マッドガッサー

しえり「疲れたー!!」


バドミントンのシャトルを拾いながら小学5年生の倉本 紫衣莉(くらもと しえり)は叫んだ


るか「もーうるさい〜!確かに疲れたけどもう夜なんだよ?」


一緒にシャトルを拾っていたしえりの同級生の海老原 瑠夏(えびはら るか)が呆れたように言う。2人は町のバドミントンクラブに入っていて、先ほど練習を終えたのだ。そして、今日は片付け当番だったため、最後まで残っているのだ


しえり「ねぇー早く帰ろ〜」


るか「そう言う割には手動いてないじゃん」


しえり「だって疲れたんだもーん!」


るか「早く帰りたいなら頑張ってよ〜」


しえり「はーい!!」


突然しえりは張り切ってシャトルを拾い集める


るか「よくわからないなぁ…この子」


るかはしえりを見て再び呆れながらもシャトル拾いを再開した。しえりが張り切ったおかげで1分ほどで終わらせることができた。


しえり「やっと帰れる〜!一緒に帰ろー!」


るか「うん!帰ろー!」


2人はクラブの活動場所である町の体育館を出る。するととても甘い匂いがした


しえり「わぁ!いい匂い!」 


るか「なんの匂いだろう?」


しえり「わからない!」


るか「だよね〜!もう暗いし早く帰っちゃお!」


しえり「うん!あっ今日親が迎えに来てるから送るよ!」


るか「本当?!ありがとう!」


2人は駐車場へ向かう。そして車を見つけるとしえりはその車に乗った


母「おかえり!」


しえり「ママただいまー!るかも乗せていい?」


母「いいわよ!」


るか「すみません、お願いします!」


母「はーい!2人ともお疲れ様ね!」


るかが乗ると車は駐車場を出て行った


その車が1人の少年の横を通った。少年は車が走って行くのをじっと見つめる。車の赤いライトを浴びて、その少年の赤い瞳が輝く。その目の左目には十字架が刻まれていた。少年はワザワイだ


ワザワイ「まだ効果はないのか…」


ワザワイは深呼吸をする。とても甘い匂いが鼻につく


ワザワイ「ここにいると僕も危険だね」


ワザワイはそう呟くとその場を去っていった





翌日、しえりは国語の授業で漢字テストを受けていた。


しえり(何これ〜、こんなの習ったっけ?)


漢字が苦手なしえりは50問あるうち20問を頑張って解いたところでとうとうギブアップし、周りを見た。みんなテスト用紙を見つめ、鉛筆を動かしている


しえり(なんでみんなそんな解けるんだろ)


しえりは疑問に思いながらも疲れた脳を休めるため、一旦深く息を吸った。


しえり(ん?この匂いって…!)


しえりは再び深呼吸をする。すると甘い匂いに満たされ、眠気が襲ってきた。それと同時に少し頭痛が襲う。


しえり(なにこれ…)


しえりは頭を押さえて机にうずくまる。すると、ほかの席から「うぅ…」という唸り声が聞こえた。声のした方を見ると、前の方の席の子がいかにも体調が悪そうに顔を伏せていた。


しえり(あの子も体調悪いんだ…大丈夫かな…?)


