生首ドリブル

タッタッタ!ダダダ!


ピー!!


走る足音や笛の音が周りで鳴り響く

そして、多くの声援が響いていた



とあるグラウンドでサッカーの大きな試合が行われているのだ。


りつ「かなた!パス!」


サッカーサークルに所属している大学2年生の神季 璃斗(かみき りつ)はチームメイトの 東野 彼方(とうの かなた)に向かって声をあげた


かなた「おっけー!」


かなたはりつに向かってボールを蹴る。そのボールは吸い込まれるようにりつの足元へ向かった


りつ「ナイス!」


りつはドリブルをすると素早くシュートを決めた。周りやコート内で歓声が上がる。かなたはりつに飛びついた


かなた「りつナイス!流石だな!」


りつ「かなたのパスが上手いからやりやすいんだよ!」


かなた「ありがとな!」


かなたとりつはハイタッチをした


チームメイト「やっぱこのコンビは最強だよな〜!」


チームメイト「パスの天才のかなたとシュートの天才のりつ!この2人が揃ったら最強に決まってるよな!」


2人の様子を見ながらチームメイトは感心したように笑う。実際、この2人はお互い相棒という存在でいた。


りつ「この調子で優勝まで行こうぜ!」


かなた「あぁ!」


チームメイト「俺たちもサポートするからな!!」


みんな、再び定位置へと駆けた


このチームはりつとかなとの活躍で見事優勝した。


かなた「りつお疲れ〜!」


挨拶を終え、かなたは更衣室へ向かうりつに声をかけた


りつ「おう!お疲れ!」


かなた「お前のシュート全部入ったな!流石だよ!」


かなたはりつに肩を組んだ


りつ「今回のシュート気持ちよかったな〜!でもお前のパスがないとあのシュートできないからお前のおかげだ!」


りつはかなたに肩を組み返して言う


チームメイト「また同じような会話してるよ」


チームメイト「早く着替えなー!コーチが焼肉奢ってくれるって!」


りつ「まじ?!」


かなた「早く行こう!!」


りつとかなたは走って更衣室へと駆け込んだ





数日後、りつとかなたはいつも通り大学のグラウンドで練習をしていた


りつ「かなた!このコートで1対1やろーぜ!」


かなた「おう!やろやろ!」


2人はボールを間に、向かいあった


りつ「すまん!合図出してくれ!」


りつは周辺で練習をしているチームメイトに声をかけた。すると1人のチームメイトが駆け寄ってきた


チームメイト「いくよ、よーい…スタート!」


その合図でりつは素早くボールを取った

かなたはりつからボールを奪うために必死に体を入れようとする。りつは奪われないようにボールを操った。やがてかなたがボールを奪い逆の立場へとなる。そしてりつがボールを奪い返す。その繰り返しでなかなか決着がつかない


