銀の鍵

さくま「みんなはもし過去に戻れるとしたら1番どこに戻りたい?」


夕方、中学2年生の多田 咲真(ただ さくま)は一緒に帰っている山本 絵衣理(やまもと えいり)と早瀬 光太郎(はやせ こうたろう)と中山 亜月(なかやま あづぎ)に話しかけた。


あづき「え〜、戻りたいところか〜」


えいり「何だろうな〜?」


あづきとえいりは首をひねる。


さくま「時代を跨ぐのもありだよ」


こうたろう「そしたら俺戦国時代行ってみたいかも!」


こうたろうが目を輝かせて言った


あづき「こうたろう、戦国時代好きだもんね〜!」


こうたろうは戦国武将についてとても詳しかった。歴史のテストはいつも戦国時代は高得点だ。


えいり「私は平安時代行きたいかも」


あづき「私も行きた〜い!」


さくま「ゆったりしてて良さそう!」


こうたろう「2人とも十二単似合いそうだよな!」


さくま「確かに!」


あづき「えぇ、そう〜?」


えいり「嬉しい〜!」


あづきとえいりは照れ笑いを浮かべた。それをみてこうたろうとさくまは微笑む。


こうたろう「本当に行けたら面白いだろうなー!」


さくま「ねー!」


あづき「でも戦国時代は危ないんじゃない?」


えいり「そうだよね〜」


こうたろう「隠れて見てれば大丈夫じゃね?」


さくま「軽すぎだろw」


?「ねぇ、君たち」


突然背後から誰かに声をかけられた。4人は振り向くとそこには同じくらいの歳の少年が立っていた。その少年は2本のツノが生えていて、左目の赤い瞳の中には十字架が刻まれている。ワザワイだ。


こうたろう「な、なに?」


ワザワイ「君たち、過去に行ってみたいんでしょ?」


さくま「それがなんなんだよ」


こうたろう「そんなことで俺たちを呼び止める必要ないだろ?」


こうたろうとさくまは突然話しかけてられて、ワザワイに戸惑いと苛立ちを感じた。あづきとえいりは戸惑った表情でワザワイを見ている。ワザワイはそんな4人を見てふっと笑った


