保健室の少女
外から先生の声や生徒たちの歓声が聞こえる
こう「はぁ…サッカーしたかったなぁ…」
中学1年生の高嶋 晃(たかじま こう)はその声を聞いて残念そうに呟いた。現在3時間目で、こうのクラスの授業は体育でサッカーをやっている。こうも最初はサッカーをしていたが、先ほど熱中症で体調を崩してしまい、今は保健室のベッドで休んでいるのだ
こう(みんなは今試合でもやっているのかな…?)
外を見たいが、日陰重視なのか窓側のベッドの隣のベッドにされてしまったため、どこ見てもカーテンだ
こう(いいや、とりあえず休もう)
昼休みこそはサッカーをしたい。そのために今身体を休めるほうが良さそうだ。こうは静かに目を瞑った
ゲホッゲホッ!
カーテン越しに隣のベッドからひどい咳が聞こえる
こう(なんだ、休んでる人がいたのか)
だから窓側は使えなかったのだろう。こうは納得して目を瞑ったまま深呼吸した
ゲホッゲホッ!
また隣から聞こえる
こう(え、大丈夫なのか?)
流石に心配になり、目を開けて咳が聞こえる方に顔を向ける。よっぽど喉の調子が悪いらしくまだ咳をしている。
少女「あなたも体調悪いの…?」
咳が止まったと思ったらかすれた少女の声が聞こえた
こう「え?う、うん。熱中症で頭痛くてさ」
少女「そう…辛いわね」
こう「君のほうが辛そうだけど」
少女「まあね…私、今日風邪ひいちゃったんだ」
そう言った後再び咳をする
こう「今日なんだ、結構ひどいね」
少女「まさかこんなにひどくなるとは思ってなかったわ…ゲホッゲホッ」
その咳をきいてこうはハッと気づいた
こう「ごめん!こんな辛いのに話しかけ続けちゃって!」
少女「いいのいいの…私が最初に話しかけたから…」
すると小さな咳払いが聞こえる
少女「こうくん…おだいじに」
こう「うん、ありがとう。そっちこそおだいじに」
こうは会話を終え、ゆっくり目を瞑った
しばらくしてこうは目を覚ました。いつの間にか寝ていたらしい。そのおかげで体調が良くなった
こう(何時だろう…)
時計を見るためにカーテンを開けた。するとそれに気づいた保険の先生が振り向いて優しく微笑んだ
保険の先生「あら、高嶋くん起きたのね。体調はどう?」
こう「大丈夫です。すっかり良くなりました」
保険の先生「そう、良かった。今4時間目なんだけど、給食は教室戻る?」
こう「はい、戻ります」
こうはそう言いながらふと隣のベッドを覗く。そこには誰もいなかった
こう「あれ、あの子は…?」
保険の先生「ん?どうしたの?」
こう「このベッドに誰もいないなと思って…」
保険の先生「え、えぇ、ここにはあなたしかいないわよ」
こう「あ…そうなんですか…」
こうは誰もいないベッドを見つめる
こう(じゃあ早退したのかな?)
あのひどい咳なら早退してもおかしくないだろう。そう思いながらベッドを見ていると
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴った
保険の先生「あ、4時間目終わったわね。冷えピタは捨ててもいいし、首に貼っておいてもいいわよ」
こう「あ、はい」
先生に言われて初めて冷えピタが貼られていることに気付いた。その冷えピタを剥がすと首に貼る
こう「ありがとうございました!失礼します!」
保険の先生「はーい。無理しないようにね!」
こう「はい、気をつけます!」
そう言うと保健室から出て教室へ戻った
給食中、こうはいちごジャムを塗った食パンをかじりながら保健室のことを考えていた
こう(俺しかいないって最初からいなかったってことなのかな?)
保健室の先生が言っていた言葉に少し引っかかっていたのだ。しかし声ははっきり聞こえていた。早退した、または教室に戻ったとしか考えられない
こう(やっぱり“今は”俺しかいないってことなんだろうな…)
大野「こう?やっぱまだ体調悪いんじゃないか?」
隣の席の大野が心配そうにこうに話しかけた
こう「えっそんなことないけど」
大野「そう?ならいいんだけど」
こう「なんで?」
大野「いや、なんかお前さっきからぼーっとしてんなって思ってさ」
考え事をしていたせいで大野にはそう見えていたのかもしれない。こうは慌てて首を振った
こう「休んだおかげで今は元気だよ!ごめんな、心配かけちゃって」
大野「そっか!元気ならいいんだ!でも無理はすんなよ?」
こう「うん、わかったよ!ありがと!」
こうは再びパンをかじる
ゲホッゲホッ
どこからか咳が聞こえた
こう(えっ?大丈夫かな?)
周りを見回してもみんな普通に給食を食べているだけでむせたような人はいなさそうだ
こう(気のせいか…)
ゲホッゲホッ
こう(やっぱ気のせいじゃない!)
