トイレの花子さん

くみ「何か面白いことないかな〜」


ある日の昼休み、小学6年生の荒瀬 玖美(あらせ くみ)は大きく身体を伸ばしながら声を上げた


えみか「面白いことね〜…」


ちとせ「あまりなくない?早くチャイムなってくれないかな?」


一緒に話していた花江 恵美香(はなえ えみか)と澄田 千歳(すみた ちとせ)がくみの机に頬杖をつきながら答えた。3人はいつも昼休みに話している。そして話が盛り上がったところで昼休み終了のチャイムがなってしまうのが日常だった。しかし、今日は話す話題がなく、退屈していた


ちとせ「今日はほんとに普通の日常だよね〜」


えみか「ねー。なんも面白みのないテンプレみたいな学校生活だったよ」


くみ「なんかさ〜、肝試しとかやってみたくない?」


その瞬間、えみかとちとせがくみをじっと見つめた


くみ「な、なに?」


えみか「めっちゃいいじゃん!」


ちとせ「なんでそれ思いつかなかったんだろ〜!くみ天才だね!」


えみかとちとせはくみの肩を激しくポンポン叩く。


くみ「ちょっ、痛いよ!力加減考えてよ〜」


えみか「ごめんごめん!」


ちとせ「つい興奮しちゃって!」


くみ「もー全く〜」


3人は「あははは」と笑い合う


くみ「…で、なにやる?」


えみか「肝試しね〜…あんまりこういう系詳しくないんだよな〜…」


ちとせ「"トイレの花子さん"みたいに定番のやつでいいんじゃない?」


くみ「なんならトイレの花子さんでいいじゃん!決まり〜!」


えみか「早速やろ〜!」


3人は立ち上がり、トイレへ行こうとした。その時、


キーンコーンカーンコーン


昼休み終了のチャイムが鳴った。3人は同時にカクッとずっこける


くみ「今鳴るんかーい!」


ちとせ「何でこのタイミングで鳴るの〜?!」


えみか「このチャイム意思持ってるんかな?」


くみ「悪意あるでしょ」


3人はスピーカーを睨んだ。するとなんだか可笑しくなって、同時に「ぷっ」と吹き出した


ちとせ「まぁいいや!放課後やろ!」


くみ「そうだね!賛成!」


えみか「私も〜!」


ちとせ「それじゃ、次理科室だから早く行こ!」


くみ「えっ、次理科室?!」


えみか「完全に忘れてた〜!早くしないと怒られちゃうよね?!」


ちとせ「絶対怒られる!私はもう準備完了だよ!2人とも急ぐんだ!」


ちとせはもう理科の教科書やノートを持っている。くみとえみかは急いで教科書、ノートを持って、3人は教室を飛び出した



放課後、くみとえみかとちとせは教室に残っていた


ちとせ「誰もいないよね?」


えみか「たぶんいないと思う!」


くみ「大丈夫!先生も会議に入ったよ!」


くみはグッと親指を立ててウインクする。


ちとせ「よくその情報手に入れたね」


くみ「ちょっとバレるの怖かったから職員室前行ってみたんだ〜!そしたら、ちょうど会議が始まったの!」


えみか「職員室前に行く方が怖くない?でもナイス!」


くみ「まぁね〜」


くみは照れ笑いを浮かべる。そして、パンッと手を叩いた


くみ「さて!やろっか!」


ちとせ「そうだね!」


えみか「まずやり方確認しよ!これ、図書室で今日借りたんだ!」


えみかは図書室で借りてきた都市伝説の本を出してトイレの花子さんのページを開き、机の上に広げた


トイレの花子さんを呼び出す儀式は


3階女子トイレで


3回ノック→「花子さん遊びましょ」と3回唱える


これを1番奥の個室から3つ目まで行う


えみか「すると、3つ目の個室から『はぁ〜い』と聞こえるらしいね」


ちとせ「簡単に呼び出せちゃうね!」


くみ「本当に返事するのかな?」


えみか「まさか〜!しないでしょ!」


えみかは笑いながら言う。それにつられてくみとちとせも笑った


くみ「だよね〜!幽霊とか存在するはずないもん!」


ちとせ「でもちょっと楽しみ!」


えみか「私も楽しみ!」


くみ「やり方も確認したことだし、今度こそ行こう!」


6年生の教室は3階にあり、廊下を挟んで向かい側にトイレがある。3人は教室を出ると目の前の女子トイレに入った。そして、奥まで進む。


えみか「誰からやる?」


くみ「3番目は花子さんやろって言ったちとせでしょ」


