傘の女

『ニュースをお伝えします。近頃、一日に多くの行方不明者が出る事件が相次いでいます。犯人は未だ不明で…』


朝日がリビングを照らしている中、ニュースキャスターの声が聞こえる


ひまり「あーあ、せっかくいい天気なのに…なんで朝からこんなニュースを聞かなくちゃいけないの〜」


中学1年生の谷原 向葵(やはら ひまり)は朝ご飯のトーストをかじりながらぼやいた。最近、子供からお年寄りまで幅広い年代の人が行方不明になっている。今ではこの町の3分の1ほどの行方不明者が出ている。警察は誘拐と見て犯人を捜索してるらしい。


母「世の中物騒よね〜」


ひまり「どうしてこんなことが起きちゃうのかなぁ!!犯罪を犯してる人は何考えているのよ!!」


ひまりは苛立ちが抑えられず声を上げる


母「ひまり、落ち着いて。朝から疲れちゃうでしょ」


ひまり「そ、そうだよね」


ひまりは深呼吸をして苛立ちを抑える。そして母親に笑顔を向けた。それを見て母親は微笑む


母「この町で起きているらしいからひまりも気をつけるのよ」


ひまり「は〜い」


ひまりはトーストを食べ終え、ソファーに置いたバッグを持った


ひまり「いってきまーす!!」


ひまりは元気に家を飛び出した





教室。ひまりは前の席の仲良い女子、神埼 斗亜(かんざき とあ)と話していた


とあ「ねぇねぇ、今日のニュース見た?」


ひまり「見たよ〜!」


とあ「あの行方不明事件の犯人まだ見つからないね〜」


ひまり「だよね〜。早く捕まってほしい」


ひまりは朝のように憂鬱な気持ちになる。そんな時、とあが人差し指を立ててひまりの顔を覗いた


とあ「あのね、少し前にもそのニュース見て、気づいたことがあるんだ〜!」


ひまり「気づいたこと?」


とあ「うん!行方不明者が増えた日を見ると、犯人は必ず雨の日に誘拐してるんだよ」


ひまりは今までのニュースを思い出してみる


ひまり「確かに…昨日の行方不明者って出る時前日雨だった気がする」


とあ「でしょ!」


とあが勝ち誇ったようなドヤ顔をする。ひまりはそんなとあを見て苦笑いをした


とあ「ひまりはさ、都市伝説って好き?」


ひまり「都市伝説?急にどうしたの?」


突然話題を変えてきたとあにひまりは驚く


とあ「もし嫌いじゃなければ雨に関する都市伝説教えようと思ったからさ」


ひまり「そうなんだ。都市伝説は好きでも嫌いでもないよ」


とあ「なら話しても大丈夫?」


ひまり「うん!話していいよ!!」


とあは笑顔になる。そしてひまりの机に肘を乗せた


とあ「昨日お兄ちゃんから聞いたんだけど雨の日に"傘の女"が現れるらしいんだ」


ひまり「傘の女ってどんな人なの?」


とあ「傘の女はね、白い着物を着ていて赤い唐傘をさしてるんだって」


ひまり「へ〜」


とあはひまりの顔を再び覗いてニヤッと笑った


とあ「もし行方不明事件の犯人が傘の女だったらどうする〜?」


ひまり「え〜、捕まえようがなくない?」


とあ「だよね〜!その場合どうするんだろ?」


ひまり「でもさ、今思ったけど犯人が本当にいるのかもわからないよね」


今わかっているのは行方不明者が炸裂していることだけで原因はわかっていない。犯人が実際いるのかもわからないのだ


とあ「確かにそうだね」


ひまり「もうこの話やめよ!!もう授業始まっちゃうし!」


するとちょうどチャイムが鳴り、先生が入ってきた。とあは「また休み時間話そ」と言って前を向いた









ある雑木林の中、ツノが生えている赤い瞳の少年___ワザワイが空を見上げている


ワザワイ「今日は晴れか…」


ワザワイは残念そうに言い、顔を前に向ける。ワザワイの視線の先には岩でできたトンネルがあり、先は真っ暗で何も見えない。その入口付近に白い着物を着て赤い唐傘をさしている女性が立っている。ワザワイは「ふっ」と笑うとその女性に向かって声をかけた