チームメイト「すげぇ…」


チームメイト「あいつらの1対1って終わりが見えないよな…!」


チームメイト「前なんか1戦に30分ぐらいかかってたぞ…」


チームメイトはいつのまにか練習をやめてりつとかなたの1対1の勝負を見ていた


りつ「あーあ、また決着つかないな」


かなた「りつが手強いんだろ」


りつ「かなたも一緒だろ」


2人は笑いながらも続ける。やがてかなたがボールを取ってりつのコーナーへと運んだ。


かなた「よっしゃ!」


りつ「うわぁ〜油断した〜」


かなた「今日は俺の勝ちだ!」


かなたはガッツポーズをし、りつは悔しそうな顔になった。


チームメイト「記録、25分!」


かなた「まじ?そんなやってたんだ!接戦だったな〜!」


りつ「面白かったよな!」


2人は挨拶代わりのグータッチする

時計を見ると19時だ。周りを見るともうチームメイトは片付けをしていた


りつ「やっべ、そろそろ片付けないとな!」


かなた「お前ら帰っていいよ!残りは俺らがやっとく!」


チームメイト「まじ?じゃあよろしくー!」


チームメイトたちは「お疲れ〜」と言い合いながら帰って行った。残ったりつとかなたは周りにあるカラーマーカーとボールを回収する


りつ「これで全部かな?」


かなた「ほかになさそうだよな」


りつ「よし、倉庫にしまおう」


りつとかなたは倉庫へ向かった。


かなた「暗くなったなぁ」


かなたがふと空を見上げて言う


りつ「そうだなー。この学校照明があまりないよな」


かなた「そうだな。今日は曇っているから余計グラウンドが真っ暗だよ」


りつとかなたはグラウンドを見た。その時、2人は目を疑った。グラウンドに子供の影があるのだ。


かなた「関係者以外ここ入れないよな?」


りつ「そのはずだけど…」


かなた「ちょっと行ってみようぜ」


りつ「そうだな」


2人はグラウンドへと走る

グラウンドにいる子供は首から下の影しか見えないが、身長的に小学生くらいでボールを蹴って走っているのがわかった。


りつ「君、なんでここにいるの?」


かなた「お家に帰らないとお父さんお母さんに怒られちゃうよ?」


りつとかなたは子供に向かって叫ぶ。するとその子供は動きを止めて、蹴っていたボールを持って2人の方に向いた


子供「お兄ちゃんたちも一緒にサッカーやろうよ!」


かなた「え、さっき片付けたばかりなんだけど…」


りつ「夜は危ないから帰ったほうがいいよ?」


子供「お願い!1回だけやろ!」


りつとかなたは困ったように顔を見合わせる

少しして、頷いて子供の方へ顔を向けた


りつ「わかった、1回だけだぞ?」


子供「うん!じゃあお兄ちゃんたち対僕ね!」


かなた「えっ、それでいいのか?」


子供は体格的に自分たちが勝つのに自ら不利な方を選んでいる。それに対して2人は戸惑った。しかし、子供は「うん!」と頷いた


子供「それでやりたい!僕強いからね!」


かなた「わかった、それでやろう」


りつ「じゃあ位置につこうか」


3人は真ん中へと歩いて行く。そして、子供がボールを真ん中に置いた


子供「お兄ちゃんからどうぞ!手加減は絶対しないでね!」


りつ「わかったよ!それじゃ、いくぞ!」


りつはつま先でチョンっとボールを蹴る。そして、かなたがドリブルをした。


子供「よっと!」


子供が早速ボールを取った


かなた「わっ、まじか!早っ!」


子供「へへーん!これが本気ー?」


子供はボールを蹴りながらかなたを煽る。その隙にりつはボールを奪い返した


りつ「油断は禁物だぞ〜!」


かなた「おっ!りつナイス〜!」


子供「あぁー取られた!待ってよー!」


子供はりつを追いかけ、ボールを奪おうと足を出す。りつはそれを軽々避けてシュートを打った


りつ「あっ、ミスったか…?」


りつが蹴ったボールは弧を描き、ギリギリゴールに入った


かなた「さすがりつ!」


かなたはりつの肩に手を回す。子供がりつとかなたの駆け寄ってきた


子供「お兄ちゃん強すぎるよ〜」


りつとかなたは子供の声に違和感を覚えた。子供は近くにいるはずなのに声が離れたところから聞こえる。


りつ「何でだ…?」


かなた「単純に声が小さかっただけか?」


りつとかなたが戸惑っていると、雲が動き、月が出た。グラウンドは月明かりに照らされ、少し明るくなる。2人は子供の姿を見て息を呑んだ。


_____子供の頭がない


りつ「ど、どういうこと…?」


かなた「俺たち、さっきまでこいつと遊んでたんか…」


りつとかなたはこの世の存在ではなさそうな子と遊んで、会話をしていたことにゾッとした

子供はサッカーゴールへと歩く


りつ「っ!あれって…!」


かなた「まさか、あいつの…!」


サッカーゴールには男の子の頭が転がっている。顔はりつとかなたに向けていて、不気味な笑みを浮かべている


子供「お兄ちゃんたち、遊んでくれてありがとう」


子供は自分の頭を拾うと、ボールを持つように抱える。そしてりつとかなたに向かってニヤッと笑った


子供「コレデボクタチトモダチダネ」


りつ「えっ…」


かなた「なんだよ友達って…」


すると、りつとかなたの視界がゆっくり斜めになっていく。そして「ゴトッ」という音と同時に目の前に足が現れた





しばらくして、グラウンドに1人の少年が現れた。その少年の頭にはツノが2本生えていて、綺麗な赤い瞳の左目には十字架が刻まれている。ワザワイだ。ワザワイはグラウンドを見つめ、満足そうな顔をする


ワザワイ「今回は上手くいったみたいだね」


グラウンドには3人の人の影がある。3人とも頭が無く、揃ってそれぞれ自分の頭を蹴って走っていた


ワザワイ「あの2人もこの呪いを広めていってくれるといいなぁー」


ワザワイはそう言って手を伸ばす。すると、左目の十字架が光り、走っている3人のうち、身長の高い2人の体から黒いモヤが出てきて、ワザワイへ吸収された。すると、ワザワイの身体が光に包まれた


ワザワイ「うわぁぁ…!」


ワザワイの全身に心地よい衝撃が走り、頭のツノがわずかに小さくなる。やがて光が消え、ワザワイは崩れ落ち、膝をつく


ワザワイ「あぁ、これだ…!やっとまた…人間に一歩近づいたんだ…!」


ワザワイはゆっくり立ち上がる。そして前を真っ直ぐ見た


ワザワイ「この調子で…頑張らないと…!」


ワザワイはぎゅっと拳を握ると歩き出し、この町から去って行った

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