ちとせ「なんで〜?そこは肝試しやりたいって言ったくみでしょ」


えみか「じゃんけんで決めなよ」


ちとせ「そうだね!」


くみ「よーし!」


2人は真剣な顔で前に拳を出す


くみ&ちとせ「最初はグー!じゃんけん!」


2人は声を揃え、勢いよく「ぽん!」と出した。くみがチョキで、ちとせがパーだ。


くみ「やったー!」


ちとせ「え〜…まじで〜…!?」


えみか「くみおめでとう!ちとせドンマイ!」


くみ「それじゃ、私先やるね!」


えみか「いいよー!」


くみはトイレの個室の前に立つ。そして、ドアの前でノックの手を作った。しかし、なかなかノックをしない


ちとせ「どうしたの?」


えみか「早くノックしなさいよ」


くみ「いざやるとなるとちょっと怖いの!」


くみは少し頬をふくらませる


ちとせ「はいはい、わかった!」


えみか「ここはまだ出てこないから大丈夫でしょ!」


くみ「そうだよね〜…」


くみは深呼吸をする。そして不安そうな表情になりながらも握りしめる手に少し力を入れた


コンコンコンッ


くみ「花子さん、遊びましょ。花子さん、遊びましょ。花子さん、遊びましょ。」


3回言い終えると、一瞬くみは無駄に入っていた力がすっと抜けた


くみ「さっ、えみかどうぞ!」


えみか「はーい!」


えみかは2つ目の個室の前に立ち、くみと同じように3回ノックした


えみか「花子さん、遊びましょ。花子さん、遊びましょ。花子さん、遊びましょ。」


中から声が聞こえないことを確認すると、安堵のため息をついて笑顔になる


えみか「確かにちょっとドキドキするね!」


くみ「でしょ!」


ちとせ「えー、もう私の番〜?!」


えみか「頑張ってー!」


くみ「ちとせならいけるよ!」


ちとせはしぶしぶ3つ目の個室の前に立つ。そして、深く息をつくと3回ノックした。


ちとせ「花子さん、遊びましょ。花子さん、遊びましょ。花子さん、遊びましょ。」



シーン…



個室から何も聞こえない。しばらくして、ちとせはドアにへたり込んだ


ちとせ「良かったぁ〜」


えみか「やっぱ噂だけだったんだね!」


くみ「でも楽しかった!」


ちとせ「うん!楽しかった!」


えみか「もう帰らないと怒られちゃうよね」


くみ「そうだね〜」


くみとえみかはトイレから出る。その後ろについてちとせも出ようとした時____


ハァ〜イ…


__と、女の子の声がした。


ちとせ「え…?」


ちとせは思わず振り向く


くみ「ちとせ?どうしたの?」


えみか「何かあった?」


ちとせ「えっと、さっき女の子の声が聞こえたんだけど…」


それを聞いて、くみとえみかは驚いた顔になる。しかし、すぐに笑顔になる


くみ「まさか〜!私には聞こえなかったよ〜?」


えみか「私も〜!もしかして怖がらせようとしてるんじゃないの〜?」


ちとせ「そんなんじゃ…」


くみ「たぶんさっきまでの恐怖のせいで幻聴が聞こえただけだよ!」


えみか「早く帰ろ!」


ちとせ「う、うん!」


ちとせはさっきの声が気になるが、おそらく気のせいだろうと思い、ドアを閉めて、教室へ戻った。



次の日の昼休み、くみとえみかとちとせはいつも通り集まっていた


くみ「昨日は楽しかったねー!」


えみか「ねー!たまには肝試しも面白いね!」


ちとせ「ねー!思ったより怖かった!」


くみ「ほんとほんと!肝試し甘く見ていた!」


えみかとちとせはうんうんと頷く


えみか「あ、私ちょっとトイレ行ってくるね!」


くみ「はーい!」


ちとせ「いってらっしゃ〜い!」


えみかが教室から出るところを見送ると戻ってくるまで残ったくみとちとせは昨日の肝試しについて話していた。


キーンコーンカーンコーン


やがて、昼休み終了のチャイムが鳴る


くみ「えみか遅いね」


ちとせ「お腹痛いのかな?」


くみ「授業まであと5分はあるし大丈夫か!」


くみとちとせはそれぞれ授業の準備をして自分の席に座った。




授業中、くみとちとせはちらちらと目線を合わせる。えみかがなかなか戻って来ないのだ。時計を見ると授業が始まって20分は経っている


ちとせ(流石に遅くない…?)


