真ん中の怪

雑木林の中にある岩のトンネルの前でワザワイは目の前にいる青い瞳の少年を見つめる。この少年は先ほどワザワイが傘の女に関する不幸を回収した後、背後から声をかけてきたのだ。


ワザワイ「君は…?」


少年「僕は天使 キヨラ(あまつか キヨラ)!お前が生み出した都市伝説を鎮めているんだ!」


それを聞いてワザワイはため息をついた


ワザワイ「君のせいだったんだね…」


キヨラ「お前のせいでみんなが不幸な目に遭っているんだぞ!なんでそんなことをするんだ?」


キヨラはワザワイを睨む。そんなキヨラをワザワイは冷たい目で見つめた


ワザワイ「それは君には関係ない」


ワザワイはそう言うと歩き出す


キヨラ「お、おい!止まれ!」


ワザワイ「何?僕忙しいんだけど」


キヨラ「また都市伝説を生み出すんだろ?」


ワザワイはキヨラの横へ歩み寄る。そして鋭い目でキヨラを睨む


ワザワイ「これ以上僕の邪魔はしないでくれないかな」


そう強く言い捨てると再び歩き出した。そして雑木林の中に消えていく


キヨラ「待て!!」


キヨラは慌てて追いかけるがワザワイの姿を見失ってしまった。悔しげな表情を浮かべ、地団駄を踏む


キヨラ「せっかく見つけたのに…!」


キヨラは岩のトンネルのところへ戻り、トンネルの入口に立っている傘の女に手をかざす。そして何かを唱えると傘の女と岩のトンネルが光る。やがてそれらは跡形もなく消える。それを確認するとキヨラは雑木林から去っていった







ある日曜日。高校1年生の大野 美鈴(おおの みすず)は親友の東 香菜(あずま かな)と雪村 維都(ゆきむら こと)とショッピングモールへ来ていた



みすず「やっとテスト終わったね〜!」


みすずが笑顔で言う。今日は期末テストがあったのだ


かな「2人ともお疲れ様〜!」


こと「今回難しくなかった?」


みすず「難しかった!!」


かな「私数学赤点かも〜」


こと「私も英語絶対赤点だよ〜」


かなとことは同時に「はぁ…」とため息を漏らす


みすず「ちょっと2人とも気分落とさないでよ〜!なんのためにここ来たと思っているのよ?」


かな「あぁそうだった、息抜きに来たんだった!!」


こと「ごめんね〜みすず〜!」


ことはみすずの腕に抱きつく。それを見たかなもみすずに抱きついた


みすず「くぅ〜…可愛い子たちめ〜!まぁ許してあげましょう!」


かな「ありがと〜!!」


こと「今日は3人でショッピング楽しも!!」


ことの言葉にみすずとかなが笑顔で頷く


かな「まず何しよっか」


みすず「あそこのアイス食べよ!!」


みすずは少し離れたところにあるフードコートの一番手前にあるアイスクリームショップを指指す


こと「いいね〜!!食べよ〜!!」


3人はアイスクリームショップでアイスを買うとフードコートの椅子に座ろうとしたが…


みすず「うわぁ…人いっぱいだねぇ…」


こと「座れるところなさそうだね…」


かな「しかたないからあそこ座ろ」


かなの指が指した先にはベンチがあった。後ろはガラス張りで周りには植物がある。フードコートにいるより静かに3人で話せそうだ


こと「いいね!!」


みすず「あそこにしよ!」


3人はベンチに座る


みすず「ねえ2人とも、写真撮ろ!」


かな「もちろんいいよ!」


こと「撮ろ〜!!」


真ん中に座っているみすずが顔の近くにアイスを持ってスマホを構える。両サイドにいるかなとことはみすずに顔を近づけた


みすず「いくよ〜!はい、チーズ!!」


笑顔、変顔、いたずら顔…色んな表情で何枚もの写真を撮る。やがて少し溶けかけたアイスを食べながら撮った写真を3人で見た


かな「あははっ、みすずの変顔最高!」


こと「ほんとみすずって色んな顔できるよね〜」


みすず「表情筋やわらかすぎて色んな顔できちゃうんだ〜!」


かな「もうここまでくればプロだよ」


それを聞いてみすずとことは爆笑する。その2人の笑い声につられてかなも笑った


こと「あ〜久しぶりに笑ったわ〜」


ことは目に溜まった涙を拭いながら言う


みすず「嘘つけぇ〜いつも笑ってるくせに〜」


かな「1日の半分は笑ってるでしょ」


みすずとかなも目に溜まった涙を拭いながら言う


こと「それとこれは別だよ〜」


みすず「ことの笑いの価値が違うってこと?」


こと「そゆこと〜!」


かな「今回は価値が良かったんだね〜」


ことは「そうそう〜」と言いながら笑う。そう笑い合っているとあっという間にアイスを食べ終わる


かな「食べ終わっちゃったけど、これからなにする〜?」


こと「なんかやることないよね」


みすず「ちょっとお洋服とか見て、プリクラ撮って帰ろっか」


かなとことは「賛成〜!」と声を揃えると3人は仲良く並んで歩いていった






みすず(今日は楽しかったな〜)


