。その時、腕時計の針が動いた
キヨラ「危ない!!」
ワザワイといがみ合っていたキヨラが声を上げる。気がつくといつの間にか自動車がここなの真横にきていた。このままではここなは轢かれてしまう。
キヨラ「くっ!」
キヨラはここなへと飛び出す。それを見たワザワイは素早く手のひらをここなに向ける。すると左目の十字架が光り、ここなの身体から黒いモヤが現れてワザワイへと吸収された。それと同時にキヨラはここなを抱いて自動車から避け、地面に転がった
ここな「いったぁ〜…だ、大丈夫ですか?」
キヨラ「あぁ、大丈夫だ」
2人は顔を上げるとさっきの自動車が目の前で建物に衝突していた。その奥に見えるワザワイを見てキヨラは睨んだ
キヨラ「まったく…怪夢ワザワイ、なぜ不幸回収を優先した?もう少しでこの子の命が危なかったんだぞ!!」
ワザワイ「僕には彼女の命なんて関係ない」
キヨラ「人の命を大切にしろ!!」
ワザワイ「っ…」
ワザワイは黙り込む。それを気にすることなくキヨラは怒鳴った
キヨラ「お前は自分がなにをやっているのかわかっているのか!?」
ワザワイ「わかってる…やっていることが悪いことだってことも…」
キヨラ「わかっているならなぜやめないんだ!」
キヨラはそう言ったあと、険しい顔が緩んだ。ワザワイが哀しげな表情をしていることに気がついたのだ。ワザワイはゆっくりと背を向けると走り去っていった
夜、ある森の中にある小屋にワザワイがいた。ワザワイは壁によりかかって座り込んでいる
ワザワイ「怪夢ワザワイ…お前は人の命のことなんて考えちゃだめだ…不幸を回収することだけを考えるんだ…」
目を瞑って自分に言い聞かせる。その声はわずかに震えていた。やがて目を開けると、雲が動いて月が現れ、小屋の中を照らした。ワザワイはゆっくり立ち上がるとため息をつく
ワザワイ「いつまでこんなことしないといけないのかな…」
消えるくらいか細い声で呟くと小屋から去っていった
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