また見回す。しかしむせた人はいなさそうだ。こうは大野に小声で尋ねた
こう「ねえ大野、さっき咳した?」
大野「え?してないけど、なんで?」
こう「さっき2回くらい咳が聞こえたんだ」
大野「咳?俺には聞こえなかったけど?」
こう「そ、そっか…ごめんね」
こうは戸惑いながらも姿勢を戻し、給食を食べ進めた
昼休み、こうは校庭でクラスの男子たちとサッカーをしていた
大野「こう!シュートだ!」
こう「あぁ!」
こうは片足を後ろに引く。そして勢いよく振り上げた。こうの足に蹴られたボールは素早くゴールのネットに飛んでいった
大野「やったー!!こうナイス!!」
大野が叫び、こうに抱きつく。同じチームのクラスメイトはこうを囲んだ
こう「やったー!大野、合図ありがとう!!」
すると大野は嬉しそうに笑う。それを見てこうも笑った
大野「よし!2セット目やろ!次も点とるぞー!」
こう「おー!!」
コートの真ん中へ走っていくみんなに続いてこうも走り出した。その時___
ゲホッゲホッゲホッ
給食のときに聞いたのと同じ咳が聞こえた
こう「えっ?」
大野「どうした?」
こう「また咳が聞こえてさ」
大野「えぇ?そんなの聞こえなかったよ?ほら、試合始めるよ」
こう「あ、うん」
咳が気になりながらもみんなのもとへ行こうとした
ゲホッゲホッ
こう「ほら!また聞こえた!!」
大野「え?咳が?」
こう「そう!大野には聞こえなかったの?」
大野「聞こえてねぇよ…」
こう「えぇ…」
すると大野が心配そうにこうに歩み寄ってきた
大野「やっぱお前休んだほうが良いよ…」
こう「体調は大丈夫だよ!サッカーもできる!」
大野「でも、心配なんだよ。暑さで幻聴聞こえてるんじゃないのか?」
こう「そんなこと無いと思うけどな」
大野「とりあえず教室戻ったほうが良いよ!みんなに言っとくから!」
そう言うと大野はみんなのもとへ駆けていった
こう「大丈夫なのに…」
こう(でも心配させるのも良くないかも。…戻るか)
少し納得いかないものの、これ以上大野を心配させたくないため素直に戻ることにした
翌日。こうは高熱を出してしまい、自分の部屋のベッドで目を瞑っていた
母「学校には休みの連絡入れておくからね。今日はゆっくり休みなさい」
こう「わかった…」
母は水やゼリーなどをこうの机に置くと出ていった
こう(大野の言う通り、体調悪かったのかも…)
こう「ゲホッゲホッゲホッ!」
保健室で話した子と同じようなひどい咳をする。こうは朝からずっとこの咳に苦しんでいた
こう(あぁ…あの子もこんな苦しかったんだな)
そう思うと会話しすぎたなとこうは申し訳なく思った
こう「ゲホッゲホッ!…あぁ〜腹筋割れそう」
咳をしすぎて目に涙を溜めながら言う
こう(もういっそ寝ちゃおうかな…寝た方が楽な気がする…)
目を瞑り、ゆっくり深呼吸をする。途中で咳が出てしまったが、続けるうちに眠りについた
ゲホッゲホッ
こう「う、う〜ん…?」
こうは目が覚めると保健室のベッド寝ていた
こう(なんでここに…?)
隣を見るとカーテンに女の子っぽい影が映っている
少女「あなたも体調悪いの…?」
あの少女のかすれた声が聞こえる
こう「あ、うん…熱出しちゃったんだ」
そう言うと少女はハッとしたようにわずかに頭を上げた
少女「もしかして、こうくん…?」
こう「うん、そうだよ…」
少女「昨日ぶりだね…」
嬉しそうに少女は言う。しかし、すぐあのひどい咳をしてしまう
こう「話さないほうが良いよね...ゆっくり休みなよ…!」
少女「あなたは優しいわね…でも私はあなたと話したいの…」
こう「そ、そうなんだ…」
こうは横向きになり、少女のほうに向いた
こう「ねえ、僕が起きた時君いなかったけど、それはなぜなの…?」
少女「それはね…あの後熱出ちゃって早退したの…」
こう「やっぱりそうだったんだね…」
こう(あの先生はやっぱり“今は”俺しかいないってことを言ってたんだ!)