くみ(そろそろ戻ってきてもいいのに…)


すると、話していた先生が話を止めた


先生「荒瀬、澄田、きょろきょろしてどうした?授業中だぞ」


くみ「ご、ごめんなさい!」


ちとせ「えみかちゃんがなかなか戻って来ないなって思って…」


すると先生は今気づいたような表情になった


先生「そういえば花江がいないな!どこ行ったんだ?」


くみ「トイレです!」


ちとせ「昼休みに行ってからずっと戻って来ないんです!」


先生「そんなにか!?よっぽど腹が痛いとかか?まぁ心配だろうけど今は授業やるぞ。座りなさい」


先生はそう言うと、話の続きを話し出す。

くみとちとせはあまり納得いかない顔をしながらしぶしぶ座った




結局、えみかが戻ってこないまま授業が終わってしまった。くみとちとせは慌ててトイレへ行く


くみ「えみか?大丈夫?」


ちとせ「お腹痛いのー?」


全く返事がない。2人はのドアを見る。どれも鍵がかけられていなかった


くみ「いないのかな…?」


ちとせ「じゃあえみかはどこ行ったの…?」


すると___



…くみ…ちとせ…


と微かに声がした


くみ「この声って!」


ちとせ「えみか?!どこなの?!」


…くみ…ちとせ…


耳を澄ますと奥から3番目の個室から声が聞こえた


ちとせ「こ、ここ?」


ちとせは奥から3番目の個室のドアを開けようとする。しかし、押しても引いても開かない


ちとせ「なんで?!」


くみ「ちとせ、何やってんの?」


ちとせ「本当に開かないの!やってみてよ!」


くみは思いっきりドアを開けようとする。しかし、びくともしない


くみ「本当だ…」


ちとせ「鍵はかかってないのになんで?」


くみとちとせは原因を探ろうと鍵をまじまじと見た。その時、隣に気配を感じて、そこに顔を向けた。するとそこにはおかっぱ頭の赤いスカートを履いた女の子が立っていた


くみ「あの格好って…トイレの花子さんだよね…?」


ちとせ「うん…たぶん…。本で見た通りだ…」


くみ「え、じゃあここにいるってことは昨日ちとせが言っていた女の子の声って…本当だったの…?!」


すると花子さんはゆっくり近づいてきた


花子さん「ネェ、イッショニアソボ!ナワトビトカクレンボドッチガイイ?」


くみ「ひっ…来ないでよ!!」


花子さん「ナワトビトカクレンボドッチガイイ?」


ちとせ「くみ…逃げよ…!」


ちとせは急いでドアに駆け寄ると開けようと、ドアノブを掴む


ガチャガチャ


ちとせ「えっ!開かない!」


くみ「うそ!?」


くみもドアノブを掴み、2人で開けようとするが全く開かない


くみ「私たち…閉じ込められた…?」


ちとせ「そんな!」


くみとちとせはパニックになる。その時、2人の腕にひんやりとしたものが触れた。


花子さん「イッショニアソボ」


花子さんが2人の腕を掴んでいたのだ


花子さん「イッショニアソボ!クミ…チトセ…!」


花子さんがそう言うと突然奥から3番目の個室のドアがバンッ!と思いっきり開いた。中にトイレはなく、真っ暗な空間が広がっていた。花子さんはくみとちとせの腕を引っ張り、その中に入ろうとする


くみ「いやっ!離して!」


ちとせ「嫌だ!行きたくない!」


2人は必死に手を振りほどこうとする。しかし、花子さんは異常なほど力が強く、なかなか離れない


花子さん「オイデ、イッショニアソボ!」


暗闇の空間の中に花子さんが入っていく。そしてくみとちとせの腕が入り始めた


くみ「嫌…嫌だ…!」


ちとせ「離して…!」


2人は必死に抵抗するがどんどん意識が朦朧としていく。


ズズズズ…___


やがて、女子トイレはシーンと静かになり、いつものトイレとなった




その頃、校庭にワザワイがやってきた。


ワザワイ「あ、ちょうど用が済んだところだったんだね。来たタイミングがよかった」


ワザワイは校舎に向かって手を伸ばす。すると、左目の十字架が光り、校舎の3階から黒いモヤが現れ、ワザワイへ吸収された。


ワザワイ「よし、ここにはもう用無しだ。次のところへ行こう」


ワザワイはそう言うと、校庭から去って行った






その夜、1人の少年がその校庭にやってきた


少年「遅かったか…」


その少年は悔しそうに校舎を見つめる。月明かりに照らされ、青い瞳が輝いていた。

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