体調を崩した子は休み時間に保健室へ行き、早退した。しえりの頭痛は下校時間になっても続いていた。


るか「しえり、一緒に帰ろ〜!」


隣のクラスのるかがドアから顔を覗かせた


しえり「うん!ちょっと待ってて〜!」


しえりは急いで教科書をランドセルに入れ、るかのところへ行った


下校中、横断歩道を渡りながらしえりがるかに話しかけた


しえり「今日の国語の時間に昨日の夜と同じ匂いしたんだけど」


しえりがそこまで言うと、るかが驚いたように目を見開いた


るか「私も!こっちは社会だったけど、甘い匂いしたよね!」


しえり「るかも?!それで、その匂い嗅いだらなんか頭痛くなっちゃってさ」


るか「同じだ!もしかしてまだ痛い?」


しえり「うん、痛い!」


るか「だよね!私も同じ症状なんだ〜、みんなも一緒って言ってた」


するとるかが頭を押さえる


るか「なんか鈍い痛みなんだよね〜」


しえり「嫌だよね、明日まで続いたらどうしよう」


るか「そんなに続くことはないでしょ!」


るかが少し笑いながら言う。しえりはそれを見てつられて笑った


しえり「だよね〜!大体寝たら治るもんね!」


るか「…なにあれ…?」


しえり「え?なにって?」


るか「あれだよ、あの大きくて動いてるやつ!」


るかが少し離れた路地を指指す。そこには3メートルほどの大きな影が動いていた


しえり「本当だ…なんだろう?」


るか「人にしては大きいよね?」


しえり「うん、あんなに大きな人は見たことないよ」


すると、その路地から紫色の煙が出て、フワッと消えていった。その数秒後、とても甘い匂いが風に乗って辺りに充満した


しえり「多分この匂いの正体はあれだよ!!」


るか「絶対そうだ!」


しえり「るか!行こう!」


るか「えっ?!」


しえり「あいつの正体を突き止めるの!」


しえりは路地へと走り出した


るか「えっ、ちょっとしえり!待ってよ!」


るかは慌ててしえりを追いかけた




しえり「暗いなぁ」


しえりは路地を歩いていた。路地は暗く、うっすら物が見えるくらいだ。前にはまだ3メートルほどの影が見える。しえりはそれを追いかけるように路地を進んでいった。


るか「しえり!」


追いかけてきたるかが追いついてしえりの手を掴んだ


しえり「あ、るか!もー遅いよ〜」


るか「あんたが早いんでしょ!ねぇ帰ろうよ、ここ暗いよ。しかも頭の痛みが増してるし」


しえり「あの影の正体を確かめるの!」


るか「そんなことをしても何もならないでしょ?帰ったほうが安全だよ!私は帰るよ!」


しえり「え…あぁもういいよ!帰っていいよ!1人でやるから!」


しえりはるかの手を振り解いた


るか「えっ、しえりも一緒に帰ろうよ」


るかが手を伸ばすとその手をしえりは弾く


しえり「嫌だ!私はあの影の正体を確かめるまで帰らない!」


しえりはるかを睨む。るかは一瞬戸惑ったが、徐々に苛立って、睨み返す


るか「わかったよ!私は帰るから好きにしなよ!」


るかはしえりに背を向け、路地を出て行った


しえり「なんなのよ、るかならつきあってくれると思ったのに」


しえりはるかに苛立ちながらを前にいる影を追いかけ続ける。5分ほど歩いた時、後ろから足音が近づいてきた。そしてしえりの腕を誰かが掴んだ


しえり「何よ!」


しえりは、るかが追いかけてきて腕を掴んだのだと思い、手を振り解く。そして走り出した


少年「待て!」


しえり「えっ…?」


しえりは足を止めて振り返る。聞こえた声は少年の声だったのだ。少年が近づいてくる。


しえり(とりあえず路地出たほうがいいよね?)


しえりは20メートルほど前にある路地の出口を見つめる。そして少年を無視して走って路地を出た


少年「待てと言っただろう」


路地から少年が出てくる。その少年は中学生くらいの子で綺麗な青い瞳をしていた


しえり「なんで私を止めるんですか?」


少年「君、あの影を追いかけるのはやめて」


しえり「なんで?」


少年「あれは"マッドガッサー"という怪人なんだ。この町、とても甘い匂いがするだろう?」


その言葉にしえりは頷く


少年「それはマッドガッサーが充満させた毒ガスの匂いなんだ。この匂いを嗅いだ者は頭痛と吐き気に襲われる」


しえり「頭痛と吐き気…」


しえりが今も感じている頭痛はそれによるものだと知った。でもなぜか少年は平気な顔をしている


しえり「なんでお兄ちゃんはそんな平気な顔をしているの?」


少年「ただ痛みを我慢しているだけ。僕も今頭が痛いんだ。そろそろみんな吐き気も襲ってくる頃だろう。君は早く帰りなよ」


しえり「…嫌だ」


少年「なんで?」


しえり「私はあいつの姿を見たいの!」


しえりは影のいた方を指指す。しかし、もうその大きな影はなかった


しえり「えっなんで!?」


少年「あぁせっかく見つけたのに!君のせいで逃してしまった!」


しえり「私のせい?!」


少年「君が路地にいるからだよ!まったく…君は早く帰って!体調崩す前に帰ったほうがいいよ!」


そう言うと少年は走り去ってしまった


しえり「なんなの…あのお兄ちゃん…」


しえりはいろいろ訳がわからないが、頭の痛みがどんどん増しているため諦めて帰ることにし、路地へ戻って行った




翌日、しえりは今までにない激しい頭痛と吐き気に苦しんでいた。それは家族も一緒だった。町の人みんな同じ症状で苦しんでいるらしく、全校学校閉鎖になった。


しえり「うぅ…あのお兄ちゃんの…言う通りだ…」


しえりはベッドの上でうずくまる。ご飯は昨日の夜からまともに食べていない。マッドガッサーの近くにいたせいか、しえりの症状は家族の中で1番ひどかった。


コンコンッ


と、部屋のドアがノックされる。すると、ガチャッと開いた


母「しえり…?何か食べたいもの…ある?」


少し苦しそうな表情の母が入ってきた。しえりはしんどくてわずかに首を振るのがやっとだ。


母「そう…食欲ないわよね…ゼリーは置いておくから食べたかったら食べて」


しえり「ありがとう…」


母「ゆっくり休んでね…」


母はそう言って部屋を出て行った


しえり「もう嫌だよ…助けて…」


しえりは顔をうずめて震えた。このつらい状態がずっと続くのではないかという不安が出てくる。しえりの目に涙が溜まった。


その時___


昨日からずっとしていた甘い匂いが消えた。すると、体調が徐々に戻ってきて、しえりは起き上がれるくらいになった


しえり「…どういうこと?」


なぜあの匂いが消えたのだろうか。わからないが、体調が良くなったことが嬉しく、リビングへ行った


父「お!しえり!」


母「あら、しえりも体調良くなったのね!」


顔色が戻り、穏やかに微笑んでいる父と母の姿があった


しえり「パパ!ママ!2人も体調良くなったの?」


父と母は同時に頷く


しえり「よかった〜!」


母「今からご飯作るわね!」


しえり「やった〜!やっとお腹すいたよ〜!」


父「そうだな!」


しえりは笑顔でご飯の準備をした




しえりの家の近くをワザワイが歩いている。体調が悪くて顔を歪めていたが、その顔が徐々に戻っていった。それと同時にハッと顔を上げる


ワザワイ「匂いが…消えた…?」


ワザワイは険しい顔になり、拳を握る


ワザワイ「消えることはないはずなのに…やっぱりおかしい…!」


握った拳を胸の前に置き、前方を睨む


ワザワイ「おそらく誰かが邪魔しているんだ。その前に不幸を回収しないと…!」


ワザワイは早足で隣の町へと去っていった

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