疑問が解決されてスッキリする。しかし、新たな疑問が生まれた
こう「なんで咳が聞こえたんだろう…」
少女「咳が聞こえるの…?」
こう「うん…給食のときからずっと聞こえてたんだ…」
少女「咳している人がいたんじゃない?」
こう「それがそういう人がいなくて、友達に聞いたら聞こえなかったって言ってて…」
少女「それは不思議ね…ふふふっ…」
こうは「はぁ…」とため息をつく
少女「そろそろしんどいんじゃない…?」
こう「え…?」
確かに身体がしんどい。冷気が当たっているのか寒い
少女「ごめんねぇ…あなたに風邪うつしちゃったかも…」
こう「そ、そんなことないと思うけど…」
少女「でも症状が一緒よ…私と同じくらい酷い咳をしていたじゃない…」
こう「ま、まぁね…」
少女「こうくん、おだいじに」
こう「ありがとう…」
こうは目を瞑り、深く息を吸う。その時、あることを思った
こう(俺、名前教えたっけ?)
教えた記憶がない。しかしなぜか少女はこうの名前を知っていた
こう(昨日保健室で話したときも名前呼んでた気がする…!)
こう「ね、ねえ、なんで俺の名前知ってるの…?」
少女「おだいじに」
こう「ねぇ…」
少女「おだいじに」
こう「ちょっと…話聞いてよ…なんで…?」
少女「こうくんおだいじに、おだいじに、おだいじに、おだいじに、おだいじに」
こう「ねぇ、なんで俺の名前知ってるの?!」
「おだいじに」しか言わない少女に苛立ったこうは少女の方に顔を向けた。その瞬間、背筋が寒くなった。
いつの間にかカーテンが開いていて、少女が顔を覗かせていたのだ。少女は髪型長く、目がガン開きで血走っており、不気味な笑みを浮かべている
少女「おだいじに、おだいじに、おだいじにおだいじにオダいじにオダイじにオダイジにオダイジニオダイジニオダイジニオダイジニ…」
少女はこうを見つめながらずっと呟く。怖くなったこうは目を逸らし、反対側を向いた。するとそこには___
少女「オダイジニ」
少女の顔があった
こう「うわぁぁぁぁぁ!!!」
叫んだ後、こうの目の前が真っ暗になった
お昼頃、こうの部屋に母親が来た
母「こう…?すごくうなされてたけど大丈夫…?」
母親は寝ているこうの額に手を当てた。すると、母親の顔が青ざめた。こうの額はひどく冷たかったのだ。
「残念だね」
後ろから声が聞こえ、振り向くと、ドアのところに見知らぬ少年が立っていた。その少年はツノが生えており、赤い瞳の左目に十字架が刻まれている。ワザワイだ。
母「だ、誰よあなた!?」
ワザワイは警戒するこうの母親に構わずこうに近づく
ワザワイ「この子は呪われてしまったんだよ」
母「どういうこと…?」
ワザワイ「彼は"おだいじに"という都市伝説に襲われたんだ」
母「おだいじに…?」
ワザワイ「昔風邪で保健室で亡くなってしまった少女の霊に会ってしまったんだ。そのせいで風邪をうつされてしまった」
母「え…」
ワザワイ「うなされていたのはおそらく夢の中でその少女に襲われていたんだ。彼女に捕まった者は命を奪われてしまう」
母「じゃあやっぱりこうは…!!」
ワザワイは黙って頷く。それを見てこうの母親は顔を手で覆って泣き出す。ワザワイはこうの額に手を当てる。すると左目の十字架が光り、こうから黒いモヤが出てきた。そのモヤはワザワイの手から吸収される。それを確認するとワザワイは黙ってこうの家から出て、住宅街を歩き出す…とあるものを見て目を見開いた
ワザワイ「っ…!君は…!」
ワザワイが歩いた先には息を切らしたキヨラがいた。キヨラはワザワイを睨んだ
キヨラ「都市伝説を生み出すのはやめろ!」
ワザワイ「…無理だよ、僕はこれを続けないといけないんだ!」
キヨラ「なんで!」
ワザワイ「それは…」
ワザワイはその言いかけた言葉を制し、険しい顔でキヨラを見た
ワザワイ「君には関係ない」
そう言うとワザワイはキヨラの横を通り過ぎようとする。するとキヨラがワザワイの腕を掴んだ
ワザワイ「離せ!!」
キヨラ「なぜ都市伝説を生み出すんだ!」
ワザワイ「君に関係ないと言っただろう!」
キヨラ「自分の望みを叶えるためか?」
するとワザワイは黙り込む。そしてゆっくり口を開いた
ワザワイ「…まぁ、合っているよ」
キヨラ「え、ほんとに…?」
予想が当たったことにキヨラは驚く。その時一瞬力が緩んだ。その隙にワザワイは腕を振りほどくと走って近くの角を曲がっていってしまう
キヨラ「あぁ!待て!」
キヨラは慌てて追いかけるが、角を曲がるともうワザワイの姿は見当たらなかった
キヨラ「あぁもう!なんで僕はいつもこうなんだ!!」
気を抜いてしまった自分に苛立ったキヨラは地団駄を踏み、拳を強く握りしめた
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