ワザワイ「それを聞くだけのために呼び止めはしないよ」


あづき「じゃあなんの用なんですか?」


ワザワイ「僕、過去に行く方法を知ってるんだ。だから教えてあげようと思って話しかけたんだ」


さくま「はぁ…?」


さくまは意味がわからず首を傾げた。一方、こうたろうはさっきの苛立った表情が消え、少し興味を持ったような表情になっていた。


こうたろう「本当にあるのか?!」


ワザワイ「あぁ、あるよ」


するとワザワイは、ポケットから銀色の鍵を取り出し、4人に見せた


ワザワイ「この鍵を使えば過去に行くことができるんだ」


えいり「こんな物で行けるの…?」


あづき「確かに普通の鍵ではなさそうだけど…」


ワザワイの持っている鍵は、家の鍵や自転車の鍵と違って上の部分が複雑な形になっていた。


こうたろう「これでどうやって行けるの?」


こうたろうが尋ねると、ワザワイは鍵をこうたろうに手渡した


ワザワイ「これを9回回しながら呪文を唱えるんだ」


さくま「呪文?」


さくまがそう言うとワザワイは頷いた。


ワザワイ「呪文は"オグトロドアイフゲベルフヨグ・ソトースヌガハングアイイズロフ"だ」


こうたろう「えっ、お、オグロドトアイ??」


ワザワイ「"オグトロドアイフゲベルフヨグ・ソトースヌガハングアイイズロフ"だ」


さくま「長すぎて覚えられないよ!!」


ワザワイ「はぁ…」


ワザワイはため息を吐くと、4人を見てめんどくさそうな表情で手を出して言った


ワザワイ「紙とペンあるか?そこに書くから」


こうたろう「あ、うん!」


こうたろうはバックからメモ帳とシャーペンを取り出し、ワザワイに渡した。ワザワイはそれを受け取ると、素早く呪文を書いてこうたろうに渡した。


ワザワイ「とにかくこれを唱えながら鍵を9回回せば過去の好きな時間へ行くことができる」


こうたろう「わかった!」


ワザワイ「そして、これを行う際は2人以上で行うんだ。君たちの場合はこの4人でやればいいだろう」


そう言うとワザワイは歩き去ってしまった。その場に取り残された4人はワザワイから渡された銀の鍵と呪文の書かれた紙を見つめた


こうたろう「…やってみる?」


こうたろうが静かに3人に聞いた


えいり「え、ちょっと怖いかも…」


あづき「だよね…」


さくま「じゃあ、一回あの横断歩道渡ろ」


さくまが先にある横断歩道を指指す


さくま「あそこを渡って、渡る前に戻ってみようよ」


こうたろう「それいいかもな!」


あづき「まぁ、それなら…」


えいり「大丈夫かも…ね」


こうたろう「じゃあ行こう!」


4人は横断歩道へ向かう。信号は青だ。4人は渡ろうとした。その時、信号が点滅し、赤になった


こうたろう「あぁなんでこのタイミングなんだよ」


あづき「たまに渡ろうとした時に点滅するよね」


こうたろうとあづきは文句を言う。そんな2人にさくまは話しかけた


さくま「でも逆によかったかもだよ?」


あづき「え?」


えいり「なんで?」


さくま「だって、戻った時にまた点滅したら本当に戻ったことを証明できるだろ?」


あづき「確かに!」


こうたろう「それなら待っていいかもな!」


1分くらい経った後、信号は青になった


さくま「よし!やっと渡れる!」


えいり「ここの信号長いよね」


4人とも渡り切ったところで、こうたろうは鍵を取り出した


こうたろう「じゃあやろ!この信号を渡る前に戻ろう!」


さくま「うん!」


えいり「大丈夫かな…?」


あづき「不安しかないよ…」


こうたろう「一応僕に捕まってて!」


3人はこうたろうに捕まる


こうたろう「じゃあやるよ!」


こうたろうは呪文の書かれている紙を取り出し、鍵を回す


こうたろう「えっと、"オグトロドアイフゲベルフヨグ・ソトースヌガハングアイイズロフ"!!」


鍵が9回回ったとき、視界がぐにゃりと曲がった。そして、元に戻った時、4人は横断歩道を渡る前のところに戻っていた。信号は点滅し、赤になる


こうたろう「…本当に戻った…」


あづき「すごい…」


さくま「この鍵は本物なんだね!」


えいり「これなら本当に平安時代行けるかも!」


4人は信じられないと思いながらも興奮する。こうたろうが笑顔で3人を見た


こうたろう「なぁ、明日休みだろ?俺の家に集まって過去に行こうよ!」