ワザワイ「君も残念だったね、たぶん今日は人を連れてこれないよ」


女性はピクリとも動かずすました顔をしている。そんな女性を見てワザワイはニヤッと笑う


ワザワイ「まぁどっちにしろ君は僕に利用されるだけだけどね」


そう言うとワザワイは雑木林を歩いていった







ひまり「やっと帰られる〜!」


放課後、ひまりは部活を終えてバッグを持った


ひまり「帰ったら何しようかな〜」


ひまりはそう言いながらルンルンと昇降口へ行く


とあ「あ、ひまり!お疲れ!」


昇降口には靴に履き替えているとあがいた


ひまり「とあ!お疲れー!一緒に帰ろ〜」


とあ「今日は親が迎えに来てるから一緒に帰れないの!ごめんね!」


ひまり「そうなんだ!大丈夫だよ!」


とあ「ありがとう!じゃあまた明日ね!」


とあは走って昇降口を出ていった。ひまりはとあを見届けてから靴に履き替えた


ひまり「よし、帰ろう!!」


ひまりは軽い足取りで昇降口を出た




ひまり「あれ、曇ってきた?」


歩きながら空を見上げる。空は灰色の雲に覆われてきた


ひまり「さっきまで晴れてたのに〜…まぁ曇りならいっか」


ひまりは足元にあった小石を蹴る。するとちょうど道路の小さなくぼみにはまった


ひまり「わっ、奇跡!こういうのって地味に嬉しいよね〜」


ひまりは笑顔になりスキップをするように歩く。その時、辺りが一気に暗くなった


ザァーーーーー!!


突然雨が降ってきた


ひまり「うわぁーーー!!」


ひまりは走って近くにある薬局の屋根の下へ行った


ひまり「もー、ビチャビチャなんだけど〜」


髪の毛や服をハンカチで拭きながら外を見る。雨はかなり激しく降っている。走れば家まであと5分ほどだがこの雨じゃ帰れそうにない


ひまり「しばらく雨宿りするしかないか〜」


薬局の人に許可を取って雨宿りをすることにした。ひまりはため息をついてしゃがむ


ひまり「今日は運が良いのか悪いのかわからないなぁ〜…」


ひまりは疲れてしまって顔をうずめる


「家まで送っていきましょうか…?」


優しい女性の声がする。顔をあげると目の前に肌が白い綺麗な女性が立っていた


ひまり「あ、あの…」


女性「家まで送っていきましょうか…?どうぞ私の傘に入って…」


女性はひまりに優しく微笑み、持っている赤い傘を前に出す


ひまり(悪い人では…なさそうだよね?でも…)


ひまりは恐る恐る立ち上がる


ひまり「私、中学生なので1人で帰れますよ」


女性「でも傘はないんでしょう…?」


ひまり「それは…はい…」


女性「この雨の中帰るのは危険よ。風邪もひいちゃうわ…」


ひまりは何も言えなくなり、女性を見つめる。


ひまり(まぁいっか、優しい人だし)


ひまりはふぅっと息をはくと女性に微笑む


ひまり「じゃあお願いしていいですか?」


女性「えぇ、いいわよ…!」


女性は笑顔になる。ひまりは申し訳なさそうに女性の傘に入った



女性と歩いて2分ほど経った時、ひまりはふと思った


ひまり(この人が誘拐犯だったりするのかな…?)


ちらっと横を歩く女性を見る。女性は白い着物を着ている。持っている傘はよく見ると唐傘だ。


ひまり(白い着物に赤い唐傘…?)


どこかで聞いたことがある。ひまりは思い出そうとする。


ひまり(あれ〜…どこで聞いたんだっけ〜…?)


ひまりが考えていると突然誰かに手を引かれた


ひまり「わっ!」


ひまりが前方を見ると、同じくらいの歳の見知らぬ少年が手を引いていた。その少年の頭には2本のツノが生えている


少年「こっち来て!!この人から離れないと!!」


ひまり「えっ…?」


少年「とにかく走るよ!」


少年はひまりの手を引いて走り出す。ひまりは戸惑いながらも少年についていった。


ひまり「ね、ねぇ、どうしてあの人から離れないといけないの?」


少年「あれは傘の女だ!あの人についていくと見知らぬところに連れてかれるぞ!」


ひまりはそれを聞いてハッとした。白い着物と赤い唐傘…それはとあと傘の女の話をした時に聞いたことを思い出したのだ


ひまり「もしかして、傘の女のせいで行方不明者が出ていたの?!」


少年「あぁ、その通りだ!」


少年はひまりを連れて走り続ける。やがてひまりの家が見えてきた


ひまり(この人、家まで送ってくれるんだ!)