夜、家に帰ったみすずは自分の部屋でベッドに座って今日撮った写真を見ていた


みすず(いっぱい撮ったもんね!100枚以上は撮ったんじゃないかな)


スワイプしながらみすずは笑みを浮かべる


みすず「あっ、やっと最初の方の写真になった」


みすずはスワイプし続ける。しかし、ある写真を見てその手が止まった


みすず「え…なにこれ…?」


今日アイスを買ったときに撮った写真だ。真ん中にみすず、左にかな、右にはことがいて仲良く笑っている。しかし、みすずの首と頭上だけ薄っすらと歪んでいるのだ


みすず「なんでだろう…」


少し手が動いてぶれてしまったのだろうか。それともスマホのカメラが調子悪かったのだろうか


みすず(それにしてはピンポイントすぎる気がするけど…)


その時、コンコンッとドアをノックされた。そしてドア越しに母親の声が聞こえる


母「みすず〜、早くお風呂入りなさ〜い」


みすず「は〜い」


みすず(きっと誤作動でこうなっちゃったんだよね...!気にするのはもうやめとこ!)


みすずはスマホをベッドに置くと部屋から出た







次の日の昼、みすずはかなとことと一緒に空き教室でお弁当を食べていた


かな「昨日はほんと面白かったね」


こと「ガチ楽しかった!みすず誘ってくれてありがと!!」


みすず「どういたしまして〜!2人と遊びに行くことが最近無かったから遊びたくなっちゃったんだ!!」


かな「そうなんだ!!あと写真もありがと!!」


かなはちらっとスマホを見せる。それを見てことが「そういえば…」とつぶやきながらスマホを取り出した


こと「みすずが送ってくれた写真を昨日見てたんだけど、気になったことがあって…」


ことはそう言いながらスマホを操作する。そしてある画面になるとみすずとかなに見せた。昨日アイスを買ったときに撮った笑顔の写真だ


こと「この写真さ、みすずの首元と頭の上が歪んでいる気がするんだよね」


かな「ことも?!」


かなは思わず声を上げて立ち上がった


みすず「え、かなもなの?」


かな「みすずもなんだ。私も写真見てたらこの写真だけ違和感持ってて…」


みすず「気のせいじゃなかったんだ」


みすずはことのスマホに表示されている写真を見る


みすず「…あれ、昨日見た時より歪んでる気がする…」


かな「え?」


かなとことはスマホの画面を覗く


こと「確かに…」


かな「昨日は薄っすらだったけど今はしっかり歪んでるね…」


みすず「こんなことありえるの…?」


3人は青ざめた顔を合わせる。その時___


キンコンカンコーン


コールサインが鳴った


『1年C組 東 香菜さん、体育館へ来てください』


先生の声がスピーカーから響く。その声を聞いた瞬間、かながハッとした表情になった


かな「そうだった、今日体育委員集まるんだった!!ごめん2人とも、先行くね!!」


みすず「うん!大丈夫だよ!」


こと「いってらっしゃい!頑張ってね!!」


かな「うん!ありがとう!!」


かなは急いで空き教室を出ていった


こと「私達もお弁当食べ終わったし、教室戻ろっか!」


みすず「うん、そうだね!!」


2人はそれぞれお弁当をバッグにいれると空き教室から出た


5校時の休み時間、みすずはあの写真を眺めていた


みすず(また歪みが増してる…)


昼ご飯のときに見た時より歪みが増し、どのような背景だったのかがわからなくなってきた


みすず(なんかこの歪み…顔みたいになっている…?)


みすずはスマホを少し遠ざけて見てみる。するとさらに顔のように見えた


みすず(え、顔じゃん…すご〜…)


最初不気味と感じていたが、歪みに隠れている顔を見て感心する


みすず「こんなことがあるんだねぇ…」


そうつぶやくとスマホをしまう。すると先生が入ってきた。みすずは授業の用意をしてないことに気づき、慌てて準備をした








ある住宅街をワザワイが歩いていた。ワザワイはきょろきょろと周りを見回す


ワザワイ「呪われた子はどこだ…?」


ふと空を見上げると太陽が西へ偏ってきていた


ワザワイ「まずい…残り時間がもう少ない…!」


ワザワイは歩いている足を速める


ワザワイ「早くしないと回収できなくなる…急がないと…」


速めた足がさらに速くなり、歩みから走りへと変わる。ワザワイは神経を集中させ、周りを注意深く見た









みすず(ふぅ…疲れた〜)


夕方、部活を終えたみすずは帰りの電車に乗って腰を下ろした


みすず(あ、そういえばあの写真どうなったかな?)


みすずはスマホを取り出し、写真を確認する


みすず(なに…これ…)


歪んでいた部分に黒い服を着た骸骨のようなものが薄っすら見える。みすずの首元には鎌の刃のようなものが写っている。みすずは気味が悪くスマホを閉じようと電源ボタンを押そうとした時、その指が透けていた


みすず「ひっ…」


みすずは恐る恐る手を確認してみる。手はどこも透けていない


みすず(な、なんだ…見間違いか…)


おそらく写真の気味悪さを気にしすぎて見間違えたのだろう。みすずはそう思ってスマホをしまい、深呼吸をした


みすず(大丈夫…疲れてるだけだよね…)


みすずは身体を休めるため、しばらく目を閉じた



ピコン ピコン ピコン


数分後、カバンの中からかすかに聞こえるスマホの通知音でみすずは目を開けた。スマホを見ると通知の正体はみすず、かな、ことのグループメッセージだった


みすず(なんだろう…)


みすずはメッセージアプリを開き、トーク画面を見た



こと『今日見せた写真がなんか変わってるんだけど!!』


かな『黒い服をきた骸骨みたいなやつだよね?!』


こと『そう!そいつが持ってる鎌がみすずの首元にあって怖いんだよ…!』



みすず「黒い骸骨…」


みすずは写真を確認する。数分前よりもはっきりと骸骨が見えてきていた


みすず(なんで…?まずこの骸骨はなんなの…?)


戸惑いながら写真を見つめる。するとスマホを持っている自分の手に何かが薄っすらうつっているのが視界の端っこで見えた


みすず「えっ…?」


手を見ると自分の足や電車の床がうつっている


みすず「なにこれ?!」


みすずは驚きのあまり大声をだして立ち上がった。周りの乗客が何事だと驚いた表情で一斉にみすずに注目する


みすず「あ…すみません…!」


頭を何度も下げながらそーっと座る。そして自分の手をカバンにかざしてみる。すると手から薄っすらとカバンが見える


みすず(す、透けちゃったの…?あれは見間違いじゃないの…?!)


足を見ると足も同じくらい透けていた。みすずは怖くなり心臓の鼓動が早くなる。膝に置いてあるスマホの画面にはまだ写真が表示されている。そこに写っているみすずは今のみすずのように少し透けている


みすず(どうしよう…早く帰りたい…!)


身体を震わせながらカバンを抱きしめる。ちょうど電車が止まった。みすずが降りる駅に着いたのだ。みすずは急いで電車から降りる。

駅から出ると走って帰ろうとした。その時持っていたカバンやスマホを落としてしまう。拾おうと手を伸ばした時、さっきよりも身体が透けていた


みすず「そんな…嫌だよ…消えたくない…」


恐怖で身体を震わせながらも落ちたものを拾おうとする。しかし、手がカバンを通り抜けてしまった


みすず「嘘っ…!?つかめない…?!」


震えながら両手を見つめる。身体はだんだんと透けていく


みすず「嫌だ…!かな…こと…!」


みすずは親友の名前をつぶやく。涙がみすずの頬をつたう


「見つけた!!」


突然誰かが叫んだ。見るとそこには頭に2本のツノが生え、赤い瞳をしていて、左目には十字架が刻まれている少年が立っていた。ワザワイだ


みすず「助けて…!」


みすずは助かりたい一心でワザワイに手を伸ばす。その手はどんどん薄れていく


ワザワイ「今だ…!!」


ワザワイは目の十字架を光らせ、みすずに向かって手を伸ばす。するとみすずの身体から黒いモヤが出てきてワザワイへ吸収された




しばらくして、駅の入口付近に1人の少年がやってきた。その少年は青い瞳をしている。キヨラだ。キヨラの足元には学生カバンとスマホが落ちている。スマホの画面には写真が表示されている。その写真は両端に女の子が2人写っていて、真ん中には鎌を持った黒い服の骸骨が写っていた。それを見てキヨラは苦々しい表情を浮かべた


「もう少しで助けられたのに、残念だったね」


突然どこからか少年の声が聞こえる


キヨラ「この声は…!」


キヨラは声の主を探すと駅の屋根の上にある少年が座っていた


キヨラ「怪夢ワザワイ…!」


ワザワイ「危なかったよ〜、なんとか不幸を回収することができたんだ」


キヨラ「危なかった…?不幸を回収…?」


ワザワイ「そのスマホに写っている骸骨いるだろ?」


キヨラはスマホに表示されている写真を見る


キヨラ「こいつは何なんだ?」


ワザワイ「それは死神だよ。これは"真ん中の怪"という都市伝説で、写真の真ん中に写った者は死神によって呪われてしまうんだ。その死神は徐々に写真に現れて、完全に写真に現れた時呪われた者は消えてしまうんだ」


ワザワイは立ち上がりながら説明する


キヨラ「だから真ん中の怪…」


ワザワイ「僕が不幸を回収できるのは呪われた者が完全に消える直前なんだ。今日はその直前でその子を見つけたから回収できた」


キヨラ「その不幸の回収ってなんなんだ?…って違う!!」


キヨラは自分が普通にワザワイの話を聞いていることに気づいた


キヨラ「怪夢ワザワイ!都市伝説を生み出すのはやめ…」


慌てて上を見たがもうそこにはワザワイの姿がない


キヨラ「くそっ…やられた…!」


握った拳で自分の太ももを叩く。そして落ちているスマホに手をかざし、何かを唱えた。するとスマホが光り、写真の中の死神が消える。キヨラはそれを確認すると、ワザワイが座っていたところをじっと睨んだ

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