さくま「まじ?!ありがとう!明日暇だしちょうど良かった!」


あづさ「そっか、明日部活ないもんね!そしたら私も暇だ!」


この4人は同じ吹奏楽部に入っている。明日は顧問がコンクールについての会議があるらしく、休みなのだ。


えいり「私も明日暇だから行けるよ!」


こうたろう「よーし!決まりー!1時半集合でいい?」


さくま「いいよー!」


あづき「私も〜!」


えいり「私も大丈夫!」


明日の予定が決まり、4人は信号が青になった横断歩道を渡り、帰っていった







次の日、予定通り1時半に4人はこうたろうの部屋に集まっていた


こうたろう「今日はお父さんもお母さんも急遽仕事入っちゃって20時まで帰ってこないから余裕持ってできると思う!」


さくま「ナイス〜!」


えいり「それなら長時間いても大丈夫そうだね!」


あづき「さっ!早くやろ!」


えいり「うんうん!早くやろー!」


急かすように言ったあづきとえいりにこうたろうとさくまは驚いた


こうたろう「昨日は怖いとか不安とか言ってたのに…!」


さくま「突然どうしたんだよ?」


するとあづきとえいりはふふっと笑った


えいり「なんか昨日一回戻ったら大丈夫かも〜って思っちゃって!」


あづき「むしろ楽しみになっちゃった!」


こうたろう「なんだよ〜」


さくま「本当に昨日までのお前らはなんだったんだよ〜」


昨日と違ってのんきな2人にこうたろうとさくまは呆れる


こうたろう「まぁいいや!2人の不安も晴れたならいろんなとこ行って楽しんでこようぜ!」


さくま「そうだね!」


あづき「いつもとは違う規模の旅行だよね!」


えいり「そう思ったらワクワクする!」


こうたろう「それじゃ、行こう!」


こうたろうは机の引き出しから銀の鍵と呪文の書かれた紙を取り出した。すると3人がこうたろうに捕まった


こうたろう「準備オッケー?」


えいり「もちろん!」


さくま「オッケー!」


あづき「いつでもいいよー!」


こうたろうは鍵を回そうとした時、ハッとした


こうたろう「どこ行く?」


さくま「あー、それ決めてなかったね」


あづき「まず江戸時代じゃない?」


さくま「いいね!」


えいり「私も江戸行ってみたいかも」


こうたろう「じゃあ今度こそ!」


こうたろうは銀の鍵を見つめ、回し始める


こうたろう「オグトロドアイフゲベルフヨグ・ソトースヌガハングアイイズロフ!」


鍵が9回回った時、4人の視界がぐにゃりと曲がった




視界が戻った時、4人の目の前にはたくさんの人々がいて賑やかだった。人々の前には大きな建物があり、そこで踊ったり喋ったりしている


あづき「わぁ、すごい人…!」


えいり「あれってたしか歌舞伎ってやつだよね?」


歌舞伎とは江戸時代に流行った伝統的な演劇だ。


こうたろう「ってことはここって!」


さくま「うん!江戸時代ってことだ!」


4人は江戸時代に来たことに興奮して、歌舞伎をしばらく真剣に見た。1部が終わったところで、こうたろうは鍵を取り出した


こうたろう「次は…戦国だ!!」


こうたろうは呪文を唱え、鍵を回す。するとまた視界がぐにゃりと曲り、元に戻ると、ちょうど戦っているところだった。


こうたろう「わぁ…すご…!生は迫力がすごいなー!」


えいり「こうたろう、夢叶ったんじゃない?!」


あづき「良かったね!」


さくま「本当に迫力あるね!」


4人で興奮してはしゃいでいると、矢が飛んできてこうたろうのすぐそばの地面に刺さった


こうたろう「うわぁっ!」


さくま「こうたろう!大丈夫?!」


こうたろう「う、うん…びっくりした…」


えいり「良かった、こうたろうに刺さらなくて」


えいりはほっと胸を撫でおろした


あづき「早く行こうよ、ここにいたら危ないよ!」


こうたろう「そ、そうだね」


こうたろうは少し残念に思いながらもここにいるのは危険だと思い、鍵を取り出した


えいり「早く平安時代行こうよ!」


こうたろう「そうだね!さくまはいい?」


さくま「うん!いいよ!」


あづき「楽しみだなぁ!」


こうたろうは呪文を唱えながら鍵を回す。そして平安時代に着いた。寝殿造の建物が4人の目の前に建っている。周りには貴族の人々が詩を書いていたり、蹴鞠をしていたりしている