ひまりはそう期待していたが、少年はひまりの家を通り過ぎてしまった


ひまり「えっ、さっきの私の家なんだけど」


少年「君の家とか知らないよ。しかも今後ろに傘の女が追いかけてきている。家がバレたら結局襲われるだろう?」


ひまり「た、確かに…」


少年はひまりの家の少し先にある雑木林へ入った


ひまり「なんでこんなところに?」


少年「こういうところにいれば姿がわかりにくい。つまり逃げやすいんだ」


ひまり「なるほど〜」


こんなに冷静に頭が回る少年にひまりは感心する。走っているとやがて岩のトンネルが見えてきた


ひまり「こんな洞窟みたいなトンネルあったんだ…」


少年「このトンネルの奥まで行って!!僕はあいつをなんとかする!!」


ひまり「わ、わかった!!」


ひまりは少年から離れるとトンネルの入口まで行った。しかしそこで足が止まってしまう。ひまりは暗所恐怖症なのだ。このトンネルは先が見えないほど暗い。身体をブルッと震わせると少年のもとに戻った


ひまり「お願い、一緒に来て!!」


少年「えっ…なんで?」


ひまり「私暗闇が苦手なの!!お願い!!」


泣きそうになりながら必死にお願いするひまりを見て少年はため息をつく


少年「しかたない…あいつが来る前に早く行くぞ!!」


少年はひまりの手を掴むとトンネルへと走り出した




ひまり「暗いなぁ…」


ひまりは恐怖を少しでも抑えようと、少年と会話しようと試みた


ひまり「ね、ねえ、あなたの名前は?」


少年「僕の名前?」


ひまり「うん、聞いてなかったなーって思って」


少年「僕の名は怪夢 ワザワイ」


ひまり「ワザワイくんね…頑張って覚えないと」


ワザワイ「別に覚えてもらわなくていいんだけど」


ひまりは「冷たいなぁ」と文句を言う。でも自分を守ってくれたことが嬉しくて笑顔になる


ひまり「助けてくれてありがとうね」


ワザワイ「助ける…?そんなつもりはないよ」


ひまり(照れ隠しのつもりかぁ〜?)


ひまりはふふっと笑う。その時、足元がぐにゃっと沈んだ


ひまり「うわぁっ!」


ひまりは足がどんどん地面にのめり込んでいる感覚を感じた


ひまり「これ、どういうこと?!」


もう下半身が地面に埋まった。その時、ひまりはワザワイが自分の手を掴んでない事に気がついた


ひまり「ワ、ワザワイくん!!助けて!!」


ワザワイ「ごめんだけどそれは無理だよ」


ひまり「なんで?!」


ワザワイ「さっき言っただろう、助けるつもりはないと。このトンネルに入った者は岩の一部になってしまうんだ。傘の女に連れられても結局はここに連れてこられるよ」


ワザワイの赤い瞳が光っていて左目に刻まれている十字架がキラッと輝く。そこでひまりは意識が途切れた




数分後、ワザワイはトンネルの前に立っていた。そのトンネルの入口には傘の女が立っている


ワザワイ「まったく…さっきの子は本当に世話が焼ける…」


そう言ってため息をつくとトンネルを見上げた


ワザワイ「ふぅ…そろそろ回収できそうだね」


ワザワイは手のひらをトンネルに向ける。すると左目の十字架が光り、トンネルから黒いモヤが出てきてワザワイへ吸収された


ワザワイ「よし…今回は回収できた」


ワザワイは握りしめた手を見つめた


「君はどうして都市伝説を生み出すんだ?

___怪夢 ワザワイ」


突然、背後から声が聞こえた。ワザワイが振り返るとそこには青い瞳の見知らぬ少年が険しい顔をして立っていた

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