見返り橋

れか「いおく〜ん!明日一緒にどっか出かけようよ〜!」


金曜日の放課後、高校3年生の成瀬 麗華(なるせ れか)は恋人の白崎 唯生(しらさき いお)に話しかけた


いお「明日?!」


れか「うん!明日!」


いお「別にいいけど…いきなりすぎないか…?」


いおは苦笑いを浮かべた。それをみてれかはふふっと笑った


れか「いいでしょ〜!さっき思いついたことだもん!」


いお「それでなんで明日になるんだよ〜」


れか「だって先延ばしにしちゃったら予定合わないかもしれないじゃん!だから全部活なしの明日がいいかなって!」


明日は先生の会議などで全ての部活が練習休みとなっていたのだ


いお「まぁ確かにそうだな!…で、どこに行きたいの?」


れか「それはいおくんが決めてほしいなー!」


いお「えぇ〜!?無茶振りすぎるよ〜!」


れか「おねがーい!」


いお「も〜しょうがないな〜」


いおは必死に場所を考えながられかと家に帰った




翌日、れかといおはある公園に集合した


れか「ここ初めて来たぁ〜!」


いお「見せたいものがあるんだけどまだ見れないからそれまで屋台まわろ!今日はちょうどちょっとしたお祭りやってるんだって!」


れか「へぇ〜そうなんだー!見せたいものってなに〜?」


いお「それは見てからのお楽しみだよ!それより今はお祭りの方へ行こうよ」


いおはれかの手を優しく握った


れか「うん!そうだね!」


れかはその手を握り返し、2人仲良く歩き出した



屋台を回って30分ほど経った


れか「ねぇねぇ!たこ焼き食べたーい!」


いお「えぇ?いいけどちょっと休んでからにしたら?れか、ずっと食べてるじゃん」


れかはからあげにポテトにやきそば、かき氷にりんご飴にクレープなど、いろんなものを食べていたのだ。今は鈴カステラを食べている


れか「だってお祭りって食べることしかやることないもーん!あっ、わたあめ食べよー!」


れかは目の前にあるわたあめ屋の屋台を指さして言う


いお「もー…俺も食べよー!」


れか「ほんと?!一緒に食べよ〜!」


いおは大きなわたあめを一つ買うと、れかと近くのベンチに座った


れか「このわたあめ大きいねー!」


いお「そうだな!れかの顔二つ分はあるんじゃない?」


れか「そんなにはないでしょー!」


いお「さすがにないか!」


2人は笑い合ってわたあめを食べる


れか「ねぇ、私に見せたいものってなんなの〜?」


いお「またかよ〜、見てからのお楽しみだって言ってるじゃん〜!」


れか「どんなものか教えてよ〜!実物見なきゃ大丈夫でしょ!」


いお「えぇ〜?まぁ…」


いおが困ったように苦笑いをすると、れかがあるところに指を指した。その指した先には1つの屋台がある


いお「射的?」


れか「そう!勝負して、私のほうが景品をとれたら教えて!」


いお「へ〜、この俺に勝負を仕掛けるんだ」


れか「なによ〜、私いおくんに負けないからね!」


いおとれかはわたあめを食べ終えるとすぐ、射的の屋台へと行った


おじさん「はい、1人6発ね〜!頑張って〜!」


れか「はーい!」


いお「俺手加減しないからな?」


れか「別にいいよ〜!」


いおとれかは一発一発集中して打った



数分後、射的を終えた2人はまたベンチに座った。


いお「すいません、完全になめてました!」


いおはれかに頭を下げた。れかは自分で取ったぬいぐるみとお菓子を持っている。一方、いおはお菓子を2つしか取れなかった


れか「ほらー、いおくんには負けないって言ったでしょ〜!ねぇ、見せたいものってどんなものなの?!」


いお「…夕日だよ」


れか「夕日?」


いお「うん、この公園にある橋を渡った先に綺麗な夕日を見れるスポットがあるらしいんだ」


れか「へぇ〜そうなんだ〜!」


れかはいおの顔を伺うといおは少し照れた顔をしていた


れか「どうして照れてるの〜?」


いお「え、あぁ、実はそのスポット、恋愛スポットなんだ。なぜかなかなか辿り着けない場所らしくて、もしカップルで辿り着けたらその2人は長く結ばれるって言われてるんだ」


れか「ふ〜ん、それで照れてたのね〜!」


れかがにやっと笑った


いお「ちょっと恥ずいんだよ…!」


いおはそう言うと顔を手で隠してしまった。そんないおにれかはぎゅっとくっついた


れか「それでここに誘ってくれたんでしょ?私嬉しい!夕日、一緒に見ようね!」


いお「れか…!そうだね!」


れか「なかなか辿り着けないところってどんなところなんだろ!楽しみ!」


いお「絶対辿り着いてみせようぜ!!」


れか「もちろん!」


2人は顔を合わせると笑い合った


いおがふと空を見た。太陽はもう西に偏っている


いお「なかなか辿り着けないなら早めに行った方がいいかもなぁ…よし、もう行っちゃおう!」


れか「やったー!行こう!」


いおとれかはベンチから立ち上がると手を繋いで橋へと向かった


れか「人多いね」


橋に辿り着くと多くの人が渡っていた


いお「そんなに有名なとこだったんだな…」


れか「そりゃあなかなか辿り着けないよね〜」


いお「そうだね〜」


れか「まぁいいや!行こ!」


いお「うん!離れないようにしっかり握ってて!」


お互い繋ぐ手に力を入れ、2人同時に橋に足を乗せた。その瞬間、前にいた人たちが全員消えてしまった


いお「えっどういうこと…?!」


れか「いなく…なっちゃった?」


2人は戸惑い、周りをきょろきょろと見回す。そして振り向くとそこには1人の和服の女性が地面に這いつくばっていた


いお「あの人、大丈夫かな…?」


れか「明らかに大丈夫じゃないでしょ…」


2人は女性のそばへ駆け寄った


れか「体調悪いんですか?」


女性「アァァ…アァ…」


いお「た、立てます?」


いおは女性の肩に触れた。


いお「ひっ…!」


いおは急に手を引いた


れか「いおくん、どうしたの?」


いお「つ、冷たいんだ…」


れか「冷たい?」


れかも女性の肩に触れてみた。


れか「っ…、ほんとだ…亡くなった時のおじいちゃんと同じ冷たさだ…!」


いお「ってことは死んだ人ってこと…?!」


いおはれかの手を掴むと女性から少し離れた


女性「アァァ…!」


女性はいおとれかに顔を向けた。目が血走っていて、口の周りは真っ赤になっている。そんな顔が2人に向かって不気味に微笑んだ


いお「…あの口の周りのやつ…血だ…!」


れか「いおくん…!」


いお「だ、大丈夫だよ…!」


いおは服の裾をぎゅっと掴んでくるれかを震える手で抱きしめる


女性「アァァァァ!!」


その時、女性が体を引きずるようにして2人に襲いかかって来た


れか「嫌ぁぁぁぁ!」


いお「れか、逃げよう!!」


いおはれかの手を引くと、走り出した。


れか「いおくんどうしよう!!」


いお(捕まったら、あいつに食われるかも…!)


いお「とりあえずこの橋を渡りきろ!」


れか「わ、わかった!」


2人は懸命に走った。しかし、もう少しで渡りきれそうなところでれかが転んでしまい、繋いでいた手が離れてしまった


いお「れか!大丈夫か?!」


いおは慌ててれかのそばに駆け寄ろうとした。しかし、足が動かなかった。足元を見ると地面から白い手がたくさんあり、その手たちがいおの足や腰などを掴んでいた


いお「うわっ!離せ!」


いおは必死に振りほどこうとしたが白い手の力が強く、なかなか離れない。


れか「いおくん!」


いお「れか!」


いおはれかの方を見ると、れかも同じく白い手に掴まれていた。その奥からは和服の女性が近づいてきている


いお「れか!手を伸ばして!一緒にここから逃げよう!」


いおはれかに向かって手を伸ばす。れかもいおに向かって手を伸ばすが、白い手たちがいおとれかを後ろに引っ張るためなかなか届かない


れか「いおくん、これ無理だよ…!」


いお「無理じゃない!一緒にここを渡りきって夕日を見ようよ!」


れか「いおくん…!」


いおは身体を前傾姿勢にして手を伸ばす。その手に向かってれかは必死に手を伸ばした


いお「頑張れ…!あと…もうちょっと!」


れか「う、うん!」


いおとれかはさらに手を伸ばす。すると、ようやく指先が触れた。いおは力を振り絞ってさらに伸ばしれかの手をしっかり握った


いお「よし!引くぞ!」


いおは思いっきりれかを引いた。すると、れかを掴んでいた手が離れ、れかは勢いよくいおに引き寄せられた。


いお「わっ!」


れか「きゃっ!」


いおはれかを抱き留めたが勢いが余って、そのまま一緒に後ろに倒れてしまった


いお「いって〜…れか、大丈夫か?」


れか「う、うん。大丈夫だよ」


いおとれかはゆっくり起きあがった


いお「あっ、あの手と女の人は?!」


いおとれかは橋の方を見た。そこはこの橋をわたる前のように多くの人が渡っていていた。不思議に思い、足元を見るといおとれかは橋を渡り切っていた


れか「倒れた時に渡り切ったのかな?」


いお「たぶんそうじゃない?」


するとれかはいおを見つめてニコッと笑った


いお「な、なに?」


れか「いおくんかっこよかったよ!」


いお「えっ、ほ、本当に?!」


れか「本当だよ!」


いお「え、えへへ〜、れかを助けられてよかったよ〜!」


いおは恥ずかしそうに頭をかいた。その時、周りがオレンジ色に染まった


いお「あっ夕日早く見ないと!」


れか「そうだね!沈んじゃ見れないもん!」


いおとれかは急いで木で作られた柵まで行く。

すると、目の前には大きな赤い夕日があった


れか「わぁ〜!綺麗!」


いお「見れて良かった〜!」


れか「なかなか辿り着けないって本当だったね!」


いお「あれがあったからの達成感はあるよな!」


そして、2人は静かに夕日を見つめた。


いお「綺麗だな…!」


れか「うん、すごく綺麗…!」


いお「あのさ」


れか「ん?」


いおは背筋を伸ばし、れかを真っ直ぐ見つめる


いお「これからもよろしくね!」


れか「ふふっ、こちらこそよろしく!」


いおとれかは笑顔を交わし、手を繋ぐとまた静かに夕日を見つめた





その頃、橋のもとに1人の少年が歩いてきた。ワザワイだ。ワザワイは橋の向こう側を見つめる。そして不機嫌そうな顔になる


ワザワイ「なんで…?あの手に捕まったら逃げられないはずなのに…!」


渡りきったカップルがいることを知り、少し苛立っている


ワザワイ「せっかく恋愛スポットを利用してこの橋を見返り橋にしたのに…渡りきっちゃったら意味ないじゃん」


ワザワイはため息をつき、橋の欄干に手をおくと何かを呟く。するとワザワイの身体がわずかに黒く光った


ワザワイ「この橋渡ったほとんどは襲われちゃったからいっか」


ワザワイはそう言うとそこから去って行った

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