えいり「うわぁ!すごい!」


あづき「本当にこんな感じだったんだね…!」


さくま「静かでいいね!」


こうたろう「眠くなってきた」


あづき「しばらくしたら元の時代に戻ろっか!」


あづきの言葉に全員賛成し、しばらく貴族の様子を眺めたり、詩を書いてみたりした。


さくま「そろそろ暗くなってきたね」


えいり「戻ろっか!」


あづき「面白かったねー!」


こうたろう「面白かった!」


こうたろうは鍵を取り出した。するとある疑問が出てきた


こうたろう「戻る時って元の時代へって思ってたらいいのかな?」


あづき「そういえば戻り方教えてもらってないね」


さくま「一応やってみる?」


えいり「やってみよっか」


こうたろうは呪文を唱えながら鍵を回す。視界がぐにゃりと曲がり、元に戻るとそこには人が少なく、建物もない広い土地が広がっていた


あづき「ここ…どこ?」


えいり「わかんない…」


こうたろう「も、もう一度やってみるか」


こうたろうは再び鍵を回した。そして移動した場所は、さっきより人が少ない


さくま「ここもどこかわからない…」


えいり「ってか何時代なの?」


あづき「それがわからないよね」


4人は不安になり、顔を見合わせる


こうたろう「…みんな元の時代へ戻りたいってさっきより強く思ってみよ!」


さくま「そんなので上手くいくかな?」


えいり「私…怖いよ…」


こうたろう「でもやってみないとわからないよ!」


あづき「そうだけどさ…」


4人はますます不安な顔になり、沈黙が続いた。やがてさくまが顔をあげた


さくま「…もうここまで来たならやってみる?」


えいり「えぇ…」


あづき「マジで言ってんの…?」


さくま「こうたろうが言った通り、やってみないとわからないじゃん?」


さくまの真剣な顔を見てあづきとえいりは顔を見合わせる。そしてこうたろうとさくまに再び顔を向けた


あづさ「わかった、あと1回だけだよ?」


えいり「もしかしたら戻れるかもしれないし」


こうたろう「2人ともありがとう」


こうたろうは鍵を構えた。3人はこうたろうに捕まる。こうたろうは深く深呼吸をする。そして大きく息を吸った


こうたろう「オグトロドアイフゲベルフヨグ・ソトースヌガハングアイイズロフ!」


視界がぐにゃりと曲がる。そして、目の前に現れた風景はこうたろうの部屋…ではなく、森だった。


さくま「森…?」


こうたろう「とりあえず出てみる?」


えいり「うん…」


あづき「ここにいても何もならないからね」


4人は森の出口へ向かった。そして森を出た時、目の前の景色に唖然とした。


こうたろう「え…」


さくま「さ、猿…?」


あづき「猿にしては人間っぽいよ…ね?」


えいり「うん…普通に歩いてるもんね…」


4人は状況が把握できず戸惑っていると、前方からとある人が歩いてきた


こうたろう「あの人に助けてもらおう」


さくま「そうだね!」


こうたろうとさくまは安堵の表情になる。一方、あづきとえいりはさらに戸惑った表情だ


あづさ「え…あの人って」


えいり「うん…」


こうたろう「どうしたの?」


さくま「知っている人?」


2人がそう言った時、歩いてきた人物の姿がはっきり見えた。


こうたろう「あー!」


さくま「お前は!!」


その人物は2つのツノが生えた赤い目の少年___ワザワイだった


ワザワイ「君たち、ここまで来てたんだね」


こうたろう「ここどこなの?」


ワザワイ「ここは大体新石器時代だよ」


それを聞いて、4人は驚いた


こうたろう「ねぇ!戻り方教えてよ!!」


ワザワイ「戻り方?そんなのないよ」


さくま「えっ…ほんとに?」


ワザワイは頷いた。それを見て4人は青ざめた表情で顔を見合わせる


ワザワイ「あの鍵は過去に戻ることしかできないんだよ」


えいり「なんでそれを言ってくれなかったの?!」


あづき「そうだよ!戻れないことを知ってたら私たちここまで来てないよ!」


必死に訴える2人を見てワザワイはふっと笑った


ワザワイ「確かに言わなかったけど、君たちの方が悪いと思うよ?戻ることも考えずに得体も知らない鍵を使ったじゃん。自業自得だよ」


こうたろう「…そうかもだけど…」


さくま「とにかく助けてよ!」


ワザワイ「僕は君たちを助けることできないよ」


あづき「なんで?!」


ワザワイ「だって助け方わからないもん。しかも助ける気無いしさ」


こうたろう「じゃあこれからどうすればいいんだよ…」


するとワザワイの口元が微笑んだ


ワザワイ「君たちはこれからこの時代で過ごすしかないよ」


あづき「そんな…」


えいり「嫌だよ…!」


あづきとえいりはショックのあまり膝から崩れ落ちて泣いてしまった


さくま「な、なんとかして戻る方法探そうよ…!」


こうたろう「そ、そうだね…なにかあるはずだから…!」


こうたろうとさくまは不安を抱きながらも、泣いている2人を必死に慰める


ワザワイ「まぁとりあえず頑張って。僕はもう行くよ」


ワザワイは4人のことをよそに森へ入る。そして、わずかに笑みを浮かべた


ワザワイ「…よし、4人分の不幸ゲット…」


そう呟いてワザワイは